覚醒1
お待たせ致しました!
遂に未来の敵である神格人種と、勇.システリアペアによる戦闘が勃発!
未来の行く末を握るのは魔女か神か人間か?
未だ先の見えない三竦みが動き出し、勇祐の物語は最終章へと更に加速する!!
未来色少女、覚醒……お楽しみください!!
俺は先生に貸してもらっていたデバイスを思い出し直ぐ様、耳元に手を当てる。
時間は深夜11時過ぎ、世界が寝静まった深夜にも関わらず、俺が耳に手を添えたと同時に端末が起動し喋り出した。
『勇祐!! そいつは敵だ!!』
「そんなの分かってます!! さっき排除するって自己紹介されました! てか先生出るの早すぎでしょ!」
『そんなことはどうだって良い、システリアと契約しろ!!』
「え! それって……」
『早く!! 死にたいのか!!』
「わかりましたよ!!!! システリア!」
俺は目の前に庇おうとしているシステリアの右手を握る。
「な!勇祐!!」
驚くシステリア、俺も驚いている。しかし状況が状況、きっとあれがシステリアに傷を負わせた奴だろうし、奴と戦うとしても傷だらけで本調子ではないシステリアと無能の俺じゃ戦力差は月と鼈、急いでデバイスに手を当てた瞬間、先生が説明も無く契約しろと言う位には事態は最悪。
先生はクロノスの血液適合率20%の奴が契約を行なって発狂したと言っていた。
だとしたらほぼ100%の俺が契約したら何が起こるかなんて多分先生でも未知数だろうし、もし今本契約をすることで、俺が前回の適合者同様に人格が崩壊する可能性だってある、それなのに躊躇することなく契約しろと言うのだ。
(俺だって覚悟を決めたんだ! たとえ何があろうと……!!)
「ここに我、河原勇祐は宣言する!汝クロノスの四肢たる者よ!制約に誓いその身朽ち果てるまで永従を宣言せよ! 契約!」
握った手と手から熱いものが伝わり、煌々と輝く光に包まれる。
視界が暗くなる。止まった時間の中で意識だけは鮮明に冴え渡る空間、誰かの吐息が耳元で聞こえ、そいつは俺の心臓だけをゆっくりと握る。当たり前だが抵抗なんてできないし、少しそいつが力を込めれば今にも破裂しそうだ。
気がつくと目から血が溢れ、肉体が動くようになると同時に血液が普段の2倍のスピードで全身を駆け回る。脈は常人なら死ぬレベルで高鳴り、その早さに血管と血液の間で摩擦が起きて、全身の内側が沸騰しそうな程に熱が帯びている。
「あああああああああああぁぁぁ」
体が発火してしまいそうなほど苦しい。
そのまま立っていられることが出来ず、俺は高鳴る胸を抑えて膝を折る。溶けてしまいそうな感覚に飲まれながらも呼吸を整えようとした、瞬刻、後頭部にハンマーで殴られた様な激しい頭痛が間髪入れずに襲ってくる。
意識が飛びそうなほど痛い、痛くて苦しくて、まるで俺の中にいる何かが意図的に俺という自我を壊そうとしているようだ。
契約の代償、それがこれならもう一層の事死んでも良いのではないのだろうか?顔に爪を立てて、左中指で眉毛から左目の真下まで一直線に掻き傷をつける。
崩壊していく自我の中、諦めかけていた時にふと契約で繋がったシステリアの思いが伝わってくる。
彼女は狂乱しかけている俺の意志を優しく包み込んで、大丈夫と何度も語りかけてくれる、すると何故か少しずつ体の異常が治まり、自我が痛みに耐えられる様になってくる。
俺は深呼吸をして、何とか瞼を開ける。
(戻ってこれたのか?)
膝をついてブレる視界で現実を認識すると、そこには美しく、気高く立っている少女が凛として佇んでいた。
「契約……に成功したのか?」
その少女の変貌に、まだ現実ではないのではと一瞬疑問に思ったが、少女の横顔を見てすぐにここは現実で、そこに居るのがシステリアだと理解した。
先程まで完全にもがれていた翼が再生して光の鱗粉が周囲に舞って、髪も短髪からセミロングへと変貌し中途半端に変わっていた髪の色がしっかりとした青いパステルカラーに戻った。
頭の輪は機械的よりも黄色く天使の輪そのもので服装はシンプルで体のラインが強調されていた物ではなく、もっと清楚でレースとフリルを可愛らしく織り交ぜた淡い青を織り交ぜた不思議な戦闘服。
変わりすぎた少女の姿を見て呆然としている俺に、システリアは頬を赤らめて笑う。
「へへ、驚いた? 私たち兵器にとってクロノスの血液は燃料と同じなの、さっき勇祐と契約をしたことで君とパスが通って私は本来の力を取り戻せちゃった……てか……これからどうすんのよ?」
眉を少し寄せて笑っているその表情は、嬉しそうなのか悲しそうなのか心情がよく読み取れなかった。
「さあな」
「さあなって……まぁ仕方ない状況だけど……」
事態はどちらかが動いた時点で戦闘が始まるほどに逼迫している。
それなのにいまだに頭痛は鳴り止まない。
(クソ、頭が割れそうでまともな思考判断ができない)
俺は頭を押さえて、よろめきながら立ち上がる。
改めて状況を確認しようか、目の前にいる奴は未来から送られた敵……で間違いないのだろう、大きな図体がたった数秒でスリムに変形するなんて現代の技術では不可能だろうし、なによりシステリアの反応からして間違いない。
さて、それでだ。排除とか何とか物騒なことを言っていたしこれからどうすれば良いんだ?
『勇祐、大丈夫か?』
「なんとか……それでこれからどうします?」
『まずはシステリアと一緒に逃げろ』
先生の指示通り、システリアに逃げれるか回らない呂律で尋ねる。
「システリア……逃げるのって」
「ははは。無理、こうなればどちらかが壊れるまで徹底抗戦するしかない」
「ですよね。 勝機は?」
「勇祐がいるからほぼゼロ」
「ひっでぇな」
「……てか勇祐、その左目の下にある星って」
『星?って勇祐!右に避けろ!』
そんな話をしているのも束の間、敵は容赦なく突っ込んできた。
俺とシステリアは反射的にその場で左右に分かれて避ける。
偶然だった。
言われた通りに脊髄反射で動いて避けれたがあのスピードで、もし当たっていたらと思うとゾッとする。
避けられた敵はそのまま壁に当たり、その勢いで粉砕したコンクリートの粉塵が一気に視界を奪う。
「クソッ」
ゆっくりと瞳を開けようとしたら瞬刻、腹部に何かが当たりそれは俺の背中に手を回す。
地面に着いていた足が空中を浮遊する感覚、視界は一瞬で変わり小さな街並みと、大きな月を捉える。
そしてそのまま直上し視覚は白い霧に覆われ、その中を直進する。どうやら俺はシステリアに担がれてそのまま雲の中を飛んでいるらしい。
「勇祐!大丈夫!?」
システリアの声が聞こえる。
「あぁ、大丈夫……」
頭が割れそうなほどの頭痛に朦朧とする意識をなんとか保ちながらシステリアに心配をかけまいと無理矢理答える。
こうして空元気で応えてはいるが多分俺の異変にシステリアは気が付いたのだろう、先ほどから心配そうな視線を背中に感じたいる。だがこの状況下で彼女に不安要素を与えるのはナンセンスだ。
極力システリアには現状だけに集中してもらわないと、あの敵の雰囲気からして間違いなく死ぬ。
(死ぬのに……駄目だ……意識が……)
完全意識が遠のいてしまう。
動かなくなった俺にシステリアは一生懸命何かを言っているが俺はその声に応えることができなかった。
そうしてそのまま深く深く意識は夢の中に誘われた。
*