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第8話 首筋に煌めく光

 マザラン図書館はたちまち好評をはくした。毎週木曜はテュブフ館の前に知識を求める研究者、珍しい読み物を探す読書家が集まった。


 ミカの眼は相変わらず人々の首筋にさまざまな光を認めた。金、銀、黒、虹の色、中には思わず口づけしたくなるような濃いピンクまであった。ジャコブ神父はあいかわらずオレンジの煌めきを、ノーデは宝石のような青を首筋に纏っていた。


「あれが欲しい。でも、口づけたら恐ろしいことになる予感がある。私はやはり人間でないのか。

 変化があれば教えるとノーデに約束した。でも、こんなことを打ち明けて、彼は信じるかしら。

 この場所も彼も失いたくない。神よ、私に図書館の仕事を与えたなら、どうか私に強い冷静さを保たせてください」


 金曜と土曜は宰相の私邸から掃除夫のジャン少年が来て、床を磨いた。彼の首周りにエメラルドグリーンが尾を引いていた。ミカはそれが視界に入ると目が離せない。

「なんて綺麗な色かしら」

彼女は少年の首に口付ける自分を想像した。

「駄目、見てはいけないわ」

急いで目を逸らした。その態度にジャンは見下されたと思い、勝手に傷ついていた。


 マザランは図書館の盛況に大喜びし、幼い国王とアンヌ・ドートリッシュ太后を迎えた。テュブフ館に典雅な音楽が響く中、国王は血のような赤、その母は魅惑的なバラ色の光跡を残してミカの前を通り過ぎた。一緒に歩むマザランのそれは白銀である。

 ミカは目眩を覚え、そっと書庫に引っ込んだ。


 王の一行が去ったあと、ノーデは書庫で倒れている彼女を見つけた。

「何があった。私に隠し事をするなと約束しただろう」

「告げても信じないでしょう。あまりにも……あり得ないことですから」

「それがどうした。約束を破るな、ミカ」

「信じますか、ノーデ殿」

「友の苦しみを黙ってほうっておけない」


ミカは話し、ノーデは「私の首に触ってみろ、何か分かるかもしれん」と促した。

「駄目です、あなたを傷つけたくない」

「そうなりかけたら私は離れる。これは検証だ。大丈夫だ、恐れずに手を伸ばしなさい」

 彼女は決心した。手を近づけるとノーデの青い煌めきから細い奔流が指先に流れた。

 経験したことのない感触に、彼は急いで身を引いた。

「何かが移動した。君は感じたか」


「ええ、あなたから何かを吸い込んだようです。何か……」

彼女は手で唇を覆った。

「例えるなら、ガレノスの云う動物精気のような、食物でいえば蜜のような滋養を感じました。私はあなたからそれを奪った感触があるのです。ゆえに、あなたは生命の危険を感じた。それで身を躱したのではありませんか」

 ノーデは頭の中のあらゆる医学理論の引出しをあけてみたが、今のミカを説明できるものはなかった。


「ジャコブに話してもいいか」

ミカは承諾しなかった。

「もし教会が私を異端の存在と判断したら火刑に処されます。それだけは死んでも嫌です。まだ図書館の仕事がたくさん残っています。ノーデ、私を追い出さないで下さい」

「もちろんだ。首の光は幻視の類かもしれないし、人から奪う必要がなければ恐れなくていい。ミカ、不安か?」

「少し……。でも、あなたに知ってもらえた」

「今も私の首に光が見えているか」

「不思議ですね。見えなくなりました」

「そうか。また見えるようになったら教えてくれ」

「ノーデ、私が怖くないのですか」

彼は少しもという代わりに、首を振った。

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