未来型兵器4
世界の深層へと繋がるのは絶望の真実、複雑に絡み合う物語の歯車が大きく音を立て始める。
「……あぁ私はそんな世界から唯一の希望であるこの世界線に飛んだ。」
それは少し意外な答えだった。
続きそうな話の流れで、俺は間髪入れずに質問する。
「え?ちょっと待ってください。 先生たちはこの世界線の未来から来たんじゃないいですか?」
「違うよ。私達タイプα-ι世界線の人間で、この全く違うタイプθ-κ世界線の人間じゃない。 そうだね、面倒だけど世界線について少し話そうか。 世界線というのは2つの大きな波が3000年という周期で膨張と収縮を繰り返している。 もっと詳しく言うなら世界線という大カテゴリーの中に14の流れが存在していて、その流れを古代ギリシャ文字に当てはめてα世界線だのβ世界線だのと呼んでるわけだ。 世界線は現在……7と7に分かれて、近しい世界線が複雑に絡まりあって2つの波を作っている、さらに細分化された小カテゴリーがタイプα-α、タイプα-βと無数に分かれているってわけだ。 無数にある世界線の原則としてα世界線の人間がβ世界線に飛ぶのは不可能。 全く別の世界には全く別の事象、ルールが存在する。 だがα世界線内での移動は可能だ。 基本的に大元が同じだからね」
どういうことだ?先生の言っていることは完全に矛盾している。
世界線の大元の移動ができないと言っているのに先生はタイプα-ιからこのタイプθ-κ……タイプh?に移動してきていると言っていた……もしかして先生の言葉に何かしらヒントが?
……確か。
先程の先生やヴィリの言葉を思い出す。
最悪の結末、戦争、世界の終焉。
もし、先の未来で戦争が起因して世界が終焉を迎える事と仮定して、俺にどうしろと?
戦争なんて国家間のことだろ?……庶民で、たいした学のない俺にそんな未来を変えるほどの力は存在しない。
俺というただの庶民に何を求めているのやらと、鼻で笑っていたいがやはり腑に落ちない。
これは本当に人間同士が争ったが故におきたことなのか?
全く違う事象、ルールが存在する世界が無数に存在していて、それは今も並行して動いている。
もし一つの世界が滅亡したとして、それが理由で地球が終わるなんてことがあるのか?
全く違う分岐をした世界が一つの同じ終着点を迎える理由……
「先生、世界線って14本以外に存在していませんか?」
先生はニヤリと笑う。
「14本というのは未来で今を観測したときに現存していた数に過ぎない。 それ以前だと他に約4本の存在が確認されている。まぁ全部破滅してしまったけどね。 もう気づいただろ?」
世界線が一つや二つなくなったところで全ての世界線と同時に消える理由にはなり得ない。
だが先生は終焉した世界で全く違う大元のこの世界に来た。
しかし原則として世界線の大元以外に飛ぶことはできない……
ならどうやって?
可能性は2つ、1つは平行移動している世界線が突如何らかの要因で一斉に壁にぶち当たって消滅してしまった。
だがこの場合、世界線が収束してないので先生はこの世界にくることができない。
だとしたら答えは一つだ。
「7と7に分かれた全く違う2つの世界線自体が無理矢理ねじ曲げられて、一つの世界線へと変えられ、そして終焉を迎えた?」
先生は潤いを含んだ目で、優しく頷く。
「あぁ、正解だ。 全ての世界線が半ば強制的に集結させられたことにより、未来の終わりが確定した。 だが、そんな未来だからこそ奇跡を探す事もまた不可能ではないと言うことだ。」
その奇跡というのが今まで観測のできなかった世界線の異分子、俺を見つけるということにつながるのだろう。
「でも先生たちは全く異なる事象とルールが存在する世界の人間なんだろ? 例え世界が一つになったからという理由だけで、過去に飛ぶのは少々都合が良すぎるんじゃないのか?」
「そう……だから私たちは全ての世界線における唯一の共通点、時間を触媒にして来たんだ。 いいかい?君の存在は、いや、君の存在するこの世界線は、唯一の希望なんだ。 だから私は君に未来を変えてもらうために寿命も……何もかも全てを捨てて過去のこの世界にやってきた。 ま、この子みたく例外があるなんてのは想定外だったけど……これも運命か……」
「……」
何もいえなかった。
知らない間に勝手に期待されるなんてとんだ迷惑だ。
俺に一体何を望んでるって……
分かっている。
分かっているさ、きっと未来の彼女たちは俺のタイムリープに何か希望を持ってきたに違いないんだろう。
しかし、俺には彼女たちの期待に応えてはあげれない。
だって……
「悪いな先生……先生は俺に備わったタイムリープ能力をあてにしてきたのかもしれないけど、俺にはもう使えなし使う気がないんだ。 前回運良くタイムリープできたがそれは偶然で、次やったら本当に死んじゃうんだ。」
目線が合わせれなかった。
未だに先生の腕の中でうずくまっているヴィリを見ていると希望を裏切ってしまった気がして申し訳ない気ことこの上ないが、もう死ぬなんて正直ごめんだ。
俺はその場で沈黙し、空間に哀愁を漂わせていると、先生は軽く笑う。
「そりゃ、今の君にはどうもできないだろうね。でも……」
大量の汗を垂らしながら先生は強く震える手で人差し指を向け、確証か、はたまた覚悟か、強い意志を持って俺を見つめ、一言だけ振り絞るように言葉を吐き出す。
「君は選ばれた……クロノスの血液、唯一の適合者として……」
先生はこくりと頷く。
「そ……う」
「タイターーーーー」
「先生ーーーー」
話の途中で、意識を失う先生。
どうやらヴィリさんに殴られたのが相当効いたのだろう、殴られた時は大してひどくなかった傷は大きく腫れ上がり、目が隠れてしまうほどだった。
俺は急いでポケットに入れていた携帯電話を取り出し、救急車を呼んだ。
我慢していたのだろう、それからは全く意識が戻ることはなく、駆けつけた救急隊によりすぐさま近くの病院に搬送された。当の俺たちは駆けつけた警察から何があったのか事情徴収を受けて、そのまま帰らされた。
如何せん、現実味がなさすぎる。
それでも教室に木が突然生えたことや、先生が倒れた時のヴィリさんが施していた魔法?のような緑色の何か。それは右手が発光し、その手を先生の顔にかざした途端みるみる腫れが消えていった。
それから数刻、気づけば夕方で、太陽が半分顔を隠し出して夜の訪れを伝えている。
「たく、何が何やら……一旦家に帰って風呂入って寝よ。」
今日だけで膨大な情報量を与えられ疲労困憊だ。
大好きな子がまさかの未来の兵器で、しかもその未来は終わってるときた。
先生は未来の研究者で未来を変えるために俺と接触しにきたとか……やばい、考えるだけで面倒くさくなってくる。
俺は大きくため息をついて、駅の方へとゆっくりと歩き出した。
すると後ろから声がする。
「待って。」
振り返るとそこには普段の小早川さん然り、ヴィリがこちらを見ながら立っていた。
夕焼けに当たる彼女の髪は幻か、現実か、4年前の少女と酷似しているような気がした。
「えっと……どうしました?ヴィリ……さん?」
その表情は未だ無表情だが、夕焼けに照らされていてか頬があからんでいるように見えた。
「……ありがとう」
「はい?」
「私を止めてくれたこと、感謝してる。」
流石に今回の事は本人もやりすぎたと思う事があるのだろう。少し目線を下に向けているし、俺は当たり前のことをしただけなんだけどなぁ。
少し悩みながら左手で頭を掻いてブサイクな笑顔を作る。
「そりゃ、好きな人の殺人なんて見てられないからね。」
「好きな人?」
「え?」
数秒固まってから自分の発した言葉に後悔する。
っっっ言ってしまったぁぁああ
馬鹿か俺は……愚直にも程があんだろ!好きだけど!慰める程度の!つもりだったのに!!
告白しちゃったら意味ないじゃんか。
その場で俺は恥ずかしさのあまり蹲ってしまった。
チョンチョンと肩を突かれて振り返る。
そこには俺の目線に合わせる為に同じようのしゃがみこんで、彼女がこちらを覗き込んでいるではないか。
「私こと好きなの?」
顔を傾げて不思議そうに見つめられる。
こうなればもうヤケだ。別に言い訳したところでカッコ悪くなるだけだし……言ってやる。
「そうだよ。好きだよ!愛してる!だから付き合ってほしいとすら思っている!」
「そう。私はよく分からないわ。」
「……へ?」
俺は……どうやら振られてしまったらしい。
未だに不思議そうにこちらを見つめるヴィリ、何か他に言おうとしていたのだろうが、俺はどうしようもない虚しさと気恥ずかしさで、いても立っても入れなくなってその場から全力で走り、逃げ出してしまった。
駅から駅へ、無心になりながらただただ肩を落と、千鳥足になりながらなんとか放心状態で家の前まで辿り着く、するとそこに見覚えのない少女が座り込んでいた。
……誰?
それぐらいしか感想がなかった。今は誰にも触れられたくない、今日一日だけでいいからほっといてくれ。
死んだ魚の様に覇気のない瞳で、心は重力で溶けそうな程弱々しく、憔悴しきっている俺に少女は無邪気に話しかけてきた。
「勇祐! ひっさしぶり!」
俺の名前を知っていて笑顔で話しかけてきた短髪の少女……
びっくりしながら、考える。
考え……
え?
「……ほんと誰?」
ここから話が難しくなってしまいます、読者の皆様には大変申し訳ありません。
色々構想を練ってできる限り伝わりやすく努力したつもりではありますが、分かりにくければお手数ですがコメントを頂けると助かります。