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未来色少女  作者: 葵鴉 カイリ
4/41

起動4

「小早川さん今なんて?」


 俺は驚愕を顔に浮かべ反射的に彼女に質問した。


 間違いない、間違えるはずがない。


 彼女は確かに木曜日、俺が先生に捕まっている時に問いかけた言葉を口にしたのだ。

この3日前に戻った世界で、何もかもがなかったことになっている過去で……


「おーいユウくん!帰るよ〜」


 鏡花が教室の後ろのドアから俺に声をかけてきているが、俺はそれどころではなかった。


「おい、答えろ。今なんて言った!」


 無反応の彼女に再度俺は問う。


 普段使わない荒々しい言葉、クラスが騒めいているのがわかる。


 それもそうだ、普段鏡花にぶん殴られても平然と笑っている奴が急に怒鳴ってるんだ。


 冷静でいることが出来ず、危機迫っている様子の俺を見ても小早川さんは瞬き一つだけ、体はピクリとも反応しない。


 少し俺を見てから、再度帰る準備を進める。

淡々と荷物を纏め、落ち着いた様子で立ち上がったすれ違い狭間、俺にだけ伝わるよう、耳元で呟く。


「18時10分、教室にきて……」


 小早川さんの唯のその一言を聞いた瞬間、俺の全身を激しい身震いが襲い、冷や汗が顎から滴る。瞬刻、脳内に俺が殺された際の記憶の情景が過ぎる。


血塗れで見た教室の掛け時計……秒針は18時10分……その時間は間違いない。


 俺が……殺された時間だ。

小早川さんはそのまま不思議そうに俺の隣を通り過ぎていく。怒鳴り散らしていた当の俺は、その場で硬直し立ち尽く

していた。


 それから2分、呆然と立ち尽くしている俺に、藤司が勢いよく右手で俺の肩を掴んで声をかける。


「おい!勇祐、どうした!何があった!」


「いや……なんでもない」


「なんでもないことあるかよ!明らかにヤベェぞ!」


 焦った様子で心配そうに俺を見る藤司の顔は、死人でも見るかのように酷く血相を変えていた。

藤司のこんな顔初めて見たな。


 俺は震える手を自分の意思で止める事も出来ない状況で、それでも友人になんでもないと言い張った。

言い張ることしか出来なかったのだ。


 それは何故か?


 だってここにいる全員が昨日のことを……木曜日の事を覚えていなんだから。




 * 



 保健室の天井、まさかこんな短期間で2回も拝むことになるとはな。

あの後、鏡花と藤司の2人に強制的に保健室に送らて俺は体調が戻るまではここで休むことになった。2人には少し休んだらすぐに追いかけるから先に発表会に行ってくれと伝えて帰ってもらった。


(藤司のやつには、これを機に是非とも進展してもらいたいものだが……)


 そんなことを思いながら天井を仰いでいると保健室の先生が俺の様子を伺いにきた。


「やぁ、気分はどうだい?」


「悪くはないですね……」


 先生は俺の隣にある椅子に腰掛けて気の抜けた表情で質問してきた。


「んで、何があった?」


「何もないですよ……」


「はは、よくそんなシラを切れるね。 何もないんだったら君の友人たちがあれ程顔を真っ青にして君を連れてきたり

はしないだろ」


 そう言いながら白衣に両手を突っ込んで笑う。


 まるでその言い方は何が起きたのか知っている様な素振りだった。


「もし本当のことを言ったとしても先生には分かりませんよ」


 俺が適当に返事をして寝返りを打つと、先生はある生徒の名前をボソリと呟く。


「小早川菫……だろ?」


 即答だった、さもそれ以外はありえんと言った反応で俺を見ている。


 嫌な予感がした。


 俺はその言葉を聞いた瞬間反射的に体をベッドから投げ出し、転がりながら教室の隅まで距離を取る。


(一体この先生何者だ?)


 最初に出て来た疑問……しかしそんなことは今はどうだっていい、小早川菫……確かにその名前を口にした。


 偶然か?いや、まさか有り得ない。


 俺は先生にタイムリープに似た状況下にいるなんて話していないし、そもそも今日はまだ小早川さんは俺に対して何もしていない。


 だとしたら何故先生の口から小早川菫という名前が当たり前のように出してきた?

候補は2つ、先生はタイムリープ前の世界で俺が彼女に殺されているのを見ていて尚且つ、その時の記憶を所持したまま俺と同じく過去に戻って来たのか。


 もしくは……


「どうしてその名前を……もしかして先生、あんた……彼女とグルか?」


 あくまで可能性だが、それでもこれははっきりさせないといけない。


 小早川さんと先生が共犯で俺を殺そうとしたが失敗して、このタイムリープしている状況が発生しているなら危険だ。彼女たちにとって俺が前の世界の記憶を持っているのは想定外で、都合が悪いからという理由でまた殺される、もしくは殺す以外の何かをして来る可能性がある。

 

 我ながら異様に早い反射行動で、いつでも教室から逃げれるように背中に手を回して窓のロックを解錠した。


 声を普段よりもずっと低くして精一杯の威嚇をしているが、先生はそんな俺の行動を鼻で笑い、呆れたように教員用の机の上にある冷めたコーヒーが入ったマグカップを片手に取り、一口だけ口にする。


「そうだな、まぁ君の反応はもっともだ。 何もわからないこの状況でそうやって精一杯威嚇して……クク」


 そう言いながら嘲笑い、俺の質問には一切答えようとしない。


「おい、俺の質問に答えろ」


「なんだ? 先生に向かってなんだその口の聞き方は? そんな態度とって後で後悔しても知らんぞ? ったく……なんでこんなにも前に戻って来てしまったか…… ある程度の誤差は許容していたが、できるならもう少し先にして欲しかったよ……いや、もしかして…… まさかな……っとすまない勇祐考え事をしてしまった。そんな警戒せんでもいいよ、私は人類の味方だから」


「人類の……?俺は小早川さんと先生の関係について聞いてるのになんで人類規模の話になってんだよ」


 意味がわからない、先生は一体何を言ってるんだ?言葉は通じてるよな?それなのに会話が全く噛み合ってる気がしない。てか人類の味方ってなんだよ。もしかして電波系の人だったのか?知ったふりして話を合わせているだけとか……それともこの地球が将来他の惑星から侵略を受ける的な暗示?分からない。ただ俺と小早川さんの関係について何かしら知っていることは確かなんだろうし、全てが全て嘘偽りというわけではないのだろうけど、今のは完全に話を逸らされた事だけは分かる。


「そりゃそう言ったほうが後々説明省けるからな。私、面倒くさがりなのよね」


 先生は乾いた笑いで返答してきた。


 少しの沈黙の後、睨みつける俺に普段と変わらない様子の先生、どうやら1から説明する気など毛程もない様だ。


「なるほど、先生がとても面倒くさがり屋ということはよくわかりました」


「ははは、それがわかるとは流石ですな!!」


(いや、さっき自分でそう言ってたじゃんか……)


 股を開いて膝を大きく叩きながら笑う先生のいい加減な雰囲気に俺は内心ツッコミをした。


 先生の様子を見る感じ特にいつもと変わりなく見えるし、問題はない?のか?


 わからないが、その和んだオーラを放つ先生を見ていると、自分の考えが杞憂だったと思えてくる。


 ピリついている俺のことなどそっちのけで、柔和な雰囲気全開の先生、心の中が逼迫していた自分がアホらしくすらなってくる。


 緊張して固まっていた肩の力が抜け、俺はベットに戻ってゆっくりと腰掛けた。


「それで、確認ですけど先生は俺と小早川さんの関係を大体は把握してるんですよね?」


「ん? あぁ大体はな」


「じゃあ質問なんですけど、俺、小早川さんと合わなきゃダメですか? 俺彼女に殺されてて怖いので、正直な話すぐにでも逃げたいんですけど」



「駄目だよ。会ってくれなきゃ 私が全部説明しなきゃならないし……、って、いや、え?それよりも、なんだって?殺されたの?ヴィリに?まさか、ありえない。 ヴィリは何があっても勇祐を殺さないし、殺せない。そもそも、もしそんなことがあり得たのら、その時点で間違いなく未来はバッドエンド確定、世界が終わるぞ? 」


 堂々と自分のだらしなさを鼻にかける先生を、俺は白い目で見た。


 しかし意外だ、濁して以前の世界の事を伝えたのにこの反応、どうやら先生はタイムループしていないようだ。


 だとしたらこの人は一体どこから来たんだ?


 最後に言ってる事は全く意味がわからないが、先生を見る感じ嘘をついている様子は見受けられないし、寧ろ今の言葉だけは先程までの楽観的な雰囲気は一切なく真剣そのものだった。


 俺は額から溢れる汗を制服の裾で拭い、先生の話に全意識を集中させる。


「あんた……」


 そう言うと鋭い目つきで睨まれた、どうやら年上に対しては最大限敬意は払えと言うことなんだろう。


 俺は小さく息を吐いて、気持ちを落ち着かせる。

どれだけ先生が自身を無害だと言い切ろうと、俺にとっては未知数すぎて危険でしかないのよな。

何がどの拍子で先生の気分を害して、殺されるかなんて分かったもんじゃないし……諦めて敬語使うか。


「先生はどこまで知っているんですか?」


 そう聞くと、先生はニヤリと不気味な笑みを浮かべながら淡々と答えた。


「そりゃ、ほぼ全てさ。 私は勇祐を未来に連れていく為にこの時代に来たんだからな」


 *


「まだ時間はあるだろ?別に寝てていいぞ?」


 先生はあっけらかんと俺に提案してくるが、流石にこの状況でまた寝れるほど俺の肝は座っちゃいない。


 俺は保健室にある小さい椅子に座って少し外を見た。

 

 この学校は校舎が3棟あり、1棟と2棟には普通科目を勉強する為の普段使いする教室があって、3棟には美術室や音楽室、理科室といった特殊授業の際に使用する教室が点在する。


 そして保健室もまた3棟の1階にあり、ここからは中庭から吹き抜ける風が心地良く入ってくる。


 中庭の変わらない光景、少し息抜きに風に靡く草葉を見て黄昏ながら、頭の中を再度整理してみる。


 俺は何も分からないまま、タイムループの様な現象に巻き込まれている。


 そして先生は俺と同じくタイムリープをしてはいないが、今がどういう状況なのか、これから何が起こるのかについては、粗方知っている。


「ふぅ」


 俺は大きなため息を吐く。仕方ない、今は先生に従うのが最善か……

そんなことを思っていると、ふと鏡花との約束のことを思い出した。


 そういえば鏡花のやつなんでまたスマホを触ってたり最新AIの発表会に行こうなんて変な誘いをして来たんだ?

朝はなんも違和感を感じなかったけど、鏡花って確かデジタル系はめっぽう弱かった様な……それこそスマホを弄るのですらむず痒いと言って投げ出してしまうほどなのに……


 それなのに今日は妙にスマホこなしてたし……なんだろう?何かとてつもない違和感を感じる。


 こうして今日1日を思い返してみれば、3日前と全く同じ状況を追体験してるはずなのに、所どこと不自然な場面が多いように感じる。それがただの気のせいなのかどうなのかはわからない。


「俺は一体何に巻き込まれてるんだ?」


 意味のわからない状況について考えていたら、あっという間に約束の時間へと刻々と針は迫っていった。


 俺は覚悟を決めて教室に向かう。


 真実との邂逅……そして運命の歯車は大きく回り出す。


 俺が感じた小さな違和感を軸に。


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