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未来色少女  作者: 葵鴉 カイリ
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未来型兵器2


 タイプh、未来から来た敵に知られるのはまずいと言っていた謎のワード。


 今を指しているのは分かるが、一体未来に於いてこの今という時間はどれ程重要なものなのだろうか?


 つい疑問に思って突発的に聞いてしてしまったが多分教えてはもらえないだろう。


 そもそも俺はニュースなどの社会情勢に微塵も関心の人間で、それ故に世間に疎く、この世界についてなんて小早川さんとこうして話をしている今の今まで全く興味なんてなかった。


 こんなしがない学生の俺に、未来のことを話したところで俺にはどうすることもできないし、そもそもこの話を小早川さんが話すメリットがないわけで……


 多分教えてはもらえないだろうなと、半ば諦めていた。


 しかし、案外そんなことはなかった。


 彼女は口を開くと躊躇うことなくするすると言葉を紡ぎ出す。


「分かったわ。 貴方は世界線という言葉を知っていうますか?」


 すぐに本題に入ろうするでは無いですか!


 別にいいけどそれでいいのか?


 ちょっと戸惑いつつ、説明を始める小早川さんの言葉に俺はすぐに投げ返す。


「え?あぁ。 一応ライトノベルとかアニメとかで見たことがあるけど、あれだろ?今と同じ時間には並行世界がある的な?」


「そう。 大体それで合ってるわ、世界線ていうのは地球の始まりから今まで、全ての生命、元素、人間の選択により、無数に生まれ、存在している世界の数、それが世界線。この世界線は、今も無数に乱立していて、常に一緒の速度で並行して動いているわ。 ただしそれは今を生きる誰にも干渉はできない。」


 今を生きる誰にも干渉ができないものか。


 だから未来から来た小早川さんは過去に干渉し、この世界に来ることが出来た……もし彼女の言っていることが正しいのであれば大体の辻褄は合う。


「結局タイプhとはなんだ? 」


「タイプhは今日、日付が変わる瞬間に突如としてタイプθ-κから生まれた謎の世界線。 タイプθ-κは無数に存在するタイプθ世界線にあるひとつで、約4年前に全ての世界線で死ぬことが確定していた存在が生き残った事で、全く異なる運命を辿る特別な世界線。 そして今週に入ってから突如としてこのタイプθ世界線はありえない数に膨張をしたの……それは誰かが故意的に起こしたとしか思えないほどに。」



 世界線が故意的に?


「説明中に口を挟んで悪い。 疑問なんだが世界線てのはそんな故意的に増やしたり減らしたりできるものなのか?」


「結論から言って不可能ではないけど、世界というものは人間の目に見えない法則、理により出来上がっている。 だからその時間を生きている普通の人間が努力しても無理。 例え可能性の幅を広げれたととしても、結局は全て収まるところに収まり、必然の枠をはみ出ることは決してない」


 なんでこんなにも含みのある言い方をするのだろうか?小早川さんは最初に不可能ではないと確かに言った。しかしその後の説明は、完全に世界線を増やすことを否定しているように聞こえる。


 それは何故だ?不可能ではない。


 だが世界の法則、理の中で生きている普通の人間にはできない。


 法則……理……普通……その全てに当てはまらない……その可能性。


 脳裏にその存在が過ぎる。


「……もしかして、タイムトラベラー? なのか?」


 可愛らしい顔、しかしその瞳は何かしら確信があるのだろう。


 俺をまっすぐと見つめて強く頷く。


「いまだ仮説の域を出ていないけどほぼそれで間違いないと思う。  未来から何らかの要因で飛ばされたトラベラーは、一つの世界線に異分子を作り、結果いくつもの世界を変える要因を作り上げた。 そしてそのトラベラーが残した要因は別々の未来を歩み、無数に世界線を増やす結果になったと推測している、この世界もまた、そのトラベラーに起因していると予測」


 なるほどな、色々不可解な点は残っているが大体は理解できた。


 俺がこの世界線に移動した理由はわからないが、俺が前まで生きていたのはタイプθ-κ世界線という世界線。


 そして前の世界線で俺が小早川さんに聞かれた質問に不用意に答えたことで、今いるタイプh世界線が分岐ではなく突如として出来上がったっていうのが大体の流れなのだろう。


 世界線によって色々違うみたいだし、今日が前の日常と少し差異があるのも納得がいく。


「なるほどな、その中の無数に増えた世界線から突如生まれた世界線が此処ってわけか。 あらかた理解できたが、だからこそ謎だ。 何でこの世界なんだ? その行方不明のタイター?って人物が居る可能性になるものでもあるのか?」


 俺が真剣に質問をすると、小早川さんは左手をすっと上げで俺の方に人差し指を向ける。


 この教室には俺と小早川さん以外は誰もいないはず、もしかして俺以外に何か見えているのか?


 恐る恐るゆっくりと後ろを振り返るが、そこには誰もいない。


 再度、彼女の方を見る。確かに人差し指は俺の方にしっかりと向けられている。


「あなたよ」


 間違いなく小早川さんは俺という存在に向けて、言葉を放っている。


 まさか……半信半疑で体を左右に揺らしてその人差し指の動きを目で追う。


 人さし指は確かに俺を追っている。


「ハハ……何の冗談だよ? あんまり驚かさんでくれ」


 軽く鼻で笑って、瞬きをしながら小早川さんの顔に目を向けると、やはり見間違いでも、聞き間違いでもなく彼女の人差し指は俺の方向に向いていた。


 それは羅針盤が正確な北と南を刺すが如く指がブレることがなかった。


「冗談じゃないわ。 あなたは全ての世界線における異分子。 あなた、他の世界では約4年前に漏れなく全員死んでいるの」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の全身の血の気が引いた。


「いや……いやいや、ちょっと待ってくれ。 それでもこのタイプθっていう膨張した世界線には他にも俺はいるんだろ?」


「いえ。 今朝の時点でタイプθのあなたの死が全て確認されたわ、だからもう世界線で勇祐、貴方が最後の存在なのよ」


 何だよそれ……以前の世界で俺は死んでいる……?それはつまり、2日後に小早川さんに殺されたあれは、幻でも夢でもなく全て現実で、俺は死んでから突如できたこの世界に来たという事だ。


 世界線が本当に変わったとして少しの差異しかなかったのはおかしくないか?


 確かに学校生活はあまり変わっていなかったように感じたが、それでも明らかに記憶と違う点がいくつもある。


 なぜ鏡花は今日1日俺の暴力を振らなかったのか。


 なぜ放課後、機械音痴の鏡花が新型AIの発表会なんかに誘ったのか。


 なぜ俺を殺した小早川さんは姿が若干違うのか。


 そうか、そうだよな。


 世界線を移動した時点でそもそもこの世界自体が俺の今まで生きていた世界じゃないってことだよな。


「はっ何なんだよ……それ」


 近くにあった椅子を引いて、俺は急に全身の力が抜けて体重に任せて勢いよく腰かけた。


「本当よ。 だからタイターがいる可能性が高い。 だから来た」


 要するに俺は俺の知っているようで知らない全く違う世界に来ちまったってことか……


 俺、このまま生きていけるだろうか?


 全てが俺の記憶と微妙に違う世界。


 この世界に生きている人たちが悪いわけじゃないが、俺は多分その少しの齟齬が受け入れられないかもしれない。


 言ってしまえば大筋があっている作り物の世界に迷い込んじまったってことだ。


 ……迷い込んだ?俺だけ?


「小早川さん、質問何だけど。」


「ヴィリでいいわ。 それで何?」


「なんで俺は前の世界の記憶を有しているんだ? そもそもこれはタイムリープじゃなくて世界線移動だよな? さっきの説明と矛盾してないか?」


小早川さんは俺の質問に、先程までのようにすぐに返答せずに顎に手を当てて、少し考え込む。


「……おかしい。 今あなたに起きているタイムリープの様な過去に戻る能力は、はっきり言ってありえない。 もしあったとしても、現状この星に存在する生命体にはそんな権能がない。 だからこれは仮説。 きっとあなたは世界をループしているんじゃない、貴方は何かをきっかけに魂が他の世界線に移動しているのよ。 多分……」


 何かきっかけか……心当たりは一つしかない。


「死ぬってことか……」


「恐らく。 でももうあなたは死ねない。 あなたが魂だけで世界線を移動していると仮定しても、もう残機がないもの。」


 残機、それは先程言っていた全ての世界に於ける俺という存在がこの世界にしか居ないことを言っているのだろう。


 どうやら俺の知らぬ間に得た、死んでやり直す能力はこの世界に来た時点ですでに使い物にならないらしい。


「はぁ……」


 ため息しか出ない。何でラノベやら漫画のような不思議なことが目の前で起こって、尚且つ俺の存在が特殊という主人公確約のような演出が今起こっているのに能力は使用不可って……何だこれ?


「っそういえばさっき現在進行形の世界線には移動できないって言っていたが魂はいいのか?」


「そんなことはない。 出会わないっていう例外を除いて、同じ人間が2人存在したら所謂タイムパラドックスで時空の歪み生じる。 例えば出会った2人が混ざってひとりになったり、はたまたその存在の片方が無かった事にされたり、そもそも二人とも存在しなかったことにされたり……何方にせよ出会った時点で何かしらは起きて片方、もしくは両方が消滅するわ。 そしてそれは魂も一緒。今回偶然あなたと言う個の魂がこの世界の魂より強かったか、若しくは本来その世界に存在していた魂が貴方に肉体を譲渡し、混ざったか……何かは起きていることに変わりはないわ」


「なるほど……てか小早川さん未来人じゃん。 そこんところ大丈夫なの?」


「問題ない。 だって私この世界でもう死んでいるもの、だから2人同時に存在するエラーが起きないわ」


 そう言ってにこりと天使のように俺に微笑みかけた。とても優しく、それは機械的に行なっている動作だとしても、とても自然で……俺は彼女の笑顔を見て今更ながら自分の気持ちに気づいてしまった。


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