第2章 華族学園での日常
華族学園の一日は、朝の礼拝から始まる。
格式高い講堂に整列した生徒たちの中で、怜はひときわ目を引いていた。
背筋を伸ばし、静かに祈りを捧げる姿は、誰もが思い描く「理想の令嬢」そのもの。
「怜さんって、本当に綺麗ね」
「声まで澄んでいて、まるでお手本だわ」
ひそひそとした声が周囲から漏れる。怜は特別なことをしていない。ただ自然体でいるだけなのに、評価はうなぎ登りだった。
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一方その頃。
男子制服を着た涼は、裏庭で男子生徒たちとバスケットボールをしていた。
軽やかなステップに、鋭いシュート。男子たちが「お前、すげえな!」と歓声を上げる。
――自由で気楽な時間。涼の顔には、久しく見せなかった解放感が浮かんでいた。
「……ふん、あれが“弟”ね」
偶然その場を通りかかった琴葉は、男子に混じって汗を光らせる涼を目にし、思わず足を止めた。
規則正しく、礼儀正しく育った自分の世界では考えられない奔放さ。
――だが、不思議と目が離せなかった。
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昼休み。
食堂では、怜の席に自然と人だかりができる。お弁当を広げると、女子たちが声をかけてきた。
「怜さん、お料理も上手なんですね!」
「まあ……少しだけ練習しているだけです」
にこやかに返す怜に、さらに黄色い声が飛ぶ。
――その光景を、少し離れた席から琴葉が見つめていた。
(どうして……あんなに自然でいられるのよ)
自分は完璧を積み上げることでしか評価を得られなかった。
けれど怜は、特別な努力を見せることなく、当たり前のように注目を集める。
「……首席の座だけじゃないのね」
小さく呟いた声は、誰にも届かなかった。
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午後の授業。
怜は先生の質問に落ち着いて答え、クラス全体を引きつける。
一方、琴葉はノートを取りながらも、隣の席に座った涼に視線を向けた。
「……あなた、ずいぶん楽しそうね」
ふいに琴葉が声をかけると、涼はペンをくるくる回しながら笑った。
「ん? まあね。男子って、案外気楽でさ」
「礼儀や格式を軽んじるのは華族として恥ずかしいことよ」
「でもさ、肩肘張ってるより楽しいだろ? 俺はそっちの方が好きだな」
さらりと放たれた言葉に、琴葉は口をつぐんだ。
――なぜだろう、彼の無邪気な笑みに一瞬だけ心を揺さぶられてしまった。
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放課後。
怜が廊下で女生徒に勉強を教える姿を見て、琴葉はまた唇を噛む。
(……あの子も、この子も。どうして誰もが双子に惹かれてしまうの)
苛立ちと戸惑い。
そしてほんのわずかな、説明できないざわめきが、琴葉の胸に芽生えつつあった。




