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未来色少女  作者: 葵鴉 カイリ
31/41

覚醒3


 時間は勇祐が意識を失った直後に遡る。


 「勇祐!!」


 私が大きな声で名前を叫ぶが全く彼からの返答がない、どうして?過去に契約した人達にこのような事は起きた事が1度もなかったなのに……クソ、なんにせよ状況は最悪だ。


 まさかこんなところで戦闘するハメになるなんて迂闊だった。私、システリアは先ほどから真後ろにいる敵から逃げている。


 正直全くと言っていいほどに打つ手が全くないで、クロノスの血液保有者である勇祐は気を失っている始末……一応本契約を交わした事で本来の能力の行使は可能だけど、それをしてしまえば周囲に甚大な被害をを招きかねないし……


「くそ……どうしたら……」


 私が悩みながら神格人種から逃げ回っていると視界に⦅unknown⦆と表示される。どうやら誰かが無線で私に接触しようとしてきているようだ。


(誰だ?まさか魔女か?)


謎の存在からの接触、疑問に思いつつも応答するべきかどうかなどを考えられる程の悠長な時間はなく、私はその通信に藁にもすがる思いで即応答する。


 するとその声は意外にもよく聞きなれたものだった。


『……システリア! 聞こえるかい?』


 そう、その声は私を愛し、育ててくれたタイター、三雲玲奈の声だった。


 もしかして勇祐が約束を破ったのか?いやそれはないだろう、きっとみっちゃんの事だから勇祐が未来人と接触したと話して察したに違いない。


 この人の思考は明らかに常人離れしていて、過去一緒に生活をしていた時から、何故か私の行動は全て筒抜けだったくらいだ。そんなみっちゃんがわざわざ接触してきたと言うことは何かを察して接触してきたに違いない。


「うん、みっちゃん……ごめんね今日会えなくて……」


『それはいい、君は死んだ後のことを知らないんだ仕方ないさ……それよりも現状の話をしよう。 今ヴィリを向かわせている。そちらに着くまで約2分……本契約を行っていないから戦力としては乏しいが、街の中ではちょうど良いだろう。 だからシステリア、君はまずヴィリが来るまで持ち堪えたまえ』


「了解!」


 即答で返事をする。今は私情に浸る暇はない。またみっちゃんと会話できた事に喜びつつも頭を切り替えて、私は翼を一気に羽ばたかせスピードを上げる。


 しかし流石は神格人種(エーテライト)


 今まではゴミ同然に殲滅してきたがまさかここまで追い込んでくるとは……元はただの人間だったのにクロノス因子なしで此処まで強力になるなんてどんな改造を施されたのか、つくづく未来の魔女というものに嫌気がさす。


 生身の勇祐を背負っている以上、これ以上の速度は危険すぎる、しかしだからと言ってこれ以上落とすことも出来ない。


敵は約600m後方で現在の距離を保ちながら追跡をしてきている。


(これはやばいな……)


 後方の敵は先程降り立つ際に背中についていた排気孔を変形させて、そこからミサイルを射出する。


(クソ、このままじゃ、確実に死ぬ……仕方がないが背に腹は変えられないか……)


 人体には少し危険だが速度をさらに上げ、視認モードを探知モードに変更。


 眼球に存在するナノマシンが素早く動き回り、目からハイライトが消えると薄暗い青に染まり、瞳孔が広がる。


 探知モード。詳細設定……世界を透過、色、その他機能を排除、障害物の視認距離を半径10kmに設定。


 瞬間、視覚は第三者視点になり、世界に見える全ての光が横に動く線に変わり始めほど速度を急激に加速させる。


 上空約1万mからの一気に急降下、地面スレスレで急停止。


 周囲50mの街灯の電球を一気に破裂する。


 風が舞い上がり、止めた勢いを利用して羽を後ろ向きに羽ばたかせて態勢を大きく変えて、人々が眠りについた大通りをさらに加速、そのまま裏路地に入る。


 細く畝る街路の中を常に建物に当たる寸前で体を回転させて、一番生身の人間に負荷のかからないよう計算しながら飛び回る。


 敢えて敵の思考を錯乱させるために建物を縫うように飛び回ってはいるが、それでも一向に敵が後ろから離れる気配がしない。


 (あと1分半……長いな)


 突如探知機能がアラームを鳴らす。どうやら敵の生命反応よりも先に私の背後に来ているのは他でもないミサイルのようだ。


 昨日戦った時も感じたが、コイツらは以前よりも明らかに性能が上がっている。ただタネは割れている以上、追跡型なんて知っていれば回避は可能だ。


 ミサイルは建物に当たることなく真後ろまで来る。


 背中に空気の振動を感知、羽を後方に展開、背中に当たる寸前で軌道を上手くずらし、躱す。


 周囲の建物にミサイルが起爆し、その衝撃が連鎖する形で後方が爆撃の嵐と化す。


 勇祐との契約でなんとか対応できてはいるが、これ以上の時間稼ぎは厳しいと感じたその時、勇祐から微弱な電磁波を感知し安心をした。


「勇祐!!」


 そう、安心をしてしまったのだ。


 探知が0.001秒遅れた瞬間、体感速度が一気に落ちる。


 空間探知機能が発動するより先に、人間である脳がドーパミンを大量に噴出、走馬灯と同じ作用が前頭葉に多大なる影響を与え、探知モードに切り替えていた視覚が何故か強制的に視認モードに変更される。


 結論……私の脳は現実を見せて来た。


 視覚は後方に熱源反応を確認。


 私はその時……


 勇祐の死を直観したのだ。


 ミサイル、勇祐の鼻、5cm手前……


 羽の展開は……


 完全に遅れた。


 思考を加速させても助けることが不可能とシステムが警告を出す。


(不可能だとしても……!!)


 0.1秒。


 勇祐が目を覚ましてから起爆するまでの計測時間。


 最新のAIによる算出、狂うなんてありえない。


 ……だかしかし、奇跡は起こった。


 システムの秒数がゆっくりと、しかし確実に少しずつ増えて、気が付くと起爆時間は1秒にまで増えている。


 私はAIの判断ではなく自己の判断で反射的に行った回転行動を行い、羽を大きく損傷さながらも勇祐に擦れる手前でなんとか回避をする。


「うあああああ」


 これだけの事を勇祐は目の前で直視しているのに、全く反応がない。心音も普段と変わっていないなんて……一体何が彼にあったの?


疑問に思っている勇祐の声が耳元に聞こえた。


『「 システリア、この先直進、高層ビルにミサイルを3つ着弾させ、ビル50cm手前からの急上昇 」』


 淡々と喋るこのドスの効いた声……彼は勇祐なのか、それとも別人なのか?不思議に思いつつもその勇祐の命令に契約上反射的に従い、言われるがまま直進する。


 狭い裏路地を抜けた直線、確かに勇祐の助言通り、ビルは目の前に現れた。


 私は道路と接するギリギリを飛んで、美しくミサイル3つを躱し、それら全てをビルに着弾される。


 吹き荒れる爆炎に呑まれながら、勇祐に言われた通り着弾する前のビルの座標から50cm離れた地点まで直進し、煙の中で羽を前に出し、急ブレーキから上空への急上昇を行った。


 星に近い位置で、寒く薄い酸素を肺に大きく取り込みようやく落ち着く。


「勇祐!大丈夫!?」


 私は急ぎ勇祐の方を見る。


 ようやく目に入った彼の顔は兵器である私ですら血の気が引いてしまう程に気味の悪い笑みを浮かべていた。


 直感で理解する、彼は勇祐であって勇祐ではない他の何かだと。


 彼と契約した際に偶然目に入った、左目真下にあった小さな星のマークはずっと大きくなり、星の頂点から伸びている線が彼の瞳孔を通過し、眉より少し上まで到達していた。


 右目は手で押さえていてわからないが、左眼球には白目と黒目の間に0とIが重なり、その中心に小さく全てを吸い込む様な黒紫色に光った瞳孔が、私と目を合わせる事なく遠く真下を見て不気味の微笑んでいた。


『「 システリア、私を離せ…… 」』


 その心臓を掴まれているような声に怯えながらも私は勇祐に反論した。


「な、何冗談言ってるの? まさか死ぬつもりじゃ」


 私が震える声で勇祐に問いかけても彼は目を一度たりともこちらに向けることなく、緊迫した面持ちで真下からやってくる敵を見つめる。


『「 システリア!!」』


「む、無理よ!!」


 勇祐の呼びかけに、私は死を覚悟しながら殺意まみれの眼差しを向けて従えないと必死に訴えた、その時、ようやっと勇祐と目が合う。彼は優しく、包み込むように私に一言語りかけた。


「俺を信じろ。 大丈夫だから」


 そう言って勇祐は強く抱えていた腕を振り解いて、街が小さく感じる程の上空で私を突き放した。


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