5話 記憶の目覚め
時は少し遡り──
オレは目覚めた。目覚めと同時に理解した。
オレはラインであり、澄川蓮である、と。
……いや、転生ということは、今はラインでしかない……か。
確か、神と名乗るアイツに……。
だが、記憶を取り戻した今、記憶を取り戻す前にはなかった感覚が体内にある。
直感で理解した。
──これが魔力だ、と。
意識をむけると動かすことができる。それを少しだけ体外に向けると、小さな水晶が生成された。
魔力量増やせば、もっと大きいものを作れそうだ。
だが、こうして記憶を取り戻した今、魔王を探す旅に出なければならないのだろうか。
だが体に使命というもの、強制力というものを感じない。
……ということは、別にアイツの言う通り、魔王を探す必要はないのでは? 自由にさせてもらうとしよう。
とりあえず今は、魔力についていろいろ試したいことがあるが、状況が状況だ。
人間を好んで襲うという人型スライム。
スライムといえば、火に弱かったよなで、核を破壊すると死ぬ。
……でも、最弱と言われるよな?
向こうの知識はあまり当てにしないほうが良さそうだ。
まぁいい、魔力を手に入れたんだ。早速実戦経験といこうかな。ちょっと練習しとこう。
そう思ったら、
「ライン、目が覚めたのね。良かった。もう平気?」
と、上から声が聞こえた。
そういや、オレ、頭痛でぶっ倒れてたんだ。
あの頭痛は多分、前世の記憶を脳にぶち込んだ結果だろう。
前世の記憶となると……うん、それなりの情報量だ。
「もう大丈夫だよ、母さん」
「ならいいのだけれど……。一体あの頭痛は何だったのかしらね」
「……さあ?」
……前世の記憶を脳に詰め込んだからです。なんて、言えるわけがない。
オレはもう、この世界の人間なんだ。前世の記憶は持っているが、オレはラインなんだ。
とりあえず、魔法の練習だ。転生前、元素人の土・水晶を獲得したんだったよな。
だからさっき水晶ができたのか。
検証の結果
・水晶を自由自在に作れる。
・生活魔術は使用可能。
ビミョ〜。
え、いや、普通いろんな魔法を使えるよね? それが王道だよね? なのに水晶しか使えないの?
……まぁ、いっか。きっと10歳でここまで魔力を操れるのはすごいはずだ。……悲しくなってきた。
生活魔術は、誰でも15歳から使うことを許される。例外として、10歳から水を操る魔法を使えるようになる。
魔術と言っても生活用だから、少量の水を操作したり、小さい火を出したり、触れた物を操ったり。あと、軽い汚れを落としたり。
水を操作して服を洗い、乾かす。
火を出して木を乾かしたり。
結構便利だけどな。
そうだ。
魔力で生み出した火で物を燃やすと、維持魔力がかかるんだ。確か、作った魔力の1割ほどかかったはず。いや、0.5割だったか? これが意外だったんだよな。
異世界小説だと、火を出して、はい終わり、だったからな。
火が広がっても、維持魔力は変わらないんだったか。それで大きくなった火を操ろうと思ったら、また魔力が、必要になるんだよな。
広がった火は、また別物扱いになるからな。
維持魔力がなくなったり、供給をやめると、消えるんだったよな。広がった火も一緒に。
その点、水晶は何かの拍子に広がったり大きくなることがない。……慰めにしか聞こえない。
まぁいいさ。こうして考えている間にも、だいぶ使えるようになってきた。
魔法ってのは基本は感覚なんだな。
残すのは、実戦経験のみだ。チャンスを待つのみ。
村の外れから男衆が帰ってきた。
「おぉ、終わったのか? だとしたら、冒険者の方たちは?」
「まだです、村長。あと3分後にまた加勢に行きます。3分後に、総攻撃です」
「──オレも行く」
そう言ったのは誰であろう、ラインであった。
「待て待て。俺たちが行くのは戦いの場だ。お前みたいな子供が行くような遊び場じゃないだぞ!!」
「ふ〜ん、これを見ても連れてかない?」
そう言って水晶で、大型の矢を生成した。
「「な!?」」
「ついさっき、魔力に目覚めたんだよ。これなら十分戦力になるでしょ? ほら、こんなふうに自分の身は自分で守れるし」
そう言って、水晶を自分を覆う殻のようにした。
攻撃してみていいよ、と言おうと思ったら、既にガンガンと、殴られていた。
「確かに、ちょっとやそっとじゃ壊れねぇな」
「移動はできんのか?」
「無理だよ、まだ。練習すればできるかもしれないけど、そんな時間、ないんじゃないの?」
「確かに。そろそろ2分半経過だ。クロウ、お前の息子だ。ラインを見ておけ。よし、行くぞ!」
よしよし、早速実戦経験ができるとは……。意外に甘いな。
漫画なら、誰が何を言おうと子供はだめだ、とかいうのにな。
かなりウキウキワクワクしていた。するとクロウが、
「お前……何で水晶なんだ?」
と、尋ねてきたので、
「さあ?」
と答えるしかなかった。
転生前とか言っても、よくわからないだろうし、言う意味もない。
「……そうか。魔術師の中には、特定の属性しか操れない人がいるそうだからな、それだろ、きっと」
つい先程気づいたのだが、自分の心の中に意識をむけると、獲得済みの職業が表示されていた。それに、覚えた魔法も。
「……へ〜、そういうのがあるんだ」
初めて知った。
才能スキルみたいなのはあった。本当の呼び方は知らない。習ってないからな。なんとなく才能スキルと呼んでいる。
『不可知の書』
誰の目にも見えず、感じることもできない不可知の書物。
自動筆記。
つまりは、便利なメモ帳だ。
いつか必ず使うだろう。この戦いが終わったら、この世界についてまとめてみようかな。学校でいろいろ学んできたわけだし。
とりあえずはこんなものかな。
今更ながら、この世界の文字は日本語じゃないはずだ。なのに、日本語を思い出せない。どういうことだ?
でも、数字は同じなんだよな。まだまだ謎は尽きないな。
「おい、ラインそろそろ着くぞ」
小走りでおよそ30秒。村の外れに着いた。もう火は消えている。
「あれをよく見ろ、胸のあたりに何かあるのが見えるか?」
「あれが、核?」
「……よく知ってるな。学校で習ったのか?」
やべ!
そんなもの学校じゃやらねえよ。あ、そうだ。
「いや、昨日冒険者さんに聞いたんだよ。」
「そうか。にしても、よくあんな化物を見て平気だな」
「そう?」
「あぁ、大人は狩りをするときによく見るから、少し驚いただけですんだんだが……」
「オレに言われてもわかんないよ」
作業をしながら話をしていると、いつの間にか出来上がっていた。作っていたのは、矢の先端に油を塗りたくった布を巻いたものだ。
これをどうするのかというと……
「全員できたな。今から15秒後に、火矢で一斉射撃だ。火をつけ、準備をしておけ」
……オレの水晶はどうするかな。
でも、矢より威力は出る気がするから、いいか。
矢に火をつけて射るのは、スライムの体に矢を通りやすくするためだよな、多分。
じゃ、いいか。
維持魔力を少しでも減らすために、生成の準備だけしておこう。大きいのを作るか、小さいのを作るか。
とりあえずは小さいので様子見だな。
大きい矢だと、連発は効かないが貫通しやすい。だが、スリングほどの物だと、連発ができる。
まだどれくらいの威力を出せるかわからないから、小さいので連発してみようか。
効かない、効きにくいようなら大きいのに変えればいい。
「放て!!」
冒険者たちが、避けるのと同じタイミングで指示が出た。
前回と違い、狙うのは核。
燃えるものはもうない。あるのは、土と燃え尽きた柵と……標的のみ。
少し時間を稼げば、傷を回復させた冒険者たちが、攻撃に加わる。
人型スライムに、火矢と、魔力でできた水晶が降り注ぐ。
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