第二話 送信しない
三年後。
俺は大学三年。
彼女はまだ海外。
連絡は、たまに。
誕生日。
新年。
どうでもいい近況。
恋人じゃない。
でも、完全な他人でもない。
俺には新しい彼女がいる。
ちゃんと好きだ。
笑うところも、怒るところも。
でも、ときどき。
駅のホームを思い出す。
あの“ちょうどいい”さよなら。
ある夜。
海外からメッセージが来る。
「来月、日本帰るよ」
胸が、少しだけ揺れる。
動揺ってほどじゃない。
でも、無風でもない。
俺はスマホを置く。
何て返す?
「久しぶり」?
「会おう」?
それとも。
送らない?
彼女から続けてメッセージ。
「会えるかな?」
ああ。
来た。
これは恋じゃない。
でも未処理でもない。
俺は考える。
さよならは未来に預けた。
じゃあ今は?
今は、現在の自分の番だ。
俺は正直に打つ。
「少しなら」
数日後。
カフェ。
三年ぶり。
顔は少し大人になっている。
でも笑い方は変わらない。
「元気だった?」
「まあね」
ぎこちなくない。
自然でもない。
中間。
彼女が言う。
「ねえ」
「うん」
「後悔してない?」
直球。
俺はコーヒーを見る。
三年前。
引き止めなかった。
あれは正解だった?
わからない。
でも。
「してない」
嘘じゃない。
もし引き止めてたら、
今の俺はいない。
今の彼女とも出会ってない。
彼女は少しだけ目を細める。
「よかった」
少しの沈黙。
「私も」
その瞬間。
ああ、終わった。
未練じゃなくて、
ちゃんと“完了”した感じ。
駅のホームの保留が、
回収された。
別れ際。
今度は練習なし。
「じゃあね」
軽い。
でも軽すぎない。
彼女は振り返らない。
俺も振り返らない。
帰り道。
スマホを見る。
新しい彼女からのメッセージ。
「今日どうだった?」
俺は少しだけ考える。
正直に打つ。
「昔の友達に会ってきた」
「ちゃんと終わったよ」
返信はすぐ来る。
「そっか」
「おかえり」
胸の奥が、静かになる。
さよならは、
未来に預ける言葉だった。
でも再会は、
現在を確かめる時間だった。
あの春のホームは、
今の俺を作る部品だった。
世界は止まらない。
でも、ちゃんと区切れる。
――続く。




