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未来色少女  作者: 葵鴉 カイリ
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反撃2


 まず先生が小さく咳払いをしてから話を切り出す。


『さて、ゆっくりと話し合いをしていたいところだけど時間の猶予がないからまずは大体の動きを話して、あとは現場から指示させてもらう。 まず勇祐、君の能力についてだが、先程システリアの時間移動の能力を使うときに座標を想像して使ったが、あれは結果的に使用できたに過ぎない』


「…………」


『…………』


俺と魔女は無言で先生の方を見つめたが、先生はそれに気がついていないのか何食わない顔で能力について話を続ける。


(本当にこの人は……)


『そもそもこの能力は時間の変化を除けばただの瞬間移動で、それはつまりx軸とy軸から座標を割り出すだけではなく、複雑な3次元の方程式を計算して初めて使えるということだ。 彼女たちは脳にAIチップを埋め込んでいたから今まで問題はなかったけど勇祐は別、普通の人間にそんな高度なことを戦闘中にするのは不可能、ましてや勇祐は数学という分野がとびっきり苦手ときた』


 そう言って淡々と説明をする先生の会話に少し口を挟む。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!えっと……何で俺が数学が苦手なの知ってるんですか?」


 別に訂正するつもりはないし寧ろその通りなのだが、それでも先生とヴィリがさも常識みたいに頷くんだ?


 誰にも俺が数学が苦手なんて言った覚えはないのに……


 俺のツッコミにヴィリと先生はケロッとした顔で声を合わせる。


『「それはテスト後に毎回数学だげ補習を受けているから」』


 う、ま、まさか俺が補習を受けている事が周知の事実だったなんて……


 確かに受けている、だけどそんなに目立っていたのか。


 何だろう穴があるなら入りたい。


『ぷっくくく』


 その一連の流れに噴き出す魔女、この人は愉快だな。


 そのまま部屋の隅で拗ねて、いじけている俺にヴィリがよしよしと優しく頭を撫でてくれる。


 そんな姿も相まって魔女の笑いが遂に爆笑する。


 先生は少し咳払いをして、魔女の声をミュートにした。


『えっとそれでっだ。 勇祐にはこちらで計算した座標に合わせては動いてもらおうと事になる、耳で聞いた時点で脳内に入るから移動には特に問題はないはずだから安心してくれ』


「タイター、勇祐の能力の使用は問題ない?」


『あぁ短距離の連続使用なら問題なく使えると思う。 ただし先程の疲労感から推測して、能力使用距離は合計で60km程度が限界、だから最初はヴィリの飛行を利用してシステリアがいる付近まで向かい、そこから敵を破壊しつつ勇祐の能力を駆使して移動する』


「なぜ付近? そのまま目的地まで行けれない?」


『無理だね。 セファールの種を観測した際に物体の周囲5キロに渡って超電磁波を観測した、この電磁波の影響で機械類全てが機能不能になる』


「分かった」


 そうして、俺と魔女を除いた状態で大体の流れが決まっていった。


 出発前、ヴィリは俺が先程1階から急いで持ってきた食料を無理やり口に押し込む。


「食べて」


「むぐぐぐぐ」


 好きな子に食べ物を口に運ばれるシュチュエーションは理想的だがこれは違う。


 こんなの俺は求めてない。だけど嬉しいから、真っ青になりながらもヴィリに押し付けられた食料を意地で飲み込む。


「勇祐……お腹いっぱい?」


 ヴィリがいつもの声のトーンで俺に質問してきた。


 だが質問されても答えられない。


 いけない。 このままでは窒息する。


 急いでヴィリの腕を叩くが一向に止まる気配はなく、案の定喉に詰まらせた。


「あ、喉乾いたの?」


 ヴィリは仕方なさそうに2ℓのペットボトルを俺の口に押し込む。


 死にかけながら、必死に喉に痞えている物を飲料で流し込んで意気消沈する。


「し、死ぬかと思った……」


 俺の栄養補給を強制的に終わらせて、飛行準備を行っているとふと端末通しに先生の表情が少し曇って見えた。


『……勇祐、ヴィリ、生きて帰ってきなさい』


 俺はその先生の言葉に少し驚いた。


 昨日病室でヴィリを利用すると言い放っていたからこの場面でヴィリに対しても心配する言葉を投げかけるとは思わなかったし、その言葉が俺の中では想像以上に嬉しかった。


「「はい!」」


 俺の部屋でヴィリは兵器の姿へと変わり、美しい羽を広げる。


 先生はヴィリにシステリアの位置情報をzip形式で圧縮して送り、ヴィリはデータをダウンロード、解凍、位置を特定、距離速度を設定し速度発射体制に入る。


 俺はヴィリの背中に乗り、抱えられながら覚悟を決める。


 これは未来を変えるためではない。


 災厄を回避するためでもない。


 これは友人を助ける為だ!


 昨日の夜、システリアに救われた俺だから、彼女を……システリアを救ってみせる。


「行けるかヴィリ?」


「うん」


 深呼吸をする、きっとこれから先、もう後戻りはできない。


 まぁ皮肉なことに俺たちに逃げるなんて選択肢はないんだが……


 苦笑しながら首にかけていたゴーグルを装着して、手を叩き、溢れる血液で俺の体とヴィリを固定、衝撃に備える。


「勇祐、先生、ディット……行きます!」


『ああ!』


『うん!』


「おう!」


 美しい羽からは今までに感じたことのない熱量が集中する。


 羽の真下の床は真っ黒に焦げ、俺の部屋にある有りと有らゆるものが飛び散り、家が揺れ動く。


「メインエンジン・オールグリーン、全システム起動完了、リフトオフ」


 最後の言葉が聞こえる前にヴィリは全てを置き去りにする速さで、家を飛び立つと、その衝撃は世界を騙してしまう程に遅く、重く、約20秒後、そよ風があたりに吹いたと思ったら、俺の部屋を中心に家は崩壊、周囲にある建物や木々は根こそぎ宙を舞い、高さ500m程まで吹き飛ぶ。アメリカで起きるサイクロンを間近で撮った動画を見た事があるがまさにそれだ。


 俺は後方の映像が端末越しに映り肝が冷える。


 何故ならこの全てを巻き込むほど発達した天災は、先ほど彼女がたった一瞬で作り上げたのだから。

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