第89話 騎士団長と副騎士団長
へラリア国王都の東側。
森から、魔物の大群が顔を覗かせていた。
しかし、その魔物はどれも雑魚と言われるものたち。最も数が多いのはゴブリンだ。
隊長はいない。
隊長に準ずる魔力を保有する個体が6体。
隊長がいない代わり、これらが指揮を執るようだ。
彼らは言わば、連合のはみ出し者。雑兵だ。
しかし、どの個体にも連合の証である2本の赤い痣がある。色は薄いが。
この色が濃いと、上級者の証。
隊長ともなると、赤黒く染まる。
その光景を俯瞰する3人。
2人は覚醒アヌースに乗り、1人は魔法の力で浮かんでいる。
「これだけの量がいるとは…………。さて、行ってくる。合図をしたら降りて来てくれ」
「かしこまりました」
騎士団長はアヌースから飛び降り、魔物軍のど真ん中に、轟音とともに着地した。
覚醒に伴う身体能力の向上により、着地によるダメージはない。
そこに、電気によりさらに身体能力をさらに向上させてある。
電気による身体能力アップは時間制限と凍結時間が存在するため、使いどころを選ぶ。
だが、この魔物の軍勢相手だと考える必要がない。
『敵…………』
『テキダ』
『てき!!』
「ああ、その通り。──『拡散雷』!!」
騎士団長を中心に、放射状に電気が発射される。魔物に当たっても、そのまま貫通し突き進み続ける。
それだけではなく、隣にいる魔物にも電気が移る。
それを幾度も繰り返すことで、密集しているこの状況も後押しし、すべての魔物に電気が伝わる。
『『グアアア!!』』
それだけで、ほとんどの魔物が地に伏した。
内部から焼かれ、口から煙を吐き出しながら倒れる。
食用ではないため、香ばしい匂いとは程遠い。
「やはりお前たち6体は残ったか」
『ググ……』
「──『昇雷』」
剣を上に向け、雷を発射させる。
すると、すぐ隣に副騎士団長が音もなく出現した。
「3体ずつでどうだ?」
「異論はありません」
「じゃあ、右3体を私がしよう」
「は!」
それだけ言うと、それぞれ、各々の目標に向け、駆け出した。
騎士団長の電気を纏った攻撃が、魔物を内側から焼く。
副騎士団長の息も吐かせぬ連撃とステップで、魔物は反撃はおろか、身動きすら許されない。
結果、この2人が魔物を狩り尽くすのに、あまり時間はかからなかった。
「終わり、と」
「騎士団長、この程度であれば、私たちが出るまでもなかったのでは?」
「久しぶりに体を動かすのも悪くないと思っただけさ」
結局のところ、騎士団長も戦いたかっただけだ。
「たしかに……ここ数年、訓練で動かす程度で、実戦はしてなかったですからね。訓練はかなり実戦に近かったですが」
騎士団長と副騎士団長は役職柄、都市内にいることが多い。切り札的存在だ。
「それにこのあと、ラインはワインド国に無期滞在させる」
「あそこは現在、人手不足というわけではなかったかと思うのですが……?」
「ああ、海岸部のある地域。そこで、連合が睨みを効かせたまま動かないらしい。そこで、ラインだ」
海岸部にある漁村の中の一つ。
そこのすぐそばの森の中で、連合の魔物が大量に居座っていた。
理由は一切不明。
ただ、いいことは全くないので、解決しようとなったのだ。
なにより、そこは村であること。
村には冒険者パーティーが1つと騎士が1人、滞在する。そう、それだけ。
だから、下手に手を出せないらしい。
そして、いつ攻めてくるともわからない状況。
そこで、【水晶使い】の登場だ。今回は長期のため、『ライン』だが。
そして、アヌースに乗り、王城へ帰った。
戦闘中、【魔導士】が上空から睨みを効かせていたが、なにも異常はなかった。
だが、あまりの呆気なさに、【魔導士】はどうしても不安を拭うことができなかった。
オレとターバは騎士団長から、戦闘が終了し、帰還するとの報告を受けたため、王族の護衛を離れ、部屋に戻った。
当の王様がファンキーな見た目のため、守る必要があるのか考えていた。
まあ、戦闘能力はないんだけどさ、見た目の割に。
こんなのを聞かれたら、不敬罪辺りで罰せられそうだな。
あるのか知らないけど。……ないわけないか。
それから間もなく、騎士団長ら3人が帰って来た。服に血は一切付いていない。
騎士団長はそのまま執務机に、副騎士団長はその背後に立つ。【魔導士】はオレたちの横に並ぶ。
数分前と、なんら変わり映えのない光景だ。
「さて、早速で悪いが……ライン」
「は!」
「ワインド国の漁村の1つ、クラーク村に行ってくれ。長期滞在となるため、【水晶使い】としてではなく、ラインとして行ってくれ」
「長期滞在? その理由は……?」
長期滞在してくれと言われて、はいそうですか、てなるわけないだろう。
このご時世に長期滞在。
裏があるとしか思えない。
「ああ、実はその村付近の森に、連合が大量に居座っているようだ。あくまで村のため、下手に手を出すことも、攻められた際に迎え撃つこともできない」
ああ、なるほどな。
とは言え、国も人材を渋っているわけではない。それどころか、限界ギリギリの数を派遣している。
それはそこの国も共通だ。
「なるほど、それの解決ですか。了解しました」
「明日、向かってくれ。今日はもう帰ってゆっくりするといい」
「はい! では失礼します」
帰っていいとのことなので帰った。
帰ったら荷造りだ。宿も引き払う準備をしとかないとな。
ちょっとだけ、城を出たら急ごう。
ラインが帰り、室内にはターバ、【魔導士】、副騎士団長、騎士団長の4人が残った。
「さて、行ったか。ターバは明日より、覚醒アヌースの乗馬訓練だ。ラインやアーグと同じ立場となる。ただし、活動範囲はへラリア国内に限る」
「わかりました」
「アーグ、お前はこれまで通りで頼む」
「了解」
「それと、アーグ、ターバ、ラインのような役職を、正式に【放浪者】と呼ぶことが決まった。それに伴い、他国からも数人、【放浪者】が選抜されることとなる」
今まで、ラインたちを【放浪者】と呼んでいたのは、へラリア国とフェンゼル国のみだった。
命名者はラインだ。
「さて、話は以上だ。何か質問は? …………ないようだな。では、これにて解散!」
解散し、それぞれ帰路に着く。
騎士団長と副騎士団長は役職柄、残ったままだが。
ターバは──内面、うきうきしながら──騎士宿舎へ。
【魔導士】は宿へ。
その頃ラインは、商店街を歩いていた。
一度宿に戻ったのだが、不足品が複数あったため、ここを歩いている。
「えーー……っと」
洗剤各種は近衛騎士団が宿とともに手配済み。
服や靴の替えは嵩張るからなし。魔法の効果で清潔に保たれるし、必要がない。
「あれ、何を買いに来たんだっけ……? …………ああ、歯ブラシと歯磨き粉だ。…………この指輪で済ませるか」
歯磨きでは、磨き残しが出る可能性があるが、この指輪──聖火の指輪は確実だ。
よし! 帰ろう。…………いや、違う!
念の為。そうだ、念の為、再確認だ。
朝起きる。
顔を洗う。
服を着替え……そうだ、パジャマが破けたんだ。パジャマは浴衣でいいか。
朝ごはんを食べる。これは賄いとして出る。
その後は……ああ、弁当箱でも買うか? 念の為を考えて2つ。
ああ、聖火の指輪をもう一つ買っておこう。クールタイムの解消だ。
う~~ん、こんなものか……。トランプでも買っとこ。
買うものは浴衣、弁当箱2つ、聖火の指輪、トランプ。ああ、あとは荷物を入れるカバンだ。
幸い、全部ここで揃う。金も十分ある(入りの割に使うことがなく貯まる一方だった)。
「まさか、あの指輪があんなに高いとはな…………」
魔法具店に入ったものの、並んでなかった。
そのため店主に問い合わせたら、奥から持ってきた。丁寧に箱に入れられて。
値段を聞いてびっくりした。金貨が飛ぶとは…………。
ま、使い道も特になかったし、良しとしよう……。
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