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未来色少女  作者: 葵鴉 カイリ
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未来型兵器3


 つい小早川さん……もといヴィリに見惚れていると教室の後方から聞きなれた声が声高々と聞こえてくる。


「ハハハハハ、ついにきたよ! みんな待った? 私だよ!!」


 勢いよく教室のドアを開いて登場したのは、紛れもない保健室の先生こと三雲玲奈だった。


 格好を付けて登場する予定だったのだろう。


 そのコンマ1秒のドヤ顔を俺は決して見逃さなかった。


 瞬き一回、脳裏に焼きついたドヤ顔がたったコンマ2秒後には見るも無惨に変形するその一連の様を。


 先程まで、それはそれは天使のような笑顔を俺に向けてくれていたヴィリさん、しかし先生が現れた瞬間、人間の身体能力では説明がつかない速度で三雲先生の顔面に膝を打ち込む。


 スローモーションに感じた瞬きの映像が当倍速で進む。


 ドン!と大きく壁に縁つけられる爆発音が誰もいない教室、廊下に振動を与える。


「へへ、久しぶり……ヴィリ?なんて顔してるんだ……笑えって……」

 

 愛想笑いからの、怯えて震える声。


 ヴィリは容赦無く拳を何度も振り上げる。


 先生は死んじゃうよ……へへとそんな情けない声を出しながら殴られ、震える声と骨が軋む音が混ざり合い不協和音を奏で出してから俺はようやく我にかえった。


 時間にしては先生が登場して約2分程度の出来事。


 あまりにも一瞬だった故に、俺はその場での状況判断ができず脳がフリーズしていたのだが、数秒単位であまりにもテンポよく放たれる鈍い音に、頭で考えるより先に体が止めに入っていた。



 ヴィリさんの腕を掴んで、無理矢理先生から引き剥がす。


 あれだけ身体能力が高かったヴィリさんを俺がこうして止めれるとは……もしかして俺って強い?


 って……んな訳ないわな。きっとヴィリさんが先生に手加減していたのだろう。

 

 この危機迫った状況で何とか仲裁が間に合ってよかった。


 そんな安堵をしたいところなのだが……目を先生にやると血だれけで横たわり、伸びている。


 死んではいないよな?


「いっつて……」


 何も話さないが、狂犬のように目が血走っているヴィリさんをよそに、割れてねじ曲がってしまった眼鏡を憂いのある表情で、軽く手で埃を払いながら拾う。


「ヴィリさん!落ち着いて! 」


「…………」


 教室の硬いコンクリートの上。


 顔は腫れ上がって明らかに原型をとどめていない先生、そしてそんな酷いことをしたにも関わらず目以外はいつもと大差なく未だ澄ました表情で、されど未だ湧き上がる怒りを全く顔に出さずに血が滴りそうなほど拳を強く握っているヴィリさん。


間違いなく俺が仲裁してなかったこの先生死んでたな。



 さて、この状況で流石に察しは付くが一応は確認をしとかないとな。


「先生……もしかして俺が小……ヴィリさんから色々な説明を教えてもらっている間ずっと待っていたとか?」


 俺が先生に質問をするとヴィリは俺にもキッと睨みつける。


「ヴィリでいい。 さんはいらない。」


「え?あぁ悪かった。」


 睨みつけられた時は体に触れたからとかだと思ったけど、まさかそこなんだ、怒るところ。


 俺が謝罪をするとヴィリはふいっと再度先生に殺意を向けた。先生はその殺意に応えるようにヒッと声をだす。


 さて、この状況を冷静に考察するとまさかとは思うがまさかだよな?俺の考え過ぎであってほしい限りだが如何せん有り得そうだから困る。


 俺がここに来る前、会わないと行けないか聞いたら時に、自分が説明するのが面倒くさいから行きなさいと言って、説明責任を放棄して全てをヴィリに丸投げしてた人だし……


「あぁそうだ……急に変に話を遮るようなことする意味もなかったからね。」


 先生は特に言い訳などをする様子もなく、少し声を詰まらせながら自認した。


 やはりそうだろうな……そりゃあんなタイミングの良い登場、やろうと思わないとできないわ。


 いや、良いんだよ?俺は別に今回のことに関して、呆れはするが責めるつもりなんて毛ほどもない。


 しかし責めずにはいられない人間がこの場にはいるんだよ?


 先生が現れた瞬間のヴィリの反応を見る限り、先生は今までヴィリに説明はおろか、接触すらしていなかったのだろう。


 あれだけ穏和な性格の彼女を豹変させるくらいに重要な存在……間違いないだろうな。


「それで? ヴィリの反応から大体はわかるんだけど……先生何者?」


 先生は腫れ上がった顔で、腰に腕を当てながらそれは嬉々と自己紹介をしようとしていたが、チラリとヴィリの顔を見てすぐ小さく息を吐いて萎縮する。


「君気づいてるよね?」


「確認です。」


「ふぅ、じゃあ改めて自己紹介させてもらうね。 私の名前は三雲玲奈、未来を変えるために未来を見捨てた最低にして最高の希望、又の名をジョンタイターと言う。」


 先生は胸に手を当てて、奇奇怪怪と不気味な笑みを浮かべる。


 多分格好つけてるんだろうけど、その言葉に俺は驚きよりも安心した。


 これでジョンタイターじゃない他の名前が出てきたら、俺は話についていけずに家に帰っていたところだ。


「それで、最高の希望ことジョンタイターさん。 あなたの捨てた未来からきた彼女……どうするつもりですか?」


「……」


 未だ無言で殺気を放つヴィリ。


 思ったより力が弱いから、抑えられているけど早くどうにかならないか?


 このままじゃ話に集中できない。


 呆れていると、ヴィリは力んでいた体をゆっくりと落ち着かせ俺の抑えていた腕からしなやかに体を曲げて、するりと抜ける。薄暗く陰っていく無表情のヴィリはゆっくりと先生に近寄る。


「タイター?」


「……ハイ。」


「何で、何で未来から逃げたんですか? 何で私たちを置いていったんですか? 何で! 貴方がいなくなってから世界がどうなったか! シスちゃんやみんな……大勢の人間があいつらに虐殺されたんですよ……何で……うぅ 」


 涙目でヴィリは先生の襟元を鷲掴んで問いかける。


 ヴィリが先生に何を言っているのか。何をそこまで必死に訴えているのか。その意味も、言葉の重みも、今の俺には理解できない。できて良いものではない気がする。


 彼女は最悪の未来からいなくなったタイターを連れ戻すためにこの世界に来たと言っていた。


 もし、最悪の未来はタイターがいなくなったことに起因しているとするのなら、彼女が涙を流して、酷く訴えている姿はとてもじゃないがみるに耐えなかった。


 先生は彼女の訴える言葉の重みもしっかりと理解しているのだろう。


 ただただ申し訳なさそうに「すまなかった」と憂に満ちた瞳で何度も言いながら、嗚咽混じりの泣き声で訴えるヴィリの頭をゆっくりと撫でいる。


 そんな様子を俺はただ何もいえず立ち尽くしていると、先生と偶然目が合う。


 先生は俺の顔を見てから視線を少し落として優しい声音で淡々と話しを始めた。


「勇祐。私はこれから先の未来でタイター……なんて大それた仮名を使って戦争の渦中で色々な研究をやっていたんだよ。 ただ引きこもって研究するのにも疲れてね。 久しぶりに外に出て、世界を見た時には終焉はすぐそこまで迫っていたんだ。 空は黒く澱んで、青く不気味な光が空を割る、大地は死滅し、人類の営みは虚無へと帰った後の世界。 膝をついて声を殺しながら泣き喚いたよ。 私はまたもう一度、たった一度でいいから当たり前の幸せを過ごしたいと……普通を願っただけだったのに……。 そしてそれから数日後、未来は私の、人類の、生命の努力を夢を拒絶した。」


「それはどういう?」


 息を呑んだ、先生の表情から、ヴィリの嗚咽から、この先の未来がどれだけ過酷だったのか。


 先の未来で、地球は全ての生命にどのような拒絶をしたのか全く持って想像ができない。


「……夢は未来があるから見えるってことだよ。」


「それってつまり……」


 ヴィリは言った世界線は地球の始まりから終わりまで無数に伸びていると。


 そしてそれは膨張と収縮を繰り返している。


 ただそれだけじゃ世界線という大きな流れから全く違う流れの世界線へ移行は不可能。


 先生は言っていた世界が終焉を迎えたと……


 結論はひどく明白なものだった、要するにこれから先の未来に世界線の全てが集結をするということ。


「未来が……地球が終わる?」


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