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なんかタイムリープしたのでヤンデレから逃げることにした

作者: カカラ

溺愛とか実際どうなんだろうと思いながら書きました。

異論は受け付けます。

よろしくお願いします。

貴族なのに口調が丁寧じゃないのは勢いで書いたからです。

主人公とその侍女以外名前がありません。ご注意ください。

刺されるとか死ぬとか殺されたりイラってくるような表現があったります。ご注意下さい。


ヤンデレと幸せになる話ではありません。


 王権制から議会制に変わったのは、わたしがまだ五歳にもならない昔の話だった。


 今は王は国の象徴のようなものになり、政治を動かしているのは議会の代表者たちだ。


 議員同士での立場は対等に、という決め事がある。それでも政略結婚が未だに主流であるのは、まだ格差がある証拠だろう。


 そんな中(ちまた)では、"真実の愛"とか"運命"とか"溺愛"とかが流行っている。


 有名な劇場では"真実の愛"というものを題材にしたものが大層実入りが良いらしい。


 社交界では溺愛の惚気話や噂が飛び交っている。と同時に、痴情のもつれなどの醜聞も。


 また、運命的な出会いに憧れる少年少女たちが、政略結婚を嫌がってるそうだ。


 だが、降って湧いたような愛や、相手をものすごく愛することがそんなによいものだろうか?


 わたしはため息を吐いて、窓を見た。そこは分厚い板で塞いであり、外は一切見えない。


 わたしは、アメリア。子爵令嬢だったけど、夫と結婚し辺境伯の妻になった。


 まあ辺境伯夫人としての役目なんて、果たしたことないけど。結婚してから早二年、ずっと夫に監禁されているからだ。


 わたしは淡い金の髪と新緑のような明るい緑の瞳で、(自分で言うと恥ずかしいが)可愛らしい容姿も相まって春の妖精のようだ、とよく形容されていた。


 けれど今はどれだけ着飾っても夫しか見る人がいないし、夫が使用人すら入れたがらないので手入れは自分でするしかない。


 だから髪の色は昔ほど綺麗じゃないし、みんなが当時噂していた時より美人じゃなくなっているだろう。


『どんな君でも世界一好きだよ』


 なんて言う夫にとってはどうでもいいことなのだろうが。


 夫との出会いはよく覚えていない。夫曰く十数年前に、わたしの実家の領地内の森で死にかけていたところを助けてもらいそれからずっと好きらしい。対面したのはその一回限りだそうだが。


 そんなこと全っ然覚えていないけど、夫が何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も言うからきっとそうなんだろな、と考えることを放棄した。


 でもですよ? それから一度も会わず十数年も経って、好きだから結婚しましょうって、重くない?


 離れていた十数年だって、わたしは愛を育てた覚えはないしなんなら忘れてた。そんなこと言われても迷惑だ。


 でも相手は辺境伯。両親は了承したし、友人たちは羨ましがった。


『愛情深くて、身分が高くて、しかも美形でしょ? いいなー』


だって。わたしの意思はどうしたんだ?


 まあ、始めは愛のない結婚なんてよくあることだ。幸いにも夫はわたしを好いてくれているみたいだから、彼のことを愛してみようと努力したこともあった。


 けれど。わたしと夫は根本的に考え方が違った。わたしの愛は夫には足りないものだったらしい。


 感謝の言葉を伝えたり、プレゼントを贈ってみたりしたけれど、


『ふーん、これだけ?』


というつまらなさそうな返事しか貰ったことはない。愛なんて芽生えなかったわ。


 それにわたしは観劇が好きで、美術館巡りが好きで、読書が好きだ。でも、夫は、


『観劇? 俺がいるのに、別の人を見るなんて許せない』

『美術品なら買ってあげる。そうだ、敷地内に美術館を作ろう』

『読書してる暇があるなら俺を見てよ』


と自由にさせてくれない。服だって、


『君に似合うと思って俺が用意しておいたよ』


 気がつけば古くなったものはなくなり、新しい物を夫が用意している。下着すらもだ。わたしは布面積が少ない下着なんて要らない。抗議しても、


『そんなダサいの可愛い君に着せられないよ』


と取り合ってくれない。っていうか毎晩獣のように求めてくるから萎えるやつ着ないで欲しいだけだろ。


 食事だって全部夫が食べさせてくる。食事くらい自分のペースで食べたい。


 発狂してしまいそうなくらいに苦しいのに、この苦しみに一生縛られてろって言うわけ?


 そんなの絶っ対嫌だ!





 ……と思っていたこともあった。でもそれはもう過去の話。


 いつの間にか、タイムリープしていた。夫を助けたという十数年前に、戻っていた。幸いなことに、まだ夫……()夫には出会っていない。


「……どうして戻っているのかしら」


 最後の記憶をどうにか手繰り寄せる。確か、いつものように寝室で彼のためにハンカチに刺繍をしていた時だった。


『ねぇ、この手紙の男だれ?』


と彼がノックもせずに部屋に入り、手紙をわたしに突きつける。


『その手紙、どこから持ってきたのですか?』


 紙が古くなっているので、最近のものではないのは明白だったのに、彼は何を怒っているのだろう?


『君の部屋の、宝物を入れてるって言ってた箱からだよ!

ねぇこの男だれ? なんで他人の手紙持ってんの? 君は俺のものだって自覚ちゃんとある?』


『は?』


 わたしの宝物、勝手に漁ったの? わたしの思い出すら、管理されてしまうの?


『ねぇ、なんで泣いてるの? 泣きたいのこっちなんだけど? 俺には君しかいないのに君は俺のことなんてどうでもいいんだね?』


『……わかってたよ、君は俺のことなんてちっとも好きじゃないってこと』


『最初っからこうしておけばよかったね』


と狂気に歪む彼の顔に呆気に取られていたから、反応が遅れた。腹を突き刺す鋭い痛みに目を向けると、腹に刃物が刺さっていた。


『はは、』


 笑った元夫はそれを掴むと引き抜いて、またわたしに突き刺した。それを何度も繰り返す、それが最後に見た光景だった。




「絶っ対に、あいつのこと助けないわ」


 殺意が湧き上がっただけで、戻った理由は結局わからなかった。


 でも死にかけてるってわかってるのを放置するのも気が引ける。どうしよう? 


「おじょーさまー、準備しますから、はいりますよー」


 ドアをノックする音で我に返る。そうだった、今日は子爵領内の森を探検するんだった。


 入ってきたのは、わたしの侍女のマリー。伯爵の子だけど、母親は愛人で、しかも平民だという理由で虐げられていた。それをかわいそうに思ったわたしの父が引き取ったのだ。


 なぜ引き取れたかというと、言い逃れのできない虐待の証明と、マリー自身の意思があったからだ。


 近年、虐待される子女の多いことが問題になった。だから虐待の証明がされ当人の意思があれば、親元から離れることができるようになったのだ。


 年も近いし、マリーの方が貴族のマナーに精通しているので色々教えてもらっている。


 もちろん本格的なものは、二人で講師の方々に教えを請うている。


「まだ着替えていないのですか?」


「……なんか行きたくないの」


「まあ。そんなわがままだめですよ。森に行きたいっておっしゃったのはお嬢様なのですから」


 困ったようにいう彼女は、わたしが結婚してからどうなったのだろうか。そもそも嫁ぐ時に、全部辺境伯が準備するからって別れてそれっきりだった。


 そういえば、マリーはヤンデレがいいって言ってたな(過去、愛が重すぎて何人もの人に逃げられてた)。


 彼女に助けさせたらいいかも? 一応伯爵家の血筋だし、子爵家のわたしよりいけるいける。


「よし! 行こう」


「急に元気になりましたね?」


 さっさと元夫のことは終わらせて、憂いのない新しい人生を歩むのだ。監禁されていた時に開催されていた劇とか特別展示とか見に行きたいな。まだ無いけど。


 大人の護衛を二人、マリーと手を繋いで森を探検する。しばらく歩いていると。二股に分かれた道があった。


「どちらに行きます?」


とマリーが尋ねる。


「えーっとねぇ……うっ」


 突然の眩暈に思わずよろけ、それをマリーが受け止めた。


「お嬢様!? 具合が悪いのですか? 今日は帰りますか?」


「……ううん、なんでもないの。わたし右行くよ。マリーは左に行ってきてよ。そっちの方が探索もすぐに終わるよ。何もなかったら、帰ろう」


 思い出した。前回は左に行ったんだ。それで、怪我をして血塗れの少年に出会った。


「わかりました。何もなかったらすぐお嬢様の元に戻ってきますからね」


とマリーはわたしを心配しながらも、護衛を一人連れて左の道に入って行った。


「(あっぶなかった)」


 前回右の道を行ったマリーは、何もなかったとすぐにわたしたちと合流した。だから、右の道には何もないはず。


 護衛と一緒に進んだ道は、なるほど確かに何もなかった。すぐに行き止まりだったのだ。草木に覆われて道が消えていた。


 道を引き返すと、分岐地点にオロオロしたマリーと、少年を抱えた護衛の人がいた。どうやら彼も、助かるらしい。


 すぐに屋敷に引き返し、彼を救護する。主に医療の知識があるものに任せて、わたしは部屋に引き篭もることにした。


 しばらくして、少年が目を覚ましたらしい。え、会わないといけないの? お礼を言いたいって? ……なんか急にお腹痛くなってきた。


 十数年前のこと覚えてたから、ここで心無い態度取ったら覚えてそうだな……。無難な対応をしておこう。


 目を覚ました、包帯だらけの少年はぼんやりとしていた。


「あの、あなたが助けてくれたのですか?」


「違います全っ然違います! 助けたのは侍女のマリーで、わたしはただ屋敷に運ぶように言っただけです! なのでお礼はマリーにどうぞ! ほら、マリー! ほら行って!」


「え、あ、お嬢様!?」


 かなり挙動不審だったろうけど実際そうだし! また惚れられても困るから! マリーを生贄にするように少年の前に押し出した。


 少年はぱちくりとマリーを見つめている。


「あの、その、マリーです。……わたしは、あなたが血を流して倒れていたのを見つけただけなんです。オロオロするばかりで、指示をしたのはお嬢様ですし、運んだのは護衛の方ですから……」


「そっか……でも、君が見つけてくれなかったら僕危なかったよね?」


「え? まあ、そうかもしれないです、ね?」


「だよね! 見つけてくれてありがとう!」


 少年は嬉しそうにマリーの手を握った。美少年の笑顔にやられたのか、マリーは顔を真っ赤にしていた。


 ……フラグ、折れたっぽい?


 念の為、世話は主にマリーにさせておいたらいいかなと思っていたら、マリーが自らやりたいと言い出したのでそのまま彼女に任せることにした。


 そして元気になった少年は、マリーに懐いた。みるからにあからさまに、すごく懐いていた。


 え、もしかして前回はわたしそれされてたんだろうか? 全く記憶にないわ。


 けれど数日後、見知らぬ大人たち(多分辺境伯の家の人)に連れて行かれ、彼はわたしの家から去った。


 彼はマリーを連れて行きたいと駄々を捏ねていたので、マリーがいいって言ったらいいよって言ったら、マリーは彼についていくことにしたそうだ。


 少し寂しいが、彼女がそれでいいならいいんじゃないだろうか。


 そして十数年後、マリーは彼と結婚したらしい。


 マリーは実家とは別の貴族の養子となり、身分違いの悲恋にならなかったようだ。


 無理やり書かされたものとは全然違う、幸せそうな手紙が季節の変わり目に送られてくる。


 手紙を送ることができているということは、相手の方も不安がないくらいマリーに愛されていると実感しているからだろう。


 わたしにはできなかったことをやってのけたマリーはすごい。手紙越しでも、どんな(監禁)生活送ってるって嬉しがっていることが伝わってくる。本当によかった。破れ鍋に綴じ蓋っていうやつだ。


 一方のわたしは、月に一回催される読書会で出会った人と結婚した。


 今世の夫は衛兵で、前回は結婚する前までは感想を言い合ったり本を貸し借りする仲間だった。もちろん彼だけでなく他にも何人かと交流していた。


 その彼との結婚生活は、基本的にはあまり干渉せず、でも食事は同じ時間に同じ食卓でとる。


 月二回程度の頻度でデートに誘ったり誘われたりする。獣のような夜の生活もない。


 側から見たら愛情の薄い関係に見えるかもしれないけど。


 好きに友人と出かけられる。劇や美術展の観覧もできる。自分の予定は自分で決められる。


 平凡でつまらないかもしれないけれど、わたしは幸せです。



・衛兵の覚えていない過去の話


 数年所在不明だった友人が見つかった。


 きっかけは、とある貴族の別荘から異臭がするという通報だった。


 屋敷の持ち主は、友人が嫁入りすると言っていた貴族だった。


「まさかじゃないよな」


 結果だけ言うと、異臭を放っていたのは彼女ではなかった。


 腐った男の遺体の隣には、ミイラ化させられた彼女がいた。


 腐りやすい臓器は全て取り出され詰め物がされてある。


 美しい状態で保存してあった。見た目だけは。


 彼女の死に顔は、全てを諦めたような寂しさを感じる表情だった。


 彼女の死因は他殺だった。腹に複数の刺し傷が残っていた。


 背骨や肋骨の裏側にまで到達した傷が、相手の殺意を物語っていた。


 彼女が結婚してから、読書会に来なくなり会えなくなっていたが。


「…こんなことになっていたなんて」


 男の遺書には、『彼女を長い間監禁してすまなかった。でも自分じゃどうにもできなかった』との主旨の謝罪文と、遺産で賠償金を支払うと書いてあった。


 同じ墓に入ると来世も夫婦になれると言う迷信があるが、令嬢の家族は別の墓に入れることに決めたそうだ。


 日記には服を選べず、本は読めず、絵画や劇の鑑賞すらできない、管理された生活が苦しいと綴ってあった。


 死すら自ら選べなかった彼女の、来世の幸せを願った。



 彼女と劇の鑑賞に行った。


 彼女が楽しそうに観劇している姿を見て、何故か泣きそうになった。


 幸せそうでよかった、と。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


6/22 誤字報告ありがとうございます。

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