第5章 舞踏会の夜
煌びやかなシャンデリアの下、華族学園の大広間は春の香りと緊張で満ちていた。
ドレスやタキシードに身を包んだ生徒たちが次々と入場し、優雅な旋律に合わせて挨拶を交わす。
その中心に立つ怜は、純白のドレスに包まれてひときわ輝いていた。
「さすが涼さん……理想のお嬢様だわ」
「今日の主役ね」
囁きが飛び交う中、怜は微笑みを絶やさずに歩みを進める。
――だが、胸の奥に冷たい不安が広がっていた。
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舞踏会が進む中、怜は一度会場を離れた。
人混みから離れ、静かな廊下に出たその時。
――ふと、男子トイレの方へ足を向けてしまう。
「……っ!」
気づいて踵を返した瞬間。
「待ちなさい!」
鋭い声が廊下に響いた。
振り返れば、そこに立っていたのは琴葉だった。青のドレスが揺れ、視線は怜を射抜いている。
「さっきも……見間違いじゃなかったのね。あなた、男でしょう」
廊下のざわめきが広がり、周囲にいた生徒たちが集まってくる。
「どういうこと?」「男子トイレ?」と疑念の声が飛ぶ。
怜は一歩後ずさった。
だが次の瞬間、きっぱりと顔を上げる。
「……僕は――」
声が震えそうになるのを堪え、怜は言葉を選ぼうとした。
けれど、琴葉の声がそれを遮る。
「ここにいる“涼さん”は偽物です! 本当の令嬢じゃないわ!」
会場の空気が凍りついた。
怜の視線の先で、涼が駆け寄ろうとする。
だが、すでに場の注目は怜へと集中していた。
煌めく夜会の中で、双子の秘密は白日の下にさらされようとしていた――。




