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ブサイクな王子様と灰まみれの平民の話

作者: 弥千代

むかーしむかし、継母とふたりのイジワルな義姉にいじめられていた娘がいたそうだ。


でも魔法にかけられて、王子様に見そめられて、結婚して幸せに暮らしたんだって。




私もそんな子と同じ状況にいる。


母亡き後、父は再婚したがすぐに父も死んでしまった。


残されたのは、灰まみれで朝から晩まで義母とふたりの義妹のお世話をする生活。


こんなの、昔話みたいに王子様と幸せになるしかないじゃない?


ところが、そうは問屋が卸さない。



この国の王子様は、ブサイクだ。


その上暴君だから、お嫁さんも全然見つからないらしい。


これが現実よ。


かっこよくて優しい王子様と結婚してめでたしめでたしなんて、御伽話の中だけね。



私は今日も、継母と義妹たちの洗濯物を朝からせっせと干している。


義妹はまだしも、継母まで私に家事を押し付けるって何考えてんのかしら。



ぶつくさ言いながら洗濯物のシワを伸ばしていると、継母と義妹たちがギャアギャア言いながら買い物から帰ってきた。


「信じられない!絶対に行かないわよ!」

「当たり前よ!ていうか、誰も集まらないでしょこんなの」

「レディが大声を出すもんじゃありませんよ」


私に気づいた義妹が足を止めてニヤッと笑う。

「グズなエマにはお似合いかもね」


それを聞いてクスクス笑いながら、もう一人の義妹が一枚の紙を渡してきた。


それには『国中の年頃の娘はお城のダンスパーティに来るように』と書かれていた。


「あのブサイク王子、縁談がまとまらなくてとうとう平民にまでお妃探しの範囲を広げたらしいわよ」

「チャンスじゃない。あんたみたいなの、どうせ結婚出来ないだろうから、この機会を逃す手はないわ」

「相手がどうであれ、結婚すればお妃だもんね。まぁ、私は死んでも嫌だけど!」


キャハハハと笑いながら、継母と義妹たちは去っていった。


私はもう一度その紙を見る。



「…悪くない」



どうせここにいても、働かされ続けて、感謝もされず、結婚相手も探してもらえずに野垂れ死ぬ未来しか見えない。


義妹の言う通り、相手がどうであれ結婚すればお妃だ。


義妹のドレスを繕うために寝不足になったり、あかぎれた手で冷たい水に触ったり、食事を一日一食にされてお腹を空かせることもない。


暴君らしいから何発か殴られるかもしれないけど、継母にだって仕事が終わらなかったら叩かれるし、そのくらいなら我慢できるわ。


そうと決まれば、善は急げ!


急いで屋根裏にある自分の部屋に戻り、大切な両親の写真と、両親にもらった本と、日記をカバンに詰め込んで、夜鍋して今朝やっと繕い終わった義妹のドレスを拝借して、お城へ出発!


継母と義妹たちには行くとは伝えてないけど、チャンスだと言ってくれたってことは、許可済みってことよね?


17年間暮らしたとは思えないくらい少ない荷物を持って、家を見上げる。


両親と過ごした幸せな記憶よりも、継母と義妹たちと過ごした嫌な思い出の方が多いし、ネズミとはお友達にはなってないし、あんまり名残惜しくないわね。


さよなら、私の生家。


王子様に振られても、二度と戻らないわ。



********


丸二日野宿しながら歩いて歩いてやっとお城に辿り着いた。


ダンスパーティの時間に間に合って一安心だわ。


でも…


お城は明かりはついてるけれど、兵隊さんが並んでるだけで、参加者は全然見当たらない。音楽が寂しく奏でられているけど、話し声は聞こえない。


私は恐る恐る階段を登り、ダンスホールへ入る。


やっぱり、参加者は私だけ。


シャンデリアと美しい絨毯が敷き詰められている広い広いホールにポツンと立っていたら、ラッパが鳴った。


「ルイ王子の、おなーりー!」


そして、重厚なドアが開いて、王子様が入ってきた。


私は慌てて頭を下げる。



「面をあげよ」


そう声がしたので、恐る恐る顔を上げて王子様を薄目で見る。



そこには、噂通りのブサイクで太った王子様がいた。


醜いと噂の貴公子が、会ってみるとかっこよかったとかいう話をよく町娘がしていたからその展開をほんのちょびっと期待していたけど、今回は噂通りだったようだ。


「俺を見て心の中でバカにしているな」


王子様が肉に埋もれた目で私を睨んでいる。


「滅相もございません。(ちょっとがっかりしただけです)」


「まぁいい。名はなんと言う」


「エマと申します」


「ふん。苗字も持たぬ平民か」


いや、王子様の方が私をバカにしてきてるやん。


「金が欲しくて来たのか。それとも権力か。どちらにしろ、お前には無理だ。お前みたいな小汚いやせっぽっちは好みではない。帰って良いぞ」


それだけ言い捨てて、王子様はまた重厚なドアの中に戻っていった。



振られてしまった。



「…これからどうしようかな。」



お城まで歩いて行くのが精一杯で先のことまで考えていなかった私が途方に暮れていると、王子様の側近の方が声をかけてくれて今夜はお城の離れに泊まらせてもらえることになった。


振られて用無しの平民の小娘になぜそんなに親切にしてくれるのかと一瞬戸惑ったが、やっと現れたお妃候補を絶対に離さないという執念が瞳の奥で燃えていたので、すぐに腑に落ちた。


それほどまでに王子様と結婚して良いと名乗り出る女性が皆無なのだろう。


一文無しでクタクタの私は、一晩お言葉に甘えることにし、甘えるついでに頼み込んで翌朝からお城の雑用係として働かせてもらうことになった。


側近の方も、王子様と接点が持ちやすいだろうとOKしてくれた。



翌朝、私は朝食を召し上がっている王子様に紅茶を淹れてさしあげた。


王子様は私に気付くと「昨日の女か!?なんでここにいるんだ!?」とギョッとしていた。


「私、ここで働かせていただくことになりました」

「…ストーカーかよ」


王子様の私の印象は最悪っぽい。



でも、働き口を得られただけで私の気分は最高だ。


お給料をいただいて、ある程度貯まったらどこかに部屋を借りて転職しようと思うので、それまでは王子様には我慢していただきたい。


雑用係として雇ってもらった恩を返すため、私は働きまくってお城中の床や調度品を磨いた。


王子様は私を見かける度にギョッとして逃げていったが、しばらくすると私の存在に慣れたのか、ストーカーではないと分かったのか、怪訝な顔で見られるけど逃げることはなくなった。



お城で働いて王子様を側で観察していると、王子様が暴君だと言う噂は少し違うように思えてきた。


確かに、口は悪いし、結構暴言吐いてくるし、睨んでくるけど、暴君とまでは言い難い。


側近の方や周りのお偉いさんに怒鳴ってることもあるけど、よく聞けば怒鳴られている方に過失があり、王子様の言う事は筋が通っている。


朝起きてから夜遅くまで、仕事に追われてる。


そんな姿を見ていくうちに、王子様への印象は変わって来た。


私は、継母や義妹たちにどんなに理不尽なことを言われても、言い返したりすることはなかった。言い返したら、めんどくさいことになるって分かってたから。面倒から逃げてたから。


面倒から逃げて我慢するより、人とぶつかることはとっても大変で、勇気がいることだ。自分の正しいと思ったことをちゃんと主張する王子様、ちょっと尊敬する。


王子様のその働きのおかげで、この国は豊かだ。

貧しさのためにブサイクな王子と結婚する道を選ぶ者がいない程に。


でも、振る舞いのせいで横暴に見えるので、王子様を良く思ってない人も多いみたい。


そんな王子様を応援したくて、執務室の椅子にふかふかクッションを置いてみたり、席を外した隙に美味しいお菓子と紅茶を置いたりしていたら、ある日王子様に声をかけられた。


「余計なことはしなくていい」


「と、言いますと」


「クッションとか、お菓子とか、お前のしわざだろ。そんなことをして俺に取り入ろうとしても無駄だ。ストーカーめ」



またストーカーに昇格してしまった。



「申し訳ありません。もうしません」


確かに、コソコソとするのは良くなかったかもしれない。

シュンとしていると、


「菓子はうまかった。でもダイエット中なのだ」と言って、フッと笑った声がした。


パッと顔を上げると、王子様はすでに背を向けて歩き出していた。



それからは、サラダを差し入れるようにした。



そしてまたある日、王子様に執務室に呼び出された。


「失礼します」


執務室に入ると、王子様は書類が積み重なった机の立派な椅子に座ったまま聞いて来た。


「お前がここで働く理由はなんだ」


「一文無しで、行くところがないのです。独り立ちできるお金が貯まったら出ていくので、もう少しだけ置いてくれませんか」


そういうと、少し驚いて顎の肉が揺れた王子様は、少し考えて引き出しから小切手を取り出し、サラサラっと数字を書いて私に渡して来た。


「これでしばらくは暮らせるだろう。どこでも好きなところへ行け」


小切手には10年は余裕で暮らせるくらいの金額が書いてあった。


「こんなにいただくわけにはいきません」


「お前はここにいる間よく働いた。ストーカー行為は褒められたものじゃないが、差し入れも助かった。それはその報酬として受け取れ」


「助かったなら…これからも私をここで雇っていただけませんか」


私はここでの生活が気に入っていた。

お城の人はみんな良い人だし、わざわざ他にやりたいこともない。それに…


「だめだ」


また断られてしまった。

結婚を断られるのは分かるけど、助かったと言ってくれたのに雇うのを断られるのは納得できない。


「理由を伺っても?」


王子様は、下を向いて考え込んで、ポツリと言った。


「このままだと、俺はお前を好きになってしまいそうだ」



いきなりのストーカーから想い人への転身に驚き固まる。



「どうだ。気持ち悪いだろう。早く行け」


王子様は、椅子に座ったままくるりと後ろを向いてしまった。



拒絶するような丸い後ろ姿に、私は一歩近づく。



「私も、お慕いしております」



今度は、王子様が驚き固まった。


「そんなはずはない。こんな俺を…。俺はブサイクで暴君で…国中の娘から嫌われている男だぞ。金なら手に入っただろう。もっと欲しいなら求めすぎだ。さっさと行け」



私はもう一歩王子様に近づく。



「私も、噂でどんなに怖い人かと思っておりました。でも出会った翌朝紅茶を出した時、私にすぐ気付きましたよね。本当に自分勝手の暴君だったら、一度ほんの数分会っただけの人の顔なんて覚えないだろうし、紅茶を入れる人の顔も見ないし興味ないと思うんです」


「そんなの…好きになる理由にはならないだろ。お前、からかってるのか?」


「暴君じゃないのに、暴君という噂にわざと乗っかってますよね。暴君だったら、モテなくても当たり前だって思えるから。」


「ディスってんのか!?」


「分かるんです。私もそうでしたから。継母や義妹たちにバカにされてコケにされて。どれだけ良い子にしても、どれだけ働いても認めてもらえなくて。だったら望み通り、灰まみれのグズでいようって決めました。愛されないのは、灰のせいだって思いたかったから。」


「…」


「私、王子様の勤勉なところ、周りをよく見ているところ、正しいことを言うことを恐れないところが、好きです」






ある太陽が輝く晴れの日、お城で結婚式が行われました。


そこには、サラダで少し痩せたブサイクな王子様と、お城の御馳走のおかげで少し太ったお妃様が幸せそうに笑っていました。



継母と義妹たちは、家事をする娘がいなくなってからというもの、誰が家事をするかで揉め事が絶えず、散り散りになったとかならないとか。


継母と義妹たちにいじめられていた娘は、王子様と幸せに暮らしましたとさ。



めでたし、めでたし。

イケメン脳内変換注意


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― 新着の感想 ―
[一言] イケメンが出ないおとぎ話がこんなに清々しいとは!!! 魔法使いも出てこなかったですけどね。好きです。
2023/04/08 19:06 退会済み
管理
[良い点] お互いに、相手の気遣いや心根の良さ、人から嫌われることを厭わず正しいことを貫く姿勢など、内面をきちんと見ているところ。 王子様が痩せたらあ〜らイケメン…などというご都合主義な展開でないとこ…
[一言] イケメンな王子は庶民と結婚しないだろうからむしろこれが本当の灰かぶり……?
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