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魔法つかいピンク

作者: あまなす

暑くて暑くて涙が出ちゃうよ、ナツカの目に涙は、たまってなんかなくて、表情だって、切羽つまったものではない、ただ、いまの心情を、涙、という単語に込めて表現したにすぎない、ちょっとばかり大げさに


早く涼しくならないかなあ


言葉にしてみたところで、涼しくなんてならない、涼しくなったからといって、何がどうなるのでもない、涼しくなっても、意中の人物が振り向いてくれるわけはない、ナツカだってそんなこと、承知してはいる、けれど、涼しさを待ちわびないわけにはいかない


四年前までアイドルだった、ナツカみずから望んで目指したアイドル、なれた当初は、うれしさのあまり飛び跳ねんばかりの思いだった、けれど、だんだんと気づいていく、普通、ではないことへの違和感


普通ってなんだろう?


学校に行かず、スタジオに行く、歌を歌って、踊って、苦しい思いをして、笑顔で、華やかなステージに立って、ときどき学校へ行く、学校は憂鬱だった、まわりと、まったく話が合わなくて、そもそも、友だちなんて、いなかった


普通ってなんだろう?


自分にとっての普通は、こういうことなのかな、学校に行かないことが、ステージに立つことが


それが、普通?


結局、六年ほどでやめてしまった、そのあたりの時期、アイドルが解散するのが流行った、たんに、そういった波が偶然にも一致したにすぎない、最後のステージ、立ち込めるスモークとともに、ナツカたち三人グループは、少なくない人たちの前から消えていった


魔法つかいの生活は楽しい、アイドルも楽しかったけど、いまも楽しい


普通ってなんだろう?


いま、ナツカにとっての普通は、大釜いっぱいに妙な色をした霊薬をつくってみたり、夜、黒ねこにつき従い、わけもなく街をさまよってみたり、望遠鏡をのぞきこんで次の季節がやって来てるかどうか観察してみたり、なのかな、ほうきにまたがって空を飛ぶのは、もう少し、先になりそう、それらは、アイドルだったときには経験できなかった、戸惑いや苦悩は、当然あるけれど、それでも、やっぱり楽しい


今夜も、ナツカは、黒ねこのあとを、楽しそうについて歩く、アイドルをやめたあとピンク色に染めあげたナツカの長い髪が、闇夜に、あやしく、とけていく


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