第146話 水晶怪物と不死身勇者と魔性の王➂
水素爆発を引き起こし、神の立っていた場所に、更に追撃を仕掛ける。
傍から──前世の人間の価値観から見れば、この状況はまさにカオスだろうな。
水晶に全身を覆われた怪物と、炎と水と電気を纏った白髪紅眼の派手な男2人が、神聖な空気を纏う女を容赦なく攻撃しているのだから。
おまけに、この戦いは間違いなく、有史以降最大規模の戦いだ。
だが、勘違いしないでほしい。
オレたちが攻撃しているのは、魔王──魔性の王だ。聖女のような見た目とは裏腹に、な。
生命反応は……相変わらずある。
さっさとくたばってくれればありがたいのに。
まあ、これで死ねば呆気ない……いや、水素爆発の威力はとてつもないものだった。死んでもおかしくないか。
神はどうなっている?
あそこにいるのは確かだ。
「ターバ、一度攻撃を止めよう」
「ん、おう」
嫌な予感がしたため、攻撃を止めた。
これだけ攻撃して、死ぬ……までは行かずとも、姿を現さないのはおかしい。
そして、煙が晴れる。
「なるほど、そういうことか……っ!」
神は、その場に立っていた。
神はオレたちの攻撃をほとんど無効化していた。
「あれは……なんだ?」
ターバの声が震えている。
オレの目には……それの正体がありありと浮かんでいた。
「……『犠牲』で左腕を犠牲に、魔法関連能力を限界突破。そして、『霧化』で物理ダメージを無効化。更に『排除』の効果も大幅に上昇させ、魔法ダメージも大幅に減少させた。……ということか」
繰り返し、細かくまとめよう。
まず、基盤となった『犠牲』。
これは一般魔法で、魔力だけでなく、身体ダメージも代償にする。
だが、加護持ちでも制御できず、生命ごと消滅する。その代償として、辺りの生命を跡形もなく消滅させる。
おまけに、上手く制御できても、超強化は時間制限付きだ。
だが神は、それをコントロールし、身体的犠牲は左腕だけ。消費魔力も上手くコントロールしたようだ。
そして、得たエネルギーで魔法関連能力を大幅上昇。
攻撃関連能力はゲーム風に言うなら、攻撃力、クリティカル確率・ダメージが主。ゲームによっては、他のサブステータスも存在する。
魔法関連は……魔法攻撃力、魔法防御力、魔法技術力……といったところか?
そして、『霧化』で自分の体を霧とする。……原理はよくわからない。科学の世界で生きる人間の頭がオーバーヒートすること間違いなし。
自分の体を粒子……もしくは、原子レベルにまで分解しているのか。
それとも、霊体となっているのか。
ともかく、物理ダメージを一定期間無効化させる魔法であることは間違いない。対抗策は魔法のみ。
更に常時展開されている『排除』が『犠牲』で超強化され、魔法ダメージを大幅に減少させる。
まだ効果は続いている。
物理も魔法も効かない。さて、どうしたものかね。
妨害魔法も、所詮は魔法。『排除』は神を守るように展開されているからな。
あらゆる魔法を無効化する。
「ライン、どうする? 無理やり突破できる方法は?」
「──ない」
「どうする?」
「効果が切れるのを待とう」
オレは神の『排除』が展開されている領域に沿って水晶の殻を生成する。
その殻の周りに、『晶装・槍』を展開する。
それに倣い、ターバも炎、水、雷の槍を生成する。
少しして、霧が集まりだした。
なんとなく、人型を形成しようとしているのが見える。
そして、人型が形成されようとしたそのとき
──バァァァアアアアアアアアアンンン…………
と、音を立てて、神が爆発した。
だが、音の波はオレとターバの展開していた魔法を強引に打ち消した。
オレたちの方には音しか届いていない。
「どこに……」
「──ターバ、後ろだ!!」
ターバの後ろに冷たい光をその両目に宿した神が回り込んでいた。
武器は持っていないが、手刀に炎を宿していた。
オレの眼が、その炎の特性を見抜く。
炎の威力は控えめだが、範囲を対象(個人)に限定される。
だが、対象を燃やし尽くすまで消えない。火力は控えめとは言え、ターバの再生速度を上回るだけの火力は有しているはずだ。
ターバは加護の効果で常に傷が癒え続けるから……相性は最悪。常に再生するターバの天敵は、途切れない攻撃。
「問題ない!」
ターバの体が一瞬、蒼く輝いた。
その直後、神の後ろにターバが回り込んでいた。
ターバが両手の剣を振り下ろした。
神はギリギリのタイミングでターバの攻撃を防ぐが、弾き飛ばされた。
神は、別にパワーアップしたわけではない。
それどころか、わずかに弱体化したようだ。魔力の使い過ぎだ。自動回復が追い付いていない。
「──『雷帝』 ──『水帝』 ──『炎帝』」
どれも、属性の身体強化魔法の最上位だ。
しかし、それらは反発する。しかし……
「──『雷水炎帝』」
無理やり抑え込む。
もちろん、無理やり抑え込むことは可能だ。
しかし、その代償として、ターバの体は崩壊する。
それも加護が癒すんだけど。ターバじゃないとできない荒業だな。回復魔法を常時展開できていれば、誰でもできそうだが。
回復魔法は適性がないとできない。神は適性がなかったようだな。
四大元素とかの元素とは別のルート。起源から違っている。駿なら使える。
「──『聖物融合分解』」
ターバは聖物を交差させる。
すると、雷の聖物は雷を。水の聖物は水を、その刀身に纏わりつかせた。
そして、その刀身が輪郭を失い、互いに溶け合う。
その瞬間、ターバの肩に餓者髑髏と騎士団長の幻覚が見えた気がした。
見間違い……
──え?
違う? ん? 本物……モノホン? パチモン……いや、幻覚じゃなく?
いや、異世界モノの漫画とか小説なら、たしかにこういう幻覚が出てくる演出がある。あった方がかっこいいしな?
それが目の前で起きている。確かに、心躍るよ。小躍りしたいよ。
でもさ。
なんで幻覚じゃないんだよ。
2人の残留思念だ。
……いや、漫画や小説のアレも残留思念だった可能性もある。
ごめん。本当のことを言う。
残留思念っていうより、もうはっきり言えば、お化け──幽霊だ。
幽霊は魂を核に、相手に見えるように疑似的に体を作ったものだ。
非科学的に感じるが、それは科学世界での経験がそう、感じさせているだけだ。
幽霊は不可視を可視にするもの。その際、何かしらのエネルギーを媒介にする。エネルギーは消費しない。
言わば、幽霊はエネルギー体……純粋なエネルギーそのものだ。
前世では、電気エネルギーを媒体にしていた。
だが、空気中……自然にある電気エネルギーは、幽霊が媒体にするには少なすぎる。
だからこそ、姿を現わせる幽霊は少なかった。
また、強すぎる念がエネルギーと化し、物理に干渉できる者も少なくなかった。
話を戻すが、この世界には魔力エネルギーが溢れている。
そのため、比較的に幽霊が姿を現わしやすい。しかし、幽霊の目撃情報は詳しく調べなければ出てこない。
その理由は、この世界には幽霊という概念が存在しないためだ。
それに、この世界の命は軽い。死が近いところにあるせいだ。
それで、話を本流に戻そう。
二つの金と蒼の聖物は混ざり合い、金と蒼が混ざり合った剣が二本、生成された。
これで、本当に二つの聖物の力が掛け算された。
ターバの手甲にも、金色と蒼色が混ざっている。
ターバの切り札だろう。
だが、巨大な力を有する異なる二つの物を掛け合わせているんだ。時間制限がある。
見た感じ……3時間ってところか? 結構長いな。ターバが寿命を削った結果だ。
「ぬるい!」
「こちらのセリフだ!」
再び後ろに回った神の背後にオレが回り込み、神の後頭部目掛け、棍を突く。
ターバは体を180度回転させ、神の腹部に蹴りを加えた。
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