第4話 女嫌いの司書
「これだから女は厄介だ! 男にあらゆる患いをもたらし、知性を引っ掻き回す愚かさは許し難い。図書の管理に適さない口やかましさときたら我慢ならん!」
「では『エプタメロン』を著したマルグリット・ド・ナヴァルやド・ピザンの『薔薇のことば』にも価値は無いと?」
「高貴な身分と財産を伴おうと女の本文は学才ではない」
「馬鹿らしい。私に糸紡ぎを要求しても、私は本と一緒にいます。枢機卿に任命されたのですから」
「勝手に図書室に居据わって荒らした女が何を言うか!」
「荒らしておりません。あなたこそ私の翻訳と語彙力に嫉妬しているのでしょう?」
ノーデはミカの頬を打った。ミカは下着姿で床に倒れたきり動かなかった。
「おい、起きろ。死なれたら宰相殿は私の年俸200リーヴルを減額するかもしれん! 起きろというのに」
彼は取乱していた。
「王立図書館の司書はロクに仕事しないくせに年俸1200リーヴルだ。1000リーヴルの差は何だ! なぜ貧乏は私に付きまとうのだ、くそったれ! 父が早くに死ななければ、私が弟妹を養うために医学の道を諦めることもなかったのに!」
ミカの眼に光が戻った。
「耳の付け根を打つなんて、ああ、クラクラする」
ノーデは安堵したが、同時に己の過去に苛ついた。
「お前の急所は分かったぞ」
「今のはわざと打たれてさしあげたのです。男の頑固なプライドのために」
ノーデの怒りが疼いたが、その場を離れることにした。彼は必ず読めと言って小本を修復台に置いた。
「お前に蝋燭は支給しない。今夜中にこの本を理解してなければ、猊下に言って追い出す!」
彼は図書室に消えた。黄昏の中、ミカは自分で男装を整えた。
「あいつが書いた本ね、『図書館開設のための助言』発刊は1627年。あら、私が死ぬ前の年だわ。どれどれ」
夜の間、ミカは次々とページをめくった。ワインのおかげで体調はすこぶる良かった。
「確かに猊下が認めるとおり、彼は只者でないわ。
物凄い量の本を読みこなした自信と学識に溢れている。ガリレオに賛成してるし、ケプラーにも関心がある。図書管理の考え方はハーヴェイの医学書並みにおもしろい。蔵書の価値と分類基準はしごく明確。図書館は一般公開が前提で、身元が固い人物に貸出しを許可するなんて大胆ね! 公開図書館にして、盗人が怖くないのかしら。
でも、本好きの良心を信じているなら、私がここから本を持ち出さなかったのを感謝すべきよね?」
ノーデのミカに対する要求は厳しかった。
「私の前であくびをするな。足音を立てるな。私が蔵書目録と支出明細を書く間は黙っていろ。午後の西風が吹く前に窓を閉めろ。誰が来ても会話は禁止。ペンとインクを私用に使うな。私の不在時に図書室にいてはならない」
ミカは抗議した。
「あなたが不在でも私の仕事が図書室にあるなら、時間の損失です。マザラン殿の計画通り、パレ・ロワイヤルの向こうに図書館を開設するなら、分類し目録にして書架に並べるには時間が足りません」
「無駄口を叩くな。目録作りは写本が3000冊、印刷本が9000冊残っている。棚から順番に出して、タイトルと著者、発行所、発行年、ページ数、版型、私が作成した通し番号と分類番号など、書物の情報を全て記録中なのだ。
お前の仕事は私が作った目録の正誤確認と分類ごとに棚の整理だ。綴り一つ間違えてはならん。第1書架から始めろ。梯子から落ちるなよ。骨折しても死体の治療法など私は知らん!」




