覚醒2
契約後に勇祐を襲った体の異変、覚醒したシステリア、突如として攻撃を仕掛けてきた敵の油断を利用して、2人は何とか空へと逃げたが勇祐は激しい頭痛に耐えきれず、システリアに担がれながらその意識を落とす。
真っ黒の部屋?
俺の深層心理の世界なのか?
そう言えば俺、なんで此処にいるんだ?意識は寝ているんだろうが、寝る前の記憶が思い出せない。今日姉妹からダブル攻撃を喰らって気絶したのを覚えている……でもその後起きて……それで確か何か大切な事があった様な気がするけど……
(まぁいっか、それよりも早くこの世界から出ないと、また長時間走り回ったりするのは御免被る)
そんなこんなで周囲を見渡していると、どこからか反響しながら声が繰り返し聞こえる。
『ゼウスを殺せ、ゼウスを殺せ、ゼウスを殺せ』
確かこの前も頭蓋骨が目を覚ます直前に同じ事を言っていたような……あの時声の主は誰だったんだろう?
俺はその場で胡座をかいて考えるが周囲にこだまする声がどうしようもないほど五月蠅くて仕方ない。
少しイラつき始めると、その未練タラタラの憎しみだらけの声は小さくか細くなっていった。
か細い声を例えるならまるで幼い子供が誰にも頼ることができずに涙を流している、そんな感じだ。
流石にその聞くに耐えない辛そうな声を俺は無視できずに反応してしまった。
(なぁなんでそんなにも辛そうなんだ? あれだったら話を聞いてやるから出てこいよ)
上を見て見えない声の主に語りかけてみるが、俺の言葉に対して返答が返ってくる気配は一向になく、そのまま10分なんの音沙汰もなくついには無言になった。意味不明で頭を傾げていたそんな時、この真っ黒で光一つ差し込まないような部屋に突如として6つの発色するスポットライトが点灯し、俺という存在をこの世界に確立させるかのように一斉に当ててきた。
まるで知らぬ間に劇場に立たされ、主役を演じている様な気持ちの悪い感覚。
俺が目の前の暗黒から感じる無数の視線に寒気を感じていると、暗闇の方から少年が一人泣きながら歩いてきた。
本当にこれは夢なのか?
昨日見た夢は色付いていたし、感覚もハッキリしていた。しかしこの世界は真っ暗闇で肉体の感覚もあまりはっきりしてる様な感じがしない。
「助けてよ。 痛いよ。 苦しいよ」
目の前に現れた少年の声は先程の五月蝿い声によく酷似している、もしかして辛そうに訴えていた声の主はこの少年なのか?
ってそんなことは今一旦置いとくか、俺は立ち上がり少年に声を掛ける。
「大丈夫か?」
流石に泣いている少年を放っておいてまで、考え事に耽っていられるほど俺は非情には成れない。
この時、声をかけて初めて見えた少年の第一印象ははっきり言って気味が悪かった。
その少年は溢れ出る涙を手で拭っているから顔は認識できなかったが、身体の頭と四肢、胴体に接続をする関節部分が無く、全ての部位がバラバラに奇妙に宙に浮いていたのだ。
あまりにも不気味だった、不気味だったけど……俺が少年の姿をしっかりと肉眼で姿で捉えていた時には、足は勝手に動いて、気がつくと少年を優しく抱き寄せた。なんでこんなことができるのか自分でも分からない。
やってることはお化けや宇宙人を、泣いていたからなんて理由で抱き寄せる行為となんら変わらない。
完全に脊髄反射、笑っちまうよな。
それでもなぜか重なって見えたんだ。
この少年が昔の拉致されて泣き崩れているあの時の俺に……
だからこうして抱きしめているんだと思う。
あの密輸船で出会った彼女もそうしてくれたから。
少し力を入れて抱きしめた後、少年の顔を見て撫でて上げながら笑ってみせる。
「君、迷子? って言っても俺も迷子なんだけどね。」
「みんな僕を見ると逃げるのに……おじさんは僕が怖くないの?」
少年は自分を抱きしめた俺の行動に驚いている雰囲気だった。
まだ高校生でおじさんと言われることに苦笑いしながらも俺は少年の問いに少し考えてから答えた。
「怖くないって言ったら嘘になっちゃうな。 正直びっくりした、だけどそれ以上に君が辛そうに見えたから……かな? 俺さ、昔誘拐されてその時にひとりぼっちで怖かったことをよく覚えてるんだ。 寂しくって、殴られて痛くって、お腹が空いて苦しくって……なんだろう? 君があの頃の俺と重なって見えて、どうしても身体が動いちゃったんだよ」
思った事を腕を組んで長々と説明をした。俺が話している間少年は一言も口を開く事はなく、ただ静かに最後まで聞いてくれていた。全部話し終えた後、自分が思っていることを全て口に出してしまったことに申し訳なくなり唸りながら頭を抱えた。
「ごめんね長々と……説明が下手なんだよ」
「おじさん、僕、おじさんのことが気に入った!だから少しだけ僕の知ってることを教えてあげる」
そう言って無邪気に笑う少年に俺も笑って返した。
「ありがと……って教える? 何を?」
よく状況のわかっていない俺に少年は手を差し伸べてる。
(なんか俺がこの子に助けられてる様な感じになってる気がするけど……まぁいっか)
俺は少年の手を掴むと、少年はそのまま手を引っ張って暗闇の中に走り出した。
「おじさん、いつかまた僕の気持ちが整理できたら会いにきてね!」
「当たり前だ、いつでも聞いてやるよ」
「うん!」
少し気分が晴れたのだろうか、少年の顔色が良くなった様な気がした。
こうして俺は少年に手を引かれる形でこの場所から歩き出した、暗黒の世界をスポットライトの光をそこに残して。




