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第七話

お蝶はそれを聞くや否や、銀次に先に行くように伝える。そして「治療は要らねえですよ」と言っているサムライ風のプレイヤーに懐から取り出した薬をぶっかけると、俺に


「早く奥の部屋へ!隠れておいてくれ、アイツらはそっちまでは行かせねえからよぉ!客人に指一本手ェ触れさせねえからなァ!」


ヤダ、イケメン。

切長の綺麗な目で真剣に言われるものだから、まるで女の子のようにときめいてしまった。俺も手伝うと言いそうになったが、初心者に出入りは足手まといだろう。


俺はとりあえず奥の部屋へ向かう。幡随院は回復したサムライ風のプレイヤーと共に庭の方へ走っていった。


奥の部屋は、黒漆喰(くろしっくい)が塗られた仏壇と線香の匂いが漂っていた。庭先の方で、激しい剣戟(けんげき)と喧騒が響いているが、こっちまで人が来る様子はない。


それにしても急な出入り、こっわ。侠客同士の喧嘩でもデスペナルティがつくだけらしいんだが、それでもこっわ。俺、ド初心者一般人なんですけど……


俺は怖がりながら、仏壇を覗き込む。

中年まで行かないぐらいの見目の良い男の写真が写っていた。御供物も新しく、線香もキチンと火がついたまま。


戒名が小さく見えなかったが、幡随院の先代だろうか。大事にされた親分だったんだろうな。


俺も傍の線香をあげ、ゆっくりと手を合わせる。奇縁だが、これもまたご縁だろう。アイツらがどうぞ無事でおりますように。


その時、ガラリと締め切ったはずの部屋の(ふすま)を開く音がした。振り返ると武装した冒険者風の男が1人。手に大きな斧を抱えている。


「貴様……幡随院一家のモンだな……」

「いや違いますけど……」

「あ、そうですか。すいません」

「いえいえ」


男はそのまま襖を閉めて、

 

「……では失礼……んなわけあるか!!!」


勢いよく開いた。非常にノリツッコミのキレが良い御仁だ。芸人になれるよ君。いや、俺も間違ったことは言ってないんだけどね。


「こんな奥まった所に引っ込んでるってことは、幹部クラスの大物か!?万年Dランク冒険者の俺も手柄のチャンスだぜ!!」

「いや、違うけど」


そうか。冒険者もランクがあるんだな。上のランクも下のランクも全然わからないけど。


俺よりはるかに強いんだろうなぁ。としみじみ考えていたが、俺はこのゲームに来てから緊張感を失っている気がする。痛覚無効でもなんでもないのに。


Dランク冒険者は、大きめの斧を振りかぶりながら右足を踏み出す。袈裟斬りに振り下ろすモーションから、俺は避けようと上体を斜めに倒して

 

「ディバインスラッシュ!!」


冒険者はそう声を張り上げると、振り下ろすスピードが段違いに跳ね上がった。俺は倒しかけた上体を前に転がるように避ける。


むっちゃビビった。なに今の!?

なんかスキル名言いながら動くと強くなるやつ!?

運良く今のは避けれたが、すごいな。スキルっていうのは技のキレとかが良くなる効果があるらしいが、うーん、でもすごく


「……ダセェ」

「あ?」


やべ。声出ちゃった。

だって小学生じゃあるまいし……イタイじゃんそういうの。大人になって、真顔で技名叫ぶなよ。

無詠唱とかでできないの?そういう仕様?


「バカにしやがって!!!」

「いや!ご、誤解です!!」


Dランク冒険者は、側から見てもわかるぐらい激怒し、ところ構わず斧を振り回す。

 

「ディバイン!ディバイン!ディバイン!!……ハァ……ハァ」

「スラッシュどこいった!?」


俺もなりふり構わず避けていた(命懸け)が、この人、すごく下手くそなのでは……?キレがいいのはノリツッコミだけかよ。俺がジト目を冒険者にぶつけると、今度こそブチギレたみたいで、


「食らえ……奥義、フルディバインスラッシュ!!!」


大上段に構えた斧を力任せに振り下ろす。閃光が瞬くと、部屋の隅に逃げ込んだ俺の方ではなく、仏壇の方に派手に衝撃波が。


ガッシャァァン!!!


衝撃波は仏壇の真ん中に切れ込みを入れ、装飾を四方八方に跳び散らかした。


「クソッ!外したか!!」


ディバインが悪態をついている。

俺の足元には衝撃で転がってきた遺影。手に取ると、写真は真ん中でひび割れてしまっていた。


「……オイ」

「ァア!?コソコソと逃げ回りやが……」


俺は、後ろ回し蹴りをそのクソ野郎の土手っ腹にぶち込んだ。ゲヒッと声を上げながら冒険者は(ふすま)を倒しながらすっ飛んだ。


(ふすま)が倒れると何人ものNPCやプレイヤーが手に武器を持ち、こちらに踏み込もうとしている。


「な、なんだ!?」

「ど、どうした」


ゴブリンや、スライムの時とは比べものにはならないほど、そして、さっき巻き込まれた喧嘩の時よりも、本当に体がよく動く。


多分、このパンゲアに慣れてきたんだろう。それに、動画サイトで武術を見まくったり、独学で体術勉強しててよかった。相手の動きも見えるようになってきたし、自分の体の動かし方も段々わかってきた。


今の俺なら、行ける気がする。

俺は混乱しているソイツらを見てニッコリ笑った。


「……テメェら、仇だかなんだかしらねぇが……ひと様のホトケさんに手ェ出すようなカス野郎、このまま帰れると思うなよ」


仕事のストレス発散に付き合ってもらうぞ。




庭先では、でっぷりと肥えた体躯を愉快そうに震わせている新場大安とその一家がボロ雑巾のようになった幡随院たちを見下ろしていた。


「……ェい、銀次ィ、生きてるか……」

「……申し訳ねぇお嬢……」


銀次は這いつくばりながら、お蝶を(かば)おうとしている。その姿をさも可笑(おかし)そうに新場は笑った。


「不甲斐ないですなぁ!あの幡随院一家ともあろうものが、たった五十人かそこらの出入りでこのザマですか!」

「……うるせぇ課金豚……金に物言わせやがって」

「何とでもいうが良いですよ……!どんなお気持ちですかクソガキ?」


お蝶が全てを射殺す目を新場に向ける。

それを受けても新場は平然とその腹を揺らした。


幡随院一家はこの時、手勢二十人。他の者はまだログインをしていなかったり、他所に出かけており、留守番役としてその半分が戦闘をあまり得意としているメンツではなかった。


それに対して新場は、どこからか名うての猛者をかき集め、一家も総動員をかけることにより、普段の何倍もの頭数を揃えて出入りを敢行した。


先に攻め込んだ若い衆が、幡随院の若い衆を人質に取り、幡随院一家最大戦力であるお蝶と銀次を抑えたことも大きい。


全てが終わったと感じた新場は、お蝶と銀次を縛り上げるよう命ずると、その屋敷を自分のものにするべく歩を進め、その顔面に飛んできた瓢箪を食らった。


「ブヒッ!?」


痛みに喘ぎながら、新場は「何の真似しやがる!」と怒声を上げた。


顔を上げると縁側の向こうの襖が踏み倒され、その奥から、暗がりにうっすらと誰かがいる。それがこちらに向かってくると、新場は慌てたように


「おい幡随院、あれは誰だ!」

「……し、知らない……」


屋敷の主であるお蝶も、それが誰なのかよくわからなかった。ゆっくりと、庭先の明るみにそれが照らされる一瞬、それの後ろから「この野郎!!!」と冒険者の男が襲い掛かった。


だが、その冒険者は顔面をしこたま殴られると襟首を掴まれ庭先に放り投げられた。


中から出てきたのは、仁王立ちをした男。その鋭い目で新場を睨みつけた。新場は投げ込まれた冒険者が、自身の一家の身内だと気づくと


「コレが新場の身内だと知ってのことですか!?」


と、叫んだ。

その男は、ゆっくりと口を開く。


「……しつけのなってねェクソガキどもはァ、テメェんとこのクソガキか親分」


新場のプレイヤーの1人が即座に飛びかかった。手にした日本刀を逆袈裟に切りつけようと刀身を閃かせる。


男は一歩踏み込むと、切り上げてくるプレイヤーの手首を左足で踏みつけ、そのまま勢いよく下に踏み込んだ。


「グッ!?」


そのまま、押し込んだ左足を軸に体を捻ると、プレイヤーの顔に右拳をぶち当て振り抜く。プレイヤーの体が、そのまま新場の真横を勢いよく通り過ぎて壁にめり込んだ。


男は「どいつもこいつも行儀が悪りぃな」と言いながら庭先に降り立つ。その顔が日の下に晒されると、新場の1人がワナワナと声を上げる。牢名主と呼ばれた男だった。


「お、親分!!こ、こ、コイツは大前田んとこの者ですぜ!!?!!?!!」

「なっ……大、前田だと……」


 男はカラカラと笑う。


「テメェら全員といまここでやり合っても良いが……どうする新場の親分さんや?……聞けば、この幡随院と新場の一件、ただの出入りってわけじゃねぇんだろう?俺が預かってもいいぜ」


新場はその言葉を聞くと怒りに震えたが、すぐに頭で算盤を弾き始める。


「……噂に聞く大前田と争うのは得策じゃありませんが……首を突っ込まれたぐらいで、ハイさようでと手を引く訳にはいきませんからね……ですがこんな事で、大前田一家と事を構えるわけには行きませんので、よござんしょう、明日の昼までです。出入りは私らが勝ってんですからね、昼を過ぎればこの屋敷はいただきますから、そういうことで、幡随院一家を納得させてくださいよ。」


新場は渋々と一家を引き連れ、壊された幡随院家の門から出ていく。それを見届けると、男はいつもののんびりとした顔に戻る。


庭先で転がったまま唖然としているお蝶と銀次を見ると、困ったように頭を掻きながら言った。


「なんかごめん」



御厄介になりますが、何かございましたらご連絡ください。


一日一話、更新は昼の12時頃でございます。


どうぞよろしくお願いいたします。

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