終わり1
目を開くとそこには見慣れた天井と柔らかな感覚が頭に当たっていた。
「おはよ! どう?女の子の膝枕は♡」
そう言いながら口元を右手で隠しながらしめしめ笑っている少女が頭上でこちらを覗いていた。
俺は自分の手を顔の前に持ってきてから、裏と表を確認し握って開いてを行なって、少女の顔を優しく触った。
「ふぇ!ちょ……」
赤面しながら慌てふためいている彼女を見て俺は手を下ろして安堵する。
どうやら死んだわけではないようだ。
確かシステリアの裸を見てその弁解をしたら姉妹二人に攻撃を食らったんだっけ?
「システリア、この状況は?」
俺はシステリアに状況説明を求めるとクスリと笑って優しく説明を始めてくれた。
「君が祭ちゃんとお姉様に吹っ飛ばされた後、姉妹二人から質問攻めで大変だったんだよ、弟が不貞を働いたなら申し訳ないってそれはすごく謝られちゃってさ……とても優しいご家族だね」
そう言いながら俺の頭を優しく撫でるシステリアの姿はとても慈愛に満ちていた。
その優しさに触れて漸く現状を理解し始める。
これって今ひ、膝枕してもらってるんだよな?それも同い年ぐらいの女の子が寝巻きで、頭を撫でてくれて……顔が一気に熱くなる。
(この状況って中々……中々じゃないですか!)
急激な恥ずかしさで、システリアと顔が合わせない……が!だからと言ってこの状況を堪能しない俺ではない。
その柔らかく、ほんのり暖かい膝の感覚を感じる後頭部に全神経を集中させて、脳内と肌にしっかりと記憶させる。
顔は未だ熱を帯びているがそんなことは関係ない。
(あぁ生きていてよかった)
世界が終わるせいで色々なことに巻き込まれて疲労困憊だったが、こうして人生で2度とないであろう女の子の膝枕を経験できるなんて不謹慎だがとても嬉しい。俺は今までの人生で最高とも言えるこの状況に心から感謝する。
それにしてもなんだろう、俺はこの感覚を知っている気がする。
ふと目を上に向けるとシステリアと目が合う、彼女も頬を赤らめながら嬉しそうに笑っている。
今の彼女はただ清楚で可愛らしい女の子。
出会った頃の痴女らしい振る舞いもなければ、兵器としての機械仕掛けの冷めた眼もしていない。
ただ、親に愛されて、その愛情を他人にも与えることのできる……今を生きている少女でしかないのだ。
これはひと時の儚い姿にどうしてか変に懐かしい気持ちになって仕方がない。
(何だろう……システリアと会ってたった2日なのに俺は彼女とずっと昔から一緒にいた様な気がする)
いや、きっと今この幸せな時間を何かの思い出に結びつけたいという脳の処理、思い込みだろう。
「私ね。 君に会えて本当に幸せだと思う」
急に言われた言葉に驚きつつも、その優しい声音に少し嬉しくなった。きっとこれはシステリアが心からの思っている言葉だろう、つまらない俺の部屋の中で、彼女の優しさに吹かれた薄紫に色づいた百日紅の花びらが、月光に閑麗に照らされてヒラリと小さな窓から入ってきた。
「システリア、俺も君に会えて嬉しいよ」
そう言うしかなかった。彼女は未来から来た未来の少女で、先を知ってるからこそ今という幸せを噛み締めれているんだと思う、ここで安易にこれから先も幸せはあるなんて、適当な言葉は言えない。
「ありがと、勇祐……」
彼女はそう言って俺のおでこに自分のおでこをコツンと当てて囁いた。
近づいた彼女の頭を少し躊躇いながら次は俺が優しく撫でてあげる、多くを背負った少女に俺という童貞からできるこれが最大限の愛情表現だった。
「そういえば今日寝る場所祭の部屋でいい?」
俺がそう質問をするとシステリアは口をつぐんでさらに頬を赤らめる。
どうしたのだろうか、どんな形であれ姉妹にシステリアが彼女じゃないと言うことは伝えたから受け入れてくれるだろうし、別に女の子同士で寝るなんて普通のことだろう。そりゃ会って数時間の人と寝ろって言うのは酷っちゃ酷か、それでも俺は家族のことを信用していいるし、みんな気が良く面倒見がいいから特段心配する様なことはないと思う。
システリアがすっと視線を逸らした。俺も同じように視線を追うとその先にあるの部屋のドアから、姉妹たちがそれはそれは嬉しそうにニヤついて見ているではないか。
「え? どこから見てたの?」
俺が質問すると二人は真顔になって顔を見合わせひょっこりと消えた。
「ふふ。 熱いね祭」
「そうだねシズねぇちゃん」
そう言いながら部屋から声が遠のいていく、どうやら誤解が解けるどころか寧ろ変な確信を与えてしまったみたいだ。
面倒なことになった、俺にはヴィリっていう好きな子がいるのに……これじゃ他の人から見たら本当に不貞な輩じゃないですか。
もし……未来で……未来……
そっか、姉貴も祭も明日から先の未来に行けないかもしれないのか。
昨日夢で見た過去の映像は巨人が街を壊していたし、きっとこうして当たり前を過ごせるのも今日が最後か……ならこうして幸せそうなに誤解をしている二人に目を瞑っていいのかもな。
「あ、あのね。 流石に彼女って言い張らないとあの場を納められなくて……それで……」
必死にもじつきながら弁明をしようとしているシステリアに俺はドアの向こうに見切れている姉妹の後ろ姿を見て呆れながら笑った。
「いいよ。 ありがとう嘘をついてくれて」
「……いいの!?」
「はは、いいよ……てかなんでこうも俺たちの会話の温度って違う訳?」
しんみりしながら言ったのに、システリアは純粋に驚いた口調で答えてきたから、俺はそんな彼女の反応を面白がりながら聞いた。するとシステリアは人差し指を顎に当てて唸りながら、わかんないと戯けて笑い、俺もつられて一緒に小さくクスクスと笑った。




