僕は君を殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、そして愛してる。
「突然だが、君には死んでもらう。──僕に殺されてもらう」
僕と彼女の他には誰もいない昇降口。今にも暗くなる斜陽の光が、暁に照らしている。
こんな時には、自分の声がよく響いた。
眼前にいる少女は、桃色ストレートの髪をした女子高校生は──やはり、唖然としたような表情をつくっていて、
「……え?」
そう、短くリアクションされた。
「えーっと、誰だっけ?」
そして、次に出た言葉がこれだ。
「…………」
あれ。
あれ?
ちょっと待ってくれ。ゲームでいう、『一度停止』させてくれ。
聞いてないぞ、こんな展開。
カッコよく、ミステリアスに──この世界を始めようとしていたのに、この展開は聞いていない!
「同じクラスだよね……、名前は覚えてないんだけど」
「し、東雲翼。僕の名前だよ。姫様」
「はあ」
思わず自己紹介をして雰囲気を崩してしまったので、戻すことにしよう。
咳払いして再開する。
「でさ、聞いた? 聞いてた? ──僕は君を」
「殺す、だっけ?」
それは酷く冷淡とした、起伏のない一言だった。違和感。なんでそんなにも感情の起伏が薄いのか。
「……そうだ」
まあ、首を縦に振るしかないな。
「衝動的で無差別殺人? それとも私を狙った計画的な?」
「え?」
何でそんなこと聞いてくる?
「答えてよ。それとも、これから殺す人には答えたくない──?」
「……計画的だよ」
なにしてんだ、自分は。
何で答えてるんだ、僕は。
「へえ。計画的殺人。じゃあ普通の殺人より罪が重いね」
そうなのか。そうなのだろう……。
「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する──」
「ん、何だそりゃ」
「第二十六章、第百九十九条だよ」
もしかして六法全書の文章か?
は、おい、待て。──僕は彼女に殺害予告をした覚えはないし、いまこの瞬間、彼女が何かを見て発音していた仕草もない。
つまり、覚えていたのか……?
新発見だ。
彼女は、
僕がこれから絞め殺す彼女が、
───歩く六法全書だったなんて!
「ごほん」
二度目の咳払いをする。
「先払いはさっきしてもらったけど」
「ん? さっきもコレも、先払いじゃなくて──咳払いだよ!」
「あれ、勘違いかなあ」
くそう、相手のペースに飲み込まれてる。
こんな筈じゃなかったのに……流石だ、一筋縄ではいかないか。
この高校の大人気少女『姫楽々(ひめらら)ユミ』。
姫様という愛称で呼ばれる彼女を打ち倒すのは、やはり中々に難しい。
「で、何の用だっけ東雲くん。関係ないけど……私の親は警察官」
「……」
追撃が来やがった。
やばい。調査不足。
知らない情報の傍流、このままだと押し負ける!
「えーと」
どうすればいい。
シノノメ、考えろ。
万策はまだ尽きていないはずだぞ。
「でもいくら警察官つっても、今この場にはいないだろ。つまり君は逃げれない」
いや、でも待てよ? よく考えろ。
確か姫様は。
「私、これでも陸上部のエースなんだけどなあ」
そうだった。
ついでに県大会は軽く優勝していた。……あれ、何で僕は彼女に殺害予告なんてしたんだ。
勝てる未来は一切見えないってのに。
「あのさ」
「なにかな」
「今から前言撤回とか可能かな」
「……無理かな」
『かな』というのは終助詞の一つで、感動や詠嘆を現すのだっけか──古典の授業でやったぞ。
最も、この瞬間は現代であり、古典ではないのだが。
「あー」
全てを悟る。
いや、物語る。──しかしながら、誤魔化さずに言ってしまえば、この展開は最初から分かっていたのかもしれない。
無謀だと脳裏では考えていたのかもしれない、いや、そう信じていた。姫様と学校内で呼ばれる高嶺の花は、僕なんかに揺られたりしない、と。
「分かった? 全部、理解した?」
「うん───これから先の物語を悟った」
「因みに聞いておくけど」
どんとこい。もう何でもいい。
「どうやって私を殺そうとしたの? 刺殺? 銃殺? 撲殺? それとも、社会的抹殺?」
「……」
どちらかというと。
「どちらかというと、社会的抹殺であり、絞殺だな」
「社会的抹殺であり、絞殺?」
僕の言葉を復唱し、不思議がる姫様。
「そりゃあ考察しがいがありそうな、殺し方だね」
「そんなことないさ」
「へえ、なんで?」
「これは実に単純で、安直な気持ちだから──」
「はい?」
よし。
「すぐ分かるよ」
よし、決めた。
実行するなら今だろう。
彼女には逃げられるかもしれない。
もし、その時はその時で──構わない。重い足取りながらも、だが僕は一歩を踏み出す。
「……っぁ」
息を吸い込む。
姫楽々はもちろん、危険を察知して逃走するだろうな。
──でもせめて、締め殺されるまでいかなくとも、聞いてほしい。
一歩踏み出して、頭を下げる。
頭を下げて、右手を突き出す。
「……ずっと前から君のことが好きでした。殺したいほど、運命の赤い糸で締め殺すぐらい──好きでした。一目惚れしました」
足音は聞こえない。
「お願いします、付き合ってください!」
「……え?」
ふと、聞こえた。
逃げているだろう。既に目の前にはいないだろうと思っていた。
だというのに、声が聞こえた。
これこそ本当に、唖然としたように。
「え?」
同じリアクションを自然と取ってしまいながらも、顔を上げた。そこには両手を広げた状態の──姫様がいて。
姫楽々がいて。
……あれ? 何だこの状況。
「こ、告白? わ、わわ、この私にっ!?」
「急に殺すとか言ってごめん。でもそれぐらい、僕の愛は重くキツく、重大だったんだ。驚かせて──本当にごめん」
逃げてなくて良かった。
……だがまあ、あの感じだ。
告白は──、
「も、もちろんもちろん。シノノメ様と付き合えるのなら、なんでも! 喜んで!」
玉砕するだろうな。
って、……なんだって?
「は、あれ。おかしい。東雲様? 喜んで? おかしいな。君は僕のことをさっきまで、知らなかった、忘れていた筈で……」
違和感(2)。
うむ。フラグは立った。どこからか現代最強が現れて、僕に紫色の光線を放つに違いない。
そうして東雲慎也の人生は幕を閉じるに違いない。
でも、現実はそう上手くいかないのが定石でもあった。
「さっきは恥ずかしさと動揺を隠すために──演技してて、実は実は、前から、昔から……東雲くんのことが大好きで!」
「あ、あれえ?」
台本と違う。おかしい。
……台本なんてのは、最初からないけどさ。にしても、えぇ?
昔から好きって──僕は君と高校に入学してから、初めて会った筈で。そこから僕は君に一目惚れをした筈で。
「小さい頃、よく一緒に遊んだよね!」
「あ、あれえ?」
「──東雲くんの好きな食べ物は『焼きそば』で、嫌いな食べ物は『焼きそばパン』!」
よくご存知で!?
「それとそれと、お母さんのことが大好きで──」
「まあ、お母さんラブだからな。僕は、君の次ぐらいに……」
「でねでね、それでね! すっごい包茎なの!」
───ん?
「ちょっと待て。いまのは流石にツッコミを入れざるを得ないけど、どこで知ったそれ!」
「え? 一緒にお風呂入ったじゃん、東雲くんのお家では。遊んでたじゃん」
待て。
僕は小さい頃、幼女とお風呂タイムなんてした覚えが───いや待てよ。
思い当たる節がある。
小学二年生の時に一回転校した──ヒー君だ。
そういえば、彼とはよくお風呂に入ってたし、小さい頃だったから、よく覚えていないし。
「まさか、ひー君?」
「そうだよ!」
ええええええっ!?
本当にあったんだ。こういうラノベ展開──まじかよ、これにはいくら自称、未来予測の天才(誰にも呼ばれてはいない)僕でも感嘆しか出てこない。
幼馴染の可愛い少年、実は女の子だった。
まじか。
これで一本書けるな。
つっても、こんなネタ……今どき、そこら辺に転がってるぐらいありふれた物だけどさ。
ともかくだ。
「まじ?」
「じゃ、ほら早く」
すっかりハイになっている姫様……いや、幼馴染のひー君、いや、ひーちゃんは──僕の手を引いて、笑う。
「な、なにさ」
「早く行こうよ」
「一体どこに?」
「ホテルだよ」
この下りが何回目かはともかく、言わせてもらいたい。──待ってくれ、と。
「あのさ、これは官能小説じゃなくでだな! 気持ち嬉しいが! ……まず早すぎるし、垢BANされちまうだろ!」
「何言ってるの?」
確かに、垢BANとか──何の話だ?
しかし、『それについてじゃなくて』と前置きする彼女。
「これはね、神を呪うと書いて、神呪小説だよ!」
「無理矢理だ!」
無理矢理すぎる、随分と。
「ともかくねともかくね、私はいまとてもハッピーな気分だよ!」
昇降口から無理矢理、強制的に連れ出され、校門まで来たあたりで、幼馴染はそう言った。
満面の笑みで、屈託のない笑顔で。
あれ。一応これって。
「僕も幸せな気分だよ」
これって、付き合った判定で──良いんだよね?
「これからよろしくね。東雲君、孫の代まで呪ってあげる!」
「え?」
「間違えた! 東雲君の食事排泄お風呂睡眠、様々に──色々と手伝うよ!」
何を間違えたんだろう。
「へ、へえ」
にしても。
重くないか……?
「もし浮気をした暁には」
「暁には」
「往復ビンタ八億回やって、私との情熱的な愛を思い出させてあげるから! 覚悟しといてね!」
なんだろう。
重過ぎないか!
「……は、はは」
桃色。
ピンクの長い髪を夕暮れの風に翻しながら、ひーちゃんは宣言した。まあ、重いとは言ってもね──当然だろう。浮気なんてしないぜ。
以ての外さ。
「取り敢えず」
取り敢えず、デートの予定でも立てるか?
「うん」
「今日は私のお家で、一緒に寝よっか!」
……やはり、愛が重すぎる!!
別に良いが。
僕はとても勘違いしていたかもしれない。──運命の赤い糸で締め殺されるのは、愛で締め付けられ、絞殺されるのは、彼女の方ではないのだ。
そう。
東雲慎也。
加害者と思っていた僕こそが、彼女に愛で締め殺される被害者側だったのだ──。
なんちゅータイトルしてんだ!
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作者の『君とランデヴーで推理しろ』の方もよろしくお願いします。こんな会話劇のエセミステリー小説です。
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