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未来色少女  作者: 葵鴉 カイリ
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反撃1


 2人に見られていることなんて忘れてしまうくらい、強く強く抱きしめる。ヴィリの体からは小さいながらも鼓動をしっかりと感じ、耳元からは吐息が聞こえる。


『えーっと、英雄くん? 』


 俺に申し訳なさそうに声をかけたディットは苛立ちを隠せない様子で顰蹙をしている。


「……はい」


 俺は転移前の事を思い出し、スっと魔女から目を逸らすが俺の視界を追いかけるように映像が動く。


 クソ、何でこんな機能ついてんだよ。目を合わせたくないからそらしてるのに、視界に入ってくるんじゃ意味ないだろ。


 仕方なく俺は表情を引き攣らせて静かに怒っている魔女に目を向ける。


『あのさ、わかってると思うけどさっきの下手したら死んでたんだよ? 私が玲奈を過信してたのにも問題はあるけど、君も話に違和感があれば情報を発信してくれ、私は君じゃないんだ。言ってくれないと分からない』


 うっあまりの正論に何も言い返せない。まさか人間やめた魔女の方がよっぽどしっかりしてるなんて……情けない人類2人を見てから魔女は頭に手を当ててため息を吐いた。


『と言っても今回のは玲奈に責任がある。たく、君は何も疑わずにできると言われたならできるって解釈するのはあまりにも愚直がすぎるぞ……』


「……すみません」


 俺は脊髄反射で行動しようとする癖を指摘されて少し落ち込む。なんと言うか未来で最後まで残れた魔女が偶然しっかりした性格だったのか、それともただ単にここにいる人類が馬鹿なだけなのか。


 ……馬鹿なんだろうな。


 もしかしたら未来では賢い人間は保守的になって滅んで、馬鹿で愚直な奴だけが行動をして生き残れたのかも知れない。


 静かな先生の方を見ると、明らかに落ち込んで作業しているし……多分通信が繋がらかった間、魔女にこってり搾られていたのだろう。


『……まぁ結果的に英雄くんも兵器も失うことなく、状況を打破できたから不問にしよう』


『え? ほんと?』


 不問という言葉に少し嬉しそうに反応する先生を殺してしまいそうなほど鋭い眼光で一瞬睨みつける。


 まるでメデューサの石化の目でも有しているのかと思うぐらい、あっけなく睨まれた先生は萎縮して固まる。


 相変わらず気さくな人だ、こんなにも事態は逼迫しているのに先生がいるだけで空気が柔らかくなってしまう。


「それで、これからどうします?」


『ん? そうだな、まずは兵器を起動させたいのだが、多分この兵器は英雄くんと契約したアップデートしてるだろうし、再起動まで待つとしよう。 セファールの種の開花まで約30分あるし問題は無いだろ』


『そうは言ってもシステリアが30分生きている保証はない』


『玲奈、君はいつも変わらないね。 あの兵器のことになると冷静さを欠く、気持ちは理解できるが今は早る気持ちを抑えて欲しい』


 先生は唇を噛んで、悔しそうに魔女の言葉を飲む。


『……そうだな。 勇祐、君の部屋から見える外の状況はどうだ?』


 俺は先生の指示に従い、暗闇に慣れてきた目で部屋のカーテンに手をかける。


 そういえば先程の光は外に漏れていないよな?


 もし先程の眩い光が外に漏れていなたら敵に気付かれていた恐れがある。


 俺は恐る恐るカーテンの隙間から外の状況を確認する。


 助けて、痛い、そんな苦痛混じりの悲鳴は聞こえてくるがそれはずっと遠くからだ。


 俺の家は田舎だからか、見えるのは燃え盛る街の炎だけで敵の姿は見受けられない。


「敵は……見当たらないですね」


 家の周囲の様子を適当に見てからすぐにカーテンを閉めた。


『そうか、それなら特に問題はない様だね』


 魔女が安堵した様子でそう言った。


 先生は直ぐに俺の視界と聴覚から得た情報を解析して、敵のいる距離を割りがしているのか黙々と何かをしている。

俺は魔女の言葉を聞いて一安心する。


「う、安心したからか腹が減った」


 俺は空腹に耐えられず、机の小さな引き出しに入れてあった飴を口に含んでボリボリと咀嚼して一気に飲み込む。


 この程度では空腹は満たされないが、それでも若干体が元気になった気がする。


 俺が飴玉を4つほど噛み砕いていると、先生が少し手を止めて東京と神奈川県の地図を端末を通して見せてきた。

そこには点線である地点とある地点を繋いでいる。


 俺は目を凝らす、それはどう見ても俺の住んでいる所と東京の足立区を繋げてる様にしか見えない。


 その映像を不思議そうに見ていると、先生がこの空腹の原因を教えてくれた。


『それもそうだろう。 勇祐、君は先程の転移で相当なエネルギーを消費して移動したようだからね。 今君が居る位置を調べていたが、まさか勇祐……君は神奈川の小田原市から東京24区の学校に毎日通っていたのか……?』


『玲奈……?』


『いや、本当に知らなかったんだ!』


 地図は先生の家と俺の家を結んでいたのか。


 しかし何故それを?


 俺が不思議そうに二人を見ると、魔女が先生を睨んでいた。


 飴玉を貪りながら少し呆れる。


 多分だが、また何か問題があったのだろう。


 二人の雰囲気から考察するに先程と同等にやばいことは分かる。


「何か問題が?」


『勇祐、後で話すつもりだったけど人間が耐えられる移動距離100kmが限界で、君の家から私の家まで、距離にして直線距離で約68km……想像以上に遠かった、それだけの話さ。 ただ今回はそれが良い方向に働いた、気にするな』


 相変わらず手を動かしている先生は少しだけ視線をこちらに向けた。


 その顔は問題ないと、安心しろとウインクをして伝えてきたが、俺は白けた目で先生を見る。


 まぁ行動しないと死んでいたわけだし、今回は結果的に死ななかったから良かったんだけど……


 先生は命に対して少し楽観的すぎる気がする。


 一応この情報は命に関わる事だし100km以上は移動できないというのはしっかりと覚えておこう。


 先生の話を聞いていたらいつの間にか部屋にあった飴玉が底を尽きていた。


 俺と魔女が同時にため息してから偶然お互い目が合った。


『……まぁそういう事だから心配しなくていいよ。 それよりもお腹空いてるんだろ?家の食べ物でも取っておいでよ。 これから英雄くんには働いてもらわないといけないからね』


 少し気の抜けた笑顔で魔女が笑う。


 確かに、これから敵と戦わないといけない以上、何か食べた方が良さそうだな。


 飴を食べたおかげで少し動く気力が出てきたし俺は魔女の提案を飲んで、すぐに食料を得る為に動き出した。


 ゆっくりと開けるドア……部屋は静まり、人の気配など微塵も感じない……そのまま抜足でそっと1階へと向かう。

リビングに到着すると机には置き手紙があった。


 内容は俺とシステリアの安否を暗示した文章……流石と言うべきか……どうやら昨日の夜、俺が姉貴を疑って声をかけた足音は本人のものだったらしい。システリアが足音立てずに1階に降りて来てその時に罪を被せたとか……おいおい姉貴よ……それがほぼ初対面に頼むことかよ、そしてそれを引き受けたシステリア……いい子すぎない?


 まぁそんなこんなで家族全員は直ぐにこの場から逃げたようだ。


「そうか、それなら良かった」


 俺は家族の安否を知れた事に少し安堵して、台所に向かい適当に食料を漁ってリビングを後にした。


 急足で戻った部屋の前から苦痛混じりの唸り声が聞こえ、俺は急いで部屋を開けた。


「ヴィリ!!」


 ひどい汗をかいて魘されるヴィリに駆け寄って、敵が何かをしてきたのか警戒しながら部屋の周囲を見渡す。窓も特に割れていないし、ドアを開けられた痕跡もない。


 耳元で先生と魔女も部屋には何も問題はないと言っているし、どうやらただ悪夢を見ているだけの様だ。俺はその場で安堵しながらゆっくりと魘されているヴィリの方に歩み寄ってそっと手を握ってやった。


「うぅ……シスちゃん……」


 シスちゃん……そういえば先生を殴っていた時も言っていたな。確かシスちゃんもみんな死んだって……


 俺はそっと左手でヴィリの頭を優しく撫でる。


「…………辛かったよな」


 こうして見ると本当に只の女の子なのに、この子は一体どれだけの物を背負ってここにいるのだろうか?


 思えば思うほど彼女達の境遇に胸が苦しくなる。


「こ……こは?」


「おはようヴィリ」


 俺が声をかけるとゆっくりと体を起こしてヴィリは目を丸くしながら頭の上に置いていた俺の左手を持って自分の頬に移動させて優しく触る。


「生きてる……勇祐……」


「……あぁ生きてるよ」


 そのままヴィリは安堵したように目を閉じて、頬に涙を伝わせた。


「勇祐……よかった……よかった……」


『感動の再会のところ失礼するよ、君とは何度かサバトであったことあるよね』


「はい。 久しぶり、ディット」


 そう言って魔女に驚くことなく普通に会話始めるヴィリに、俺が一番驚いた。


 まさか面識あったのかよ!もしかしてヴィリって未来では結構凄かったりするのか?システリアは金の存在知らなかったのヴィリは平然と使っていたし、てかそもそもサバトってなんなんだ?大体のことは理解したが如何せん未来の詳細についてはよく分からないな。


『あぁまさか君が過去にいるなんて……他の魔女が知ってたらと思うと……っとそんなことは後にしよう。 ことは一刻を争っている』


「シスちゃんのこと?」


 魔女が言おうとしたことをヴィリはあっさりと言い当てる。そんなヴィリに対して先生は花が高そうに少し嬉しそうな声音で会話に混じり始める。


『流石ヴィリ、話が早くて助かるよ。 今システリアは危険な状況でね、彗星が降り注ぐ事を阻止する当初の目的を変更し、システリアを起源に発動しているゼウスの陰謀の阻止。 それが現在の目的だ』


「シスちゃんは……生きている?」


「ん?あぁ俺はシステリアと契約したからか彼女の安否がなんとなくだが手に取るように分かるんだ。 生きているのは確かだけど、システリアの命はとても危ない」


「分かった。 それで計画は?」


 淡々と現状を整理し、理解するヴィリは先程魘されていた時とは打って変わって冷静に物事を分析している。


 ……いや、冷静を装っているだけだ。彼女の瞳には強く揺れることのない意思がヒシヒシと伝わってくる。


「先生、魔女、システリア救出……歪みの分裂についての計画を俺とヴィリに教えて下さい」


 世界は確かに崩壊を始めている。


 だけどまだ間に合う。


 これからが俺たちの反撃だ。


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