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第12回 フロンドの乱、勃発

 血気にはやる市民はフロンドという投石器でパレ・ロワイヤルやテュブフ館を攻撃し、街のいたるところにバリケードを築いた。暴徒の中にはジャック・ガルヌがいた。

 扇動者ポール・ド・ゴンディの檄文が方々で読み上げられた。暴徒は国王に面会を求め、夜のパレ・ロワイヤルに雪崩れ込んだ。就寝中だった9歳の国王は深い衝撃を受けた。


 マザランは攻撃者たちを巧妙な駆引きで切り崩す一方、翌年1月に国王と廷臣共々パリを脱出し、逆に政府軍でパリを包囲した。その間、マザランの全ての財産と図書館は高等法院議決によって差押えられ、ノーデは予定していた収集の旅を諦めた。彼は司書として戦うと決めていた。

「いいか、ミカ。逆にこの事態を利用するんだ。1冊たりとも図書館から本を出すな。貴族やブルジョアたちは機会さえあればここの本を略奪するぞ。40000万冊を守らねばならん」


 非常事態は続いた。数か月後、差押えは解除され、図書館は再開したものの、フランス各地で税撤回を求める反乱が起こり、パリは大貴族コンデを中心に再度の内乱が火を噴いた。パリは一時期戦場となった。


 マザランはドイツへ亡命した。

 ノーデとミカは再三に渡る高等法院の嫌がらせと戦っていたが、亡命先からマザランが寄こした仕事は頭が痛かった。

「ノーデ、猊下は何をお考えでしょうね。ご自分を中傷する冊子やビラ類を収集せよとは」

「それだけ勝算があるのだよ。猊下はパリを離れていても目耳をお持ちゆえ、機を見るに敏であられる。先んじて手を打っておられるだろう。誹謗文書マザリナードを集めて、後々に役立てるおつもりだ」


 ポン・ヌフのビラ売りや左岸の古書売りを訪ねるにも用心が要った。パリ市内は王の政府軍と反マザラン貴族軍、そして外国から介入を狙うスパイが互いに隙を伺っているのだ。


 ミカの俸給のワインは少なくなっていた。

 彼女はラ・ロシェル包囲戦の悲惨が訪れないよう祈った。

「猊下が戻ってくる前に図書館が襲われたら、ノーデだけは助ける。リュカ親方とジャコブ神父の手を借りてでも、彼の命を守らなくては。神よ、我らに加護を与えたまえ」


 マザラン亡命から9か月後、1651年の年末、突然図書館の売却が決まった。高等法院はマザランの首を取るための懸賞金を彼の蔵書でまかなうことにしたのだ。

 ノーデは真っ青になった。彼には売却を阻止できるだけの権限も資金もなかった。競売請負人らが蔵書目録を出せと迫った。


 精魂込めて集めた本。仮綴じの状態で購入し製本した本。遠く船旅をしてきた本。何人もの愛書家の図書室を経てきた本。この世に数えるほどしか残ってない稀覯本。完成まで1冊に3年を要する写本たち。ヴェネチアのアルド印刷所のイタリック印字の本。ジョフロワ・トーリィから始まったローマン印字の本。6年かけて集めた全てがノーデの手から滑り落ちていくのだ。

 

 彼は全財産を用意した。ミカは知っていた。彼はそれで出来る限りの蔵書を買い取るつもりだ。

 ノーデは作戦を練った。

「ミカ、私の部屋と君の部屋に医学関連の3000冊が入るようにしてくれ。私は競売前に請負人と話を付けてくる」

「分かりました。リュカ親方と天使隊を呼びます、ジャコブ神父も」

「頼むぞ」


 彼女は小箱を差出した。

「ノーデ、これを使ってください」 

「君の財産は駄目だ。私のものではない」

「競売目録の中にハーヴェイの本がありますね。腕の静脈イラストが挟んであるあの本とグーテンベルク42行聖書を競り落とします。南ドイツの思い出のために」

 ノーデは小箱の中を見て、足りるだろうかとため息をついた。

「ハーヴェイのはともかく、42行聖書は競売で愛書家の的になるかもしれない」

「踏んばります」

「よし、やれるだけやろう」

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