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第四話


【とりあえず雑談】侠客について語ろう:こちらは雑談スレッド、荒し、暴言禁止。


1【名無しの権兵衛@大江戸町民】

【悲報】職業「侠客」ヤバすぎる。


2【名無しの権兵衛@大江戸町民】

もう全部頭悪くて草


3【名無しの権兵衛@大江戸町民】

縛りゲーとしてはこれ以上ないほどの制限なの何なん


4【名無しの権兵衛@大江戸町民】

しかも、服装とかランダムスタートらしい。

これって全裸で露出狂スタートの可能性


あとだいたいチュートリアルが打首

打首即アカウントバンってのがクソすぎる。


5【名無しの権兵衛@大江戸町民】

ワイ氏、【侠客】スタート直後、降り立った場所が警邏の詰め所の中で、無事に首を切られて死亡。現実でも漏らした。


6【名無しの権兵衛@大江戸町民】

〉5、乙

ちなワイは、スタートしたら渡し船の中で役人に護送されてた。2時間後に無事に火炙り。


7【名無しの権兵衛@大江戸町民】

処刑マニアさん大興奮


8【名無しの権兵衛@大江戸町民】

しかも、ステータス開けないから痛覚無効の設定できなくて普通にトラウマ。痛みは現実の10分の1設定らしいが、ゲームなのになぜ痛みを感じるのか意味わからん。

自殺考えてる人は一回侠客チュートリアルしろ。


9【名無しの権兵衛@大江戸町民】

痛覚無効って地味に大事だし、前衛なら必須。パラメータもスキルも確認しながらじゃないとクエストこなせん。確か、全パラメータが普通の人の数倍補正されて、成長率も高いらしいけど。


10【名無しの権兵衛@大江戸町民】

〉9、あの、配信直後の「侠客を救いたい」って言って検証チームが体当たりで検証した結果だろ。あのチーム、全員侠客以外にクラスチェンジしたの面白かった。


あと処刑エンドを生き残ってもアイテムとかどうすんの、これ。


11【名無しの権兵衛@大江戸町民】

〉10、手持ちに決まってんだろ。


12【名無しの権兵衛@大江戸町民】

昨日【侠客】デビューしたワイ、打首フラグをへし折りアイテムをゲット


13【名無しの権兵衛@大江戸町民】

〉12、英雄


14【名無しの権兵衛@大江戸町民】

〉12、猛者過ぎる


15【名無しの権兵衛@大江戸町民】

なお、現在町民からもらった「お団子」を、同心に見咎められて盗んだと思われて、そのままお縄


16【名無しの権兵衛@大江戸町民】

wwwwwwwwwwwwwwwww


17【名無しの権兵衛@大江戸町民】

wwwwwwwwwwwwwwww


18【名無しの権兵衛@大江戸町民】

お団子持ちながら捕まってるのシュール過ぎる


19【名無しの権兵衛@大江戸町民】

〉18、やることないからお団子モグモグしてる。問答無用で打首されそう。


20【名無しの権兵衛@大江戸町民】

〉18、ある意味、豪胆さは侠客


21【名無しの権兵衛@大江戸町民】

【侠客】の情報、配信から3年経つのにほとんど新しい情報出てこない


22【名無しの権兵衛@大江戸町民】

生き残ってる侠客プレイヤーもいるらしいよ


23【名無しの権兵衛@大江戸町民】

【暗殺者】とか【忍者】とかの方がちゃんと情報出てる

10〉検証チームが挫折したせいだろ。


24【名無しの権兵衛@大江戸町民】

【侠客】は普通選んじゃいけないってことか。


25【名無しの権兵衛@大江戸町民】

→22、あれ都市伝説じゃなかったの?てか、この縛り乗り越えてパンゲアにいるって、本当に気が狂ってる廃人なんj


おっと誰か来たようだ。


26【名無しの権兵衛@大江戸町民】

ワイ、心が折れてクラスチェンジ希望

クラスチェンジで30万持ってかれるのきつすぎ


27【名無しの権兵衛@大江戸町民】

初期費用で結構行くのに、職業変えるってなるとまた30万かかるのしんどいよな

クオリティとかゲーム規模的には仕方ないけど


28【名無しの権兵衛@大江戸町民】

マニュアルと攻略は大事だし、よっぽどバカじゃなければ【侠客】は選ばん


29【名無しの権兵衛@大江戸町民】

でも、ちょっと楽しそう


30【名無しの権兵衛@大江戸町民】

→29、詰所か奉行所に密告しとくね


31【名無しの権兵衛@大江戸町民】

名物「善意の密告」きたな


32【名無しの権兵衛@大江戸町民】

「侠客」選択して悲しい気持ちになる前に、密告して垢バンに追い込むやつやめろwww


33【名無しの権兵衛@大江戸町民】

「侠客を救いたい」って別に介錯することじゃねえよwwwwwww


34【名無しの権兵衛@大江戸町民】

→31、これのせいで侠客人口バリ減ったらしいやん







俺は目から流れ落ちる汗のため、スマホを閉じた。調べて分かったことは後悔の2文字である。

 

あれからしばらく考えて、職業選択の際にサムライをセレクトしたはずが、その下にあった「侠客」を選んでしまったようだった。徹夜はダメ絶対。


フンドシ一枚で降り立ったことや、ステータスが表示されないこと等、大体の謎が解けた。すごくスッキリ!


するかボケ……

俺はすごく落ち込んだ。


クラスチェンジの費用の30万円。

酔った勢いで60万円を出してしまったので、勿論、しばらくそんなお金は払えない。


マニュアルを読み込む必要性を肌で理解した。呆然と飯を食っていると、スマホに箱田から連絡が入る。


≪先輩!パンゲア買いましたか?≫


俺はとっさに返事した。


≪すまん!まだ買ってない!≫

≪わかりました!私は今から買いに行きます!早くゲームしましょうね!≫


クラスチェンジするにしても、だ。次のボーナスまであと2か月もあるし。さすがに2か月も待ってほしいと言いづらい。


そもそも「侠客」で普通に冒険とかできるのだろうか?

掲示板で言われていてもいたが、「侠客」に関するデータは、配信から3年経ったパンゲアの膨大な情報のなかでも驚くほど少ない。ステータスが見れないとかの縛りもそうだし、職業がバレると密告もあるらしいし。


俺はひとまず間違えて選んでしまった、このネタピーキー職「侠客」をどうするか考えつつ英五郎のところに戻ることにした。






 

「よう、けぇったかい。で、どうだったよオメェさん」

「ああ、爺さんの言う通りだったな」

「だろう!?ワシの目に狂いはねぇってんだ」

「狂っててほしかったけどな」

「なんだぁテメェ!?」


ひと悶着あったが、俺は間違えてこの職業を選んでしまったことを英五郎に正直に伝えた。NPCとはいえ、この世界の住人でもある英五郎であれば、「侠客」がどのようなものかを知っている可能性が高いと思ったからだ。


英五郎は、なるほどな、とうなづいた。


「えらいバカなのかい?」

「殴るぞジジイ」


出会って早々軽快にしていた英五郎との口喧嘩も気が重い。サムライとしてモンスターを切り捨て御免にして、レベルをドンドン上げる予定だったのに。未知職なうえに、ネタ扱いされてる職業を自分のミスで選んでしまうなんて。


「よりにもよってなんで侠客なんざ」


と自嘲気味に口角を上げた。

すると英五郎が真剣な顔でそれを制する。


「オイ、なんざってのぁ聞き捨てならなぇな」


英五郎はキセルをカーンっと囲炉裏に打ち付け、まっすぐにこちらを見つめてくる。


「確かに、渡世人ってのはしがねぇ博徒よ。でもな、あいつらは軸を持って生きてやがる。己の決めた軸からぶれねぇってんだ、わかるか?ぶれたら命を失う覚悟がある。馬鹿な奴らだが、己が命を懸けてでも、譲れねぇもんがあるってんのが、侠よ。そいつらを馬鹿にしていいのは、そいつらだけでぇ。他のやつらが鼻で笑うこたぁワシが許さねぇ。」


「爺さん…もしかしてあんた」


「‥‥遠い昔の話でぇ」


英五郎はふんす、と小袖をたくし上げ、腕に入っている鯉の刺青をチラリと見せる。恥ずかしげもなく、それでいて自慢げでもなかった。


ちょっとダサかった。


「オメェさんは、渡世人をやめんのかい?」


俺はそう聞かれて、しばし考え込んだ。

確かにステータスも開けないしレベルも見えない。痛覚無効も設定できない。打首フラグはビンビンだし、アイテムはインベントリにしまえない。他のプレイヤーにバレたら密告されるらしいし、詳しいこともわからない面白ネタ職かもしれない。


でも、あの酒呑童子をぶん殴った瞬間、俺は自分の中で何かが変わったような気もした。現実世界じゃ、ついぞ味わえない感覚だろう。達成感?いや、違うかな。


乗り越えた感触か。俺はそれに満足していた。

どうせやるなら壁は高ければ高いほうがいい。


ここはゲームだし、命は取られないし。(ちょっと痛みは感じるけど)賭ける命は安いが、ハードルの高さなら、十分すぎる。(十二分過ぎてしんどい)


後輩と合流するまでに、一通り動けるようになっていれば、問題ないだろうし。それに俺は縛られずに、綺麗な景色を見たり旅をしたい。……それこそ旅の渡世人じゃないか。


「いや、爺さん。俺はやめねぇ。しばらくは侠客としてここでやっていくよ」


英五郎は笑いながらヨシ、分かったと膝を叩く。

ただでさえ大きな図体が何倍も大きくなった気がした。怖い。


「ワシが渡世の仁義、イチから教えてやらぁ!」


英五郎による「侠客」の教練は三日ほど続いた。すっごく長かった。途中で仁義を切る腕の角度の練習とかあったし、ぶん殴られた。ナニコレ。あと、山の方向に向かって喉が枯れるまで「お控えなすって!」を叫ぶ訓練の意味あった?


まぁ色々教わって分かったこと。

侠客とは、旅の渡世人。博徒(ばくと)とか奴と呼ばれる。仁義を重んじ、弱き助け強きを挫く。ここらへんは、時代劇でもチラホラ知っている通りだった。そのうえ、どんな場面でも仁義を忘れてはならないし、それには命をかける。定宿がない渡世人は、旅から旅へと渡り、各地の親分のお世話になることができるが、その際、以前に泊まった親分の手ぬぐいを差し出しつつ、「お控えなすって」と仁義を切らなければならなない。これを一言でも間違えると、失礼とみなされて切られる。この長口上とやりとりは完璧に覚えた。生死に関わるから。


英五郎の畑仕事を手伝っている時

「丁度オメェさんがたみたいなプレイヤーが出てき始めた時、仁義も切れねぇクソ失礼な野郎どもを何人切ったかわからねぇ」と笑っていたが、侠客が忌み嫌わられる原因のひとつ、それじゃねぇの?と思ったが口には出さなかった。うん。仁義大事。


三日ほどのしごきで俺も、脳みその先まで仁義に染まりそうだった。一応仕事しながら帰ってきて寝る時間にスパルタを受けたが、頭おかしくなりそうだった。


狂気のフンドシ仁義くん、誕生です。

そして、英五郎から、「まぁ、このぐらいで大丈夫か」と許しが出た、旅立つ前の晩。

ちょっと来いと言われて、囲炉裏の前に座らされた。


「こいつを持っていけ。」


それは一枚の手ぬぐいだった。使い古されたような、それでいて落ち着く手ぬぐいだった。

端っこに、大きな丸に「前」の文字が書かれている。


「ワシの「大前田」の名入りだ、もうこれ一枚しか残ってねぇんだぜ」


「爺さん‥‥これ」

「何、礼なんざいらねぇよ」

「これでケツとか拭いた?」

「表出ろ、そっ首叩き切ってやる」


俺は手ぬぐいを大事に懐にしまった。

爺さんは抜きかけた長ドスを仕舞うと、いや、俺の事切る気だったろオイ。酒を取り出し、切子を二つ出した。

英五郎は居住まいを正す。そして


「既にお覚悟は十二分におありのことでございやしょう。この世も厳しき仁義の世にございやす。腹に据えかねざらんことも、世の為、侠義のためと、そのどてっぱらにしめぇこんで、立派な(おとこ)を張ろうってぇ心決まりましたらば、その酒一気に飲み干しておくんなせぇ」


これが別れの盃か。

俺はそう思い、盃を英五郎と共に飲み干す。


「これが親子盃だ」

「そういう大事な事は最初にいえクソジジイ!!」

「ジジイたぁ失礼だろうが!親子盃の後じゃねぇか!」


なんか妙にはめられた気がする。爺さんは「だって息子とかいねえし……」とちょっと寂しそうにいうので、しょうがないから、そのくらいは許そうと思う。助けてもらったしな、と俺が言うと英五郎が満足ニコニコしてやったり笑顔なので殴ろうかと思った。まぁ、この爺さんならそこまで悪い気はしないし、いっか。



次の日の朝、俺は英五郎の家から旅立とうとしていた。

貰った小袖に三度笠、腰には手ぬぐいと瓢箪。旅支度は簡素なものであった。


「世話になった」

「おう」


俺はこれから、この世界を旅する。

やっとゲームができるが、この爺さんがいなかったら早々に挫折していただろうな。


「色々とありがとうな‥…」

「おう」

「クソオヤジ」

「クソは余計だ」


殴ってこようとする英五郎の拳をひらりと避けて、俺は絶景を眺めに、このゲームを旅するんだ。意気揚々と歩きだした俺の背中に、英五郎は大きな声を上げた。


「オメェはワシの一家じゃねえし、縛られることなく自由に旅をしてこい。だが、義理とはいえオメェはワシの息子だ。たまには顔見せにこい、雷門」


「おう!」


侠客、大前田英五郎。

変なところもあるが、良い「親父」だ。俺は三度笠を持ち上げて、街へと進むため森へと向かった。



 


「もう出て来いよ、オメェ。ずっとワシの家の周りをウロウロしてやがって」

「むぅ。やはりバレてたか。我が見てるのを」

「あたりめぇだろ酒呑。お前の気配は強すぎる。」


赤く染まった巨躯を縮こませながら酒呑童子が顔を出した。酒呑童子は、英五郎の脇に立つと、遥か遠くに見える人影に目をやる。


「あいつに瓢箪渡しちまったんだって?」

「うむ…‥間違えてお気に入りの瓢箪の方をな‥‥」

「オメェ…まさか返して貰おうって」

「違う!そうじゃないぞ!我は誇り高き鬼だ!」


酒吞童子は少しイジイジしだした。

 

「次会った時に、殴り勝ってやるしかないかなって」


英五郎は「クソガキかよ」と笑いながら、酒吞童子の背中を叩く。


「なら、いまは見送ってやれ。あのガキを」


雷門(クソガキ)が消えた森から、獣の咆哮が聞こえるが気にしない。あいつなら多分大丈夫だろ。英五郎は、笑みを深くした。


御厄介になりますが、何かございましたらご連絡ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 英五郎かっこいい。今後の展開がたのしみ。 [一言] 更新楽しみです。応援しております。
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