第147話 魔導書
オレが神の後頭部に棍を、ターバが神の腹に蹴りを加えた。
神はオレの突きは首を捻って躱したが、ターバの蹴りは少しずれ、肋骨に当たった。
バキッと、骨が折れる音がした。
そろそろ……決着の時だ。
神の腹の内は読めないが、これまでの神の記憶から、神が有するであろう切り札を予想することはできる。
オレの予想が正しければ、最大でも神はあと一つ、切り札を残している。
ふむ。
ささっと切らしてしまおうか。
「──『虚無情報』」
神に空虚な情報を送り込む。
次はない。パッチでも、遅れる容量に限界はある。2回送り込めただけでも大したものだ。
「ぐっ!」
一瞬にも等しい時間、オレは神の思考回路に干渉する。
だが、【思考加速】のあるオレにとって、問題にならない。この干渉は、緻密さを必要とする。
つまり、【知】の専売特許だ。
──来た!!
オレは干渉した瞬間、神の思考回路をバレない程度に弄った。
Aを取ろうとしたが、Bを取った。ではなく、Aを取ることには間違いがない。ただ、右手で取るか左手で取るかの違いでしかない。
その程度の違いでしかない。
……ふむ、やはり、切り札を持っていたようだな。
ターバ同様、寿命を削り、全能力を超上昇させる。神はそれに加えて【魂】系列の加護を核にしているため、上昇値が高い。
……加護の上昇値と神器の上昇値は比べ物にならない。
だが、オレとターバの2人がかりで抑え込めているのが現状だ。
神は実質、完全解放された加護を2つ持っているため、強いのは納得がいく。
だが、オレと戦えているのは……。
オレがまだ、神器の力を解放しきれていないせいだ。
だが、こればかりは時間の問題だ。この状態で戦うしかあるまい。
「いい加減煩わしい! ──『全能力値上昇』!!」
ふっ……単純なやつで助かった。
切り札を切るタイミングを早めただけ。そりゃ、違和感なく使うだろうな。
それで『全能力値上昇』は脳の制御装置を外すことだ。
オレのアシストで、若干外れやすい……制御装置に干渉しやすくさせた。
神の纏うオーラが強くなった。
制御装置なんて、そうそう外れるものじゃない。火事場の馬鹿力って言うほど、いざという時しか外れない。
死中に活を求めよ、というやつだ。
神の今の魂と体は、本来別々だったもの同士。だから、制御装置が外れやすい。
「──死になさい!」
神はオレの眼の前にまで、一瞬で距離を詰めてきた。
……想定済みだ。
「──『魔導書』 ──『盾』」
オレは神器である本を顕現させ、空中で本を開かせた。
その中の1枚が切り取られ、オレと神の間に割り込んだ。
神が紙に触れると、紙は破られる──ことはなく、神の攻撃を完全に防いだ。
「神器とは……厄介ですね」
そう、神器は厄介なのだ。
神器は世の理そのもの。
破壊不可能……イモータル・オブジェクト、というやつだ。
残念だが、『盾』は2枚までしか展開できないうえ、守備範囲が狭い。
だが、これは切り札ではない。
切り札の1つを切ったとき、これは必要なくなるしな。
「──『炎龍』」
神は炎の龍を生成した。
「──『滝雷』」
しかしターバが上空から雷を含んだ水の塊を落とし、『炎龍』は鎮火された。
「──『炎の書』」
本からページが更に切り取られ、神を囲んだ。
すると、ページに魔法陣が描かれ、そこから灼熱の炎が噴射された。
「──『水檻』」
神は水で自分を包んだ。
炎と相討ちか。水蒸気で紙が濡れるが、どうせ使い切り。限界もないし、問題ない。
魔法1発が消されたようなものだ
「その程度ですか? あなたの神器は戦闘向きではない──」
──ドズンッ!!
新たに用意した紙から土の塊……岩が発射され、神の腹に命中した。
神が怯んだ隙に、更に紙を切り取り、神を覆う檻とした。
魔法よりも、発動までの時間が短い。しかも、魔力の消費量は同じだ。
「な……!?」
「──『殲滅の書庫』」
紙の檻の中では、様々な属性の魔法が光線となり、雨のように神に降り注ぐ。
地面の中に潜ることができないよう、地中にはバリアが張り巡らされている。
そして、光線は檻の……半球の中心に向かって降り注ぐ。
その降り注ぐ魔力でもって、地中のバリアは維持、強化される。
そして、半球の上空に神器を浮遊させているため、ページが消えても次々と追加される。
しかし少しばかり、消費量に供給量が追い付いていない。
まあ、これで決着がつくなんて思っちゃいないし、つけるつもりもない。
こんなもので、神は消滅しないし、消滅させる気もない。
これはまだ準備段階なんだ。死んでくれるなよ?
ああ、反撃はできない。
地中のバリアが神の体外に出た魔力も吸収するからな。
肉体攻撃も、この紙は破れはしない。
5分後、ようやく『殲滅の書庫』が終了した。
供給が追い付かなくなり、開いた穴から神が飛び出してきた。魔法は射線を変え、飛び出してきた神に全弾命中する。
ドサッと、神が地面に受け身もなく着地した。
あの光線の雨の中に5分以上晒され続けたにしては、軽傷のようだ。
だが、五体満足ではないようだ。
だが、すぐに魔法で代わりの手足を生成する。
だが、受けたダメージは決して軽くない。残り魔力も残り1割にも満たないか。間違いなく瀕死。
よかったな、オレが切り札を使わせなかったら死んでたぞ。
死んだら死んだで、またこの世を彷徨うだけなんだろうけど。
「かふっ」
神が血を吐いて倒れ込んだ。
「──『雷槍』」
ターバが雷の槍を大量に生成し、神に飛ばす。
「──『封印』!!」
その瞬間、ターバが消失した。
封印したか。しかし、封印師でないため、完全な封印とまではいかない。
「ターバは私の魂に封印しました。いくら貴方でも、魂には攻撃できないでしょう。ターバも、魂は不死ではありません。……終わりです」
「……お前がな」
「────!?」
神が鼻血吹いて倒れた。
「何を……?」
「自分の体、見てみろ」
「……? ──!!」
そう、神の体はズタズタだった。
無理やり使用した『封印』が仇となったな。
神が何かしら大技を使用することは読めていたから、その隙に体と魔法でできた手足の接合部を亀裂を入れた。
それに、ターバは加護持ちで、加護の力を(できる限り)最大限引き出した天災だ。字は間違っていない。
その魂が、一般人の魂と同レベルのはずがない。
神は、オレのお手手の中で転がっていたというわけだ。
「さて、これまでお前は何人、犠牲にしてきた? ……と聞きたいが、オレも魔物の命を奪った。【戦闘狂】と言われるぐらいにな。それに、オレはこの世界で目いっぱい生きた。奇しくも、お前のおかげでな」
オレは神に近づき、そう言った。
神にはもう、動く気力も体力もない。ターバを封印から解けば、その反動で死に至る。
「お前は、自分が死んだあとの算段すら立てているだろうな。だが、オレはお前を……魂ごと消滅させることができる」
オレには、神を倒す術が2つ、用意されている。
片方は、永劫封印。もう片方が、消滅。
「神に祈る間を……ああ、お前が神なんだったな。神殺し……悪くないな。それじゃ……今度こそ本当に」
────死ね
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