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第4章 舞踏会の準備

 華族学園の春の舞踏会は、一年で最も格式高い行事とされていた。

 代々続く名門の子女たちが集い、立ち居振る舞いを披露し、縁談や家同士の交流が進められる大切な夜――。


 廊下の掲示板に貼り出された告知を見て、涼は思わず息をついた。

「うわぁ……また面倒そうなの来たな」

 男子たちと気楽に過ごす今の生活に慣れた彼女にとって、舞踏会の厳粛さは重くのしかかるものだった。


 一方、怜は淡々とスケジュールを確認している。

「姉さん、心配しなくても大丈夫。舞踏会は僕が“涼”として参加するから」

「でも……怜ばかりに負担かけてごめん」

「気にしないで。僕の方が得意だから」


 怜はそう言って微笑むが、その指先はほんの少し震えていた。

 完璧に令嬢を演じ続けることへの疲労は、少しずつ積もっていたのだ。


 準備期間に入り、学園はどこか浮き足立っていた。

 礼儀作法の特別講義、衣装の採寸、パートナーを選ぶための顔合わせ――。

 廊下には華やかな笑い声と緊張が入り混じっていた。


 その合間。怜は書類を抱えて廊下を歩いていたが、ふと迷って男子トイレの前に足を止めてしまった。

「……あっ、違った」

 慌てて踵を返す。


 その背中を、遠くから琴葉が見ていた。

「……今、あの子……?」


 眉をひそめたものの、怜が何事もなかったように歩き去ると、琴葉は小さく首を振った。

「気のせい……よね」

 だが、心の奥に違和感の種が残る。


 舞踏会用のドレス試着の日。

 真っ白なドレスに身を包んだ怜は、控室の鏡に映る自分をじっと見つめた。

 ――自分は本当に“涼”を演じきれているのだろうか。


 そこへ、琴葉が姿を現した。淡い青のドレスに身を包んだ彼女は、息をのむほど美しかった。

「……首席さん。あなた、また注目を集めるんでしょうね」

「僕は、ただ……できることをしているだけです」

「そう。その“自然体”が一番憎らしいのよ」


 言葉とは裏腹に、琴葉の視線は怜から離れなかった。

 ――苛立ちと、説明できない惹かれ。

 それが、舞踏会の夜に向けて少しずつ膨らんでいく。

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