第10章 転機
昼下がりの講堂。
生徒会主催の討論会が開かれていた。テーマは「華族としての誇りと責任」。
全校生徒が見守る中、壇上に上がった怜の姿に、ざわめきが広がった。
「偽物が何を語るのかしら」
「華族を名乗る資格なんて……」
容赦ない声が飛び交う。怜は視線を落とし、胸に抱えた原稿を強く握りしめた。
司会の声が響く。
「それでは、涼さん。ご意見を」
一瞬の沈黙のあと、怜は顔を上げた。
「……僕は“涼”ではありません。双子の弟、怜です。それでも、姉を守りたい一心でここに立っています」
ざわめきがさらに大きくなる。非難の視線、嘲笑、疑念――そのすべてが怜を突き刺す。
「やっぱり偽物じゃない」
「恥を知るべきだわ」
怜の指が震え、言葉が喉に詰まりかけた、そのとき――
「やめなさい!」
強い声が講堂を揺らした。
立ち上がったのは琴葉だった。誰もが注目する中、彼女は毅然とした足取りで壇上へと歩み寄る。
「この人は偽物なんかじゃない。皆が見てきた“涼さん”は、怜そのもの。優しくて、努力家で……誰よりも人を支えようとする、本物の人間よ」
会場が凍りついた。
断罪した張本人が、今度は真っ向から怜を庇っている。
怜は目を見開き、声を震わせる。
「琴葉さん……」
「勘違いしないで。私は正しいと思ったから言っているだけ。……でも、もう目を逸らさない。あなたを見てきた私が、そう思うのだから」
その言葉に、怜の胸に熱がこみ上げていった。




