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第五話

フンドシ一枚に手ぬぐいを突き刺し、瓢箪を抱えながら俺は歩いていた。町にたどり着く前に死んだ回数8回。貰った衣服はなくなった。


奇跡のフンドシ男、再誕である。

どうしてこうなった。



思い返せば英五郎と別れてから、しばらく歩いていたらスライムに出会った。町に向かう道筋にはそんなに対した魔物は出ないって聞いていたから、案の定だなと。


スライムくんには悪いが、こちとら侠客背負ってんだ。

俺の拳の糧になってもらうよと、ぴょこぴょこ跳ねてるスライムくんめがけて拳を振り下ろしたんだが。酒呑童子をぶん殴った時のような勢いなんて、まるでなく。


むしろ体が凄く重い。スライムくんは、ぴょこッと避ける。俺のヘロヘロパンチはかすりもしなかった。


なんでだ?と思いつつも、俺は何度か拳を振り上げたり、蹴りを入れようとするが結果は同じ。あり得ないぐらいに体が重い。


何十回目かで、ぜーはー呼吸を荒げながら、ようやっと当たったと思ったら、ぽよんと音がした。

スライムくんの体に、俺の拳がはじかれた音だった。


そこでようやく気付いた。


「よっっっっわ!?」


酒呑童子殴った時の俺、何だったの!?え、なんか超次元モードにたまたま入ってたのあれ!?これが本来の俺の力なの!?


思い返せば、気絶する前にアナウンスが流れてたと思うけど。ステータスも見えないし確認する術もいまはない。


俺が混乱しながらスライムくんとぽよんぽよん格闘しつづけること数十分。後ろから襲ってきたゴブリンくんに首を切られて死んだ。死ぬときって、眠るときみたいに意識を失うんだよ。知ってた?


デスペナルティで15分間ほど、現実世界で反省会をしつつ、スライムの倒し方を調べたが。「初心者でも簡単!」「手を突っ込めば勝てる!」と書いてあって苦戦してるやつはいなかった。


泣きそうであった。


俺は俺自身の力にへこたれながらも、死んだ場所にて生き返る。デスペナルティは現実で15分。パンゲアでは1時間ほど。所持金が3分の2減るし、インベントリのアイテムはランダムロストするらしい。体力ゲージも半分ほどで戻るらしいが。


財布に入れてた、英五郎にもらった小銭も確かに減ってる。インベントリなんてないから持ってるものはなくなってはいないし、ゲージも見れないからわからないが。


俺はとりあえず、歩き出しながらスライムに出会ったら枝でも突き刺してやろうと決心した。


しばらく歩いていると、スライムくん。いたぞ。

俺は足元の枝を拾う。さぁ、再戦と行こうか!




現実世界で何度目かの反省会を開いていた。今日が休みの日でよかった。寝てる最中にこれだったら俺は仕事に行けないよ。


枝で刺そうとしても俺の動きが遅すぎて当たらない。

そもそもスライムって結構早い(当社比)から、掴めないし。


最弱すぎる。あの意気揚々と「行ってくるぜ!」とイキってた俺。こんなんじゃ、旅すら満足に行けないじゃん。


途中からスライムに仁義切り出したからね。「お控えなすって!」って言ったら、酸の溶解液浴びせられたうえに、動けないところをどこからか走ってきたオークに潰されたんだけど。溶解液って、結構痛いんですよ。……なんか俺に恨みでもあんのか?


まぁ、倒しに来てるからあるか。


世知辛い。あと、溶かされたせいで服も溶けちゃったし。服は戻らなかった。フンドシと瓢箪だけは残った。

 

ようやく、町の入り口が見えたときには、俺は、フラフラと彷徨い歩くフンドシ一枚の変態である。見ろ!あれが町の灯だ!と叫んで走りだしそうになったが、そこらへんにいたスライムに足を取られて転ぶ。そのまま泥沼の殴り合いをしていたら、脇を通った他のプレイヤーパーティに


「え‥‥なんかフンドシ一枚の変態がいる」

「スライムで遊んでる露出狂かな。通報しとく?」

「でも、顔がマジだよ。いや、パンチの動きおっそ」

「センスなさ過ぎだろwwwww」


俺はスライムに顔を殴られながら、酷く惨めになった。体の痛みと心の痛み。いまは心の痛みの方がつらいです。



町の入口は少しだけ列ができていた。

ボロボロのフンドシ姿の俺は、ここに並ぶことに戸惑ったが、意を決して並ぶ。


周囲のプレイヤーの視線が痛い。

なんかこう、こいつには話しかけちゃいけないんだなみたいな雰囲気を感じる。


誰か話しかけてよ。

もうツッコミ待ちだよ。その願いもむなしく、ドンドンと列は進み、俺の番が近づいてきた。


俺の前のプレイヤーが、屈強そうな番兵に話しかけられる。


「冒険者かい?冒険者カードか、関所札を見せて」

「はい」

「はいよ‥‥今日もお疲れさん、サリバン組長さんによろしくな」

「はい!」


え?カード?関所札?そんなもの必要なんて聞いてないんだけど。英五郎のオヤジ、なんも言ってなかったけど。


……関所を許可なく抜けた時って、これ、悪名高き「関所抜け」の大罪になるんじゃなかったっけ。あれ、それ打首では?


そうこうしているうちに、俺の番になる。

屈強そうな二人の番兵は警戒心をあらわにしながら、俺に詰め寄る。


「なんだお前は。プレイヤーだろ。」「冒険者か?」「札は持ってるのか?」


俺はフンドシと手ぬぐいを握りしめる。

瓢箪がカランと音を立てる。


「え、えーーーと」


あのクソオヤジ許さねぇ。

俺は打首になる想像をしつつ、しどろもどろになっていた。アカバン待ったなしじゃん。


「こいつ怪しいな。詰め所に連れていくぞ」


俺の手首を番兵ががっしりと掴んだその時、

俺の後ろから陽気な老人の声が響いた。


「おいおい、そこまでにしてくれるかの。そいつはわしが拾った弟子じゃ」

「え」


振り返ると、中肉中背の、いかにもサムライといった容貌の老人プレイヤーが片手をあげていた。老人は、ツカツカと番兵に歩み寄ると、弟子じゃと繰り返した。


「こ、これは柳生様。し、しかし、いかな貴殿の御弟子でも、カードが無ければ」


番兵がおろおろとしだす。

老人は、ここに来たばかりでなんもわからんプレイヤーを弟子に取ったまでじゃ、と言うと


「ワシに免じて、な。今から札の申請をするところじゃ」


と、番兵の手を離させた。番兵は渋々といった感じで、俺と老人を通すと、しっかり札の申請してくださいね!と声をかけた。


老人は、すまんな!酒でもあとで詰め所に送らせる!と言うと、俺を伴い町に入った。




ヤマトの国、江戸エリア。

どこかの江戸村のように細部まで作りこまれた路地や街並みは、瓦一枚とってもパンゲアの本気度が伺える。数々のプレイヤーとNPCの町民が行きかうこのエリアは広大に広がり、さながら本物の「江戸」のようだった。実物は見たことないけどね。


江戸エリアの中でも、「東上野」と呼ばれる地域の一角のお茶屋。行きかう様々なプレイヤーと町民の珍奇の目にさらされつつ、俺は老人とお茶を飲んでいた。


「その、すごく助かった。ありがとう」

「気にしなさんな、初心者じゃろう?どうしてフンドシ一枚なのかはわからんが!」


陽気な老人は、「ワシは柳生じゃ」と名を名乗りつつ、笑いながらお茶を啜る。俺はとりあえず職業は、はぐらかしながら(打首の危険性)、スライムにボコられてフンドシ一枚になった初心者だと告げた。爺さんにこれ言うの、我ながらダサ過ぎて涙が出そう。


「センスの問題かのう」

「地味に傷つく言葉だな」


まぁ、そのうち上達するからと爺さんは俺の肩を叩く。何の参考にもならなさそう。すると、後ろからお茶屋の看板娘的な人が出てきた。あ、この人もプレイヤーなのか。


「あら!柳生のおじいちゃん!ここに帰ってきてたの!」

「おー!ハルちゃん!久しぶりじゃのう」


平均的な背に、鼻筋が通り切れ長の目を持つ綺麗な人だった。作業用の服の上から、カラスがあしらわれたエプロンをしている。


「おじいちゃん、そのひと、お友達?なかなか、チャレンジャーな姿してるけど」

「オブラートな言い方」

「この人はのう、裸一貫フンドシのまま、関所を突破しようとした人じゃ」

「やっぱりチャレンジャーなのね」


馬鹿にされてる気がする。

初心者だもの、わかる訳ないでしょう。マニュアル読み込むのって大事だよマジ。


このケラケラ笑っているハルさんは、このお茶屋兼飾り細工屋「渡りガラス」に所属しているプレイヤーさんで、看板娘らしい。


2人は結構古い知り合いで、柳生はこの近くに自分の道場を持っているらしく、よくここに通ってたんだとか。そのうち、そろそろ道場へ行かないとじゃと席を立つと、


「時間があれば、ワシの道場に来るとよかろう。スライムの一匹、すぐに斬れるようになるぞい」


と俺に言いながら、俺の分の御茶代も置いて去っていった。かっこよい。


「あのおじいちゃん、なんか強そうでしょう」

「うん」

「あの人、ヤマトの国のトップ層にいるプレイヤーさんなのよ。確か、100位以内とかだったかな」

「マジかよ」


ヤマトの国のプレイヤー人数はおよそ70万人程度。そのうちのトップ層のなかに入ってる強者。ハルさんいわく、剣士系職業のサムライでは、頂点に近いプレイヤーらしい。聞けば、ヤマトの国のいたるところに道場があり、ドラゴンを斬っただの、剣一本で村を救っただの、様々な伝説を残していると。確かに足の運びは淀みなかった。


なんて人にお茶奢らせたんだろ、自分。文無しの厚かましさも大概にしないとな。今度、ちゃんと道場に御礼しに行こうっと。



ハルさんから色々と話を聞いていると、にわかに目の前の通りが騒々しさを増した。


「ちげぇってんだろ!」

「なんだと、テメェもういっぺん言ってみやがれ!」


大勢のさまざまな出で立ちの男らが、通りで二つの集団に分かれて言い争っている。

喧嘩だろうか。


ハルさんが眉をしかめつつ、「また、新場一家のとこの」と迷惑そうに言う。俺が、そのことについて聞こうとしたとき、その男らは急に殴り合いを始めた。


「だからテメェらが違うって言ってんじゃねぇか!」

「うるせぇ!テメェらだろうがよ!」


十数人の男たちが寄ってたかって互いに殴り合っている。その喧嘩の内容をよく聞こうと耳を傾ければ、一人のプレイヤーがぶん殴られて俺の前まで転がってきた。


「だ、大丈夫か?」

「大丈夫だこのぐらい何とも‥‥なぁフンドシの兄さんや。あんた」


真剣な顔でその男は俺に問いかける。

俺は生唾を飲み込んだ。


「あんこを生地でくるんで焼いた円形のお菓子、なんて呼んでる?」

「今川焼きだろ」


何言ってんだこいつ。今川焼きだろ。

そういうと男は目を一杯に見開き、後ろの男たちに叫んだ。

 

今川焼き信者(反逆者)がここにもいるぞーーーーーーーー!!!!」

「なんだと!」「しばき倒せ!」「大判焼きだろうが!」「大判焼きに決まってんだろ!」「回転焼きだバカ野郎!」「何を!」「ベイクドモチョモチョ!」


男たちが殴り合いをしつつ口々に叫ぶ。びっくりするほどくだらない喧嘩だった。あと、ベイクドモチョモチョ。明らかにお前が一番異端だよ。


俺の目の前で転がっていた男が、やおら立ち上がると「おのれ今川焼き派め!」と言いながら、俺に殴りかかってくる。なんで?


俺は殴りかかってきた男の手を掴むと、そのまま前蹴りを入れた。

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「あれ、おっかしいな」


さっきスライムやゴブリン相手には出なかった力が出るようになっている。


俺は混乱していたが、男たちが次から次へと茶屋に向かってくる。このお茶屋である「渡りガラス」に迷惑かけてはいけないと慌てて飛び出しながら殴り殴られの大乱闘に参入していった。


殴られるとほんとに痛い。が、こっちの力はちゃんと出る。さすがに酒呑童子を殴った時ほどではないが、殴り合いには十分参加できていた。


俺は思わず嬉しくなり、蹴られるのも構わないまま「今川焼きに決まってんだろうが!」と叫び、大いに暴れた。


しばらくすると、男たちの奥側から「岡っ引だ!」と大きな声が上がる。すると男たちが散り散りに逃げ出した。俺もその波のひとつに飲まれて流されるまま、あれよあれよというまに「渡りガラス」から遠ざかっていった。





御厄介になりますが、何かございましたらご連絡ください。

また本日より、一日一話、更新は昼の12時頃という形で頑張ります。どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 喧嘩の内容がめちゃくちゃくだらなくて面白かった。嬉しくなって暴れちゃう主人公がかわいい。 [一言] 1日1話更新とのこと、うれしいです。応援しております。
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