変わらない事象なら3
このサブタイトルである変わらない事象ならはこれでおしまい。次からは起承転結の転と結に繋がるお話、何が回転し、何が起因し、何にが勇祐は巻き込むのかか……!?
物語は終盤へと差し掛かっています!!
是非楽しんでください(´˘`*)
*
私、システリアは訳の分からない状況に流されている。
偶然私を見つけてくれた勇祐に寂しさの余りくっついて、そのまま家に上がり込んでしまったのだが、まさか家に入ってすぐ勇祐の妹とお風呂に入ることになるなんて……
「はいはい、青原ちゃん服脱いで」
そう言って無理矢理祭ちゃんは私の服を脱がした。
こういう体験は今までした事がなかったから私は恥部を急いで隠す。
「え、や、祭……ちゃん?これは?」
「?そりゃお風呂入るには服脱がなきゃ入れないじゃん」
「そ、そうだけど……」
「ねぇ、青原ちゃん、後ろ向いて」
そう言って祭ちゃんは笑顔で指示を出してきた、よく分からずに恥じらいながら背中を向けると大きな何かを鎖骨あたりに二つ貼り付けた。
「え?な、何で?」
そこは今日勇祐と出会う少し前に行った戦闘で毟られた羽の部位。
(なんで祭ちゃんが傷のこと知ってるの?)
さっき会ったばかりだし、私が怪我しているなんてそんな素振り見せていない。
私は貼られたところを触ろうと後ろに手を伸ばすと、祭ちゃんはその様子を見て傷口をペチ叩いた。
痛みが走る。痛……い、けどあれ?
さっきより痛くない?
「さ、お風呂入ろ」
そう言って少し曇った顔で祭ちゃんは私の背中を押して浴室に入れた。
私を浴室に入れると祭ちゃんは足の裾と服の袖をあげてから入ってきた。
それから風呂場にある桶にお湯をためて柔らかいタオルで優しく体を洗ってくれた、とても優しくて、とても……
「祭ちゃん……ありがとう」
ボソリと呟くと、祭ちゃんは優しい声音で先程の一連の流れについて説明をしてくれた。
「おにぃにはね、昔からの幼馴染がいるの。 その子は今じゃ大人しいけど昔はやんちゃで、おにぃはその子が怪我をしている時にはああして私を呼んでは遠回しに手当てをさせてたんだ。 まさか彼女さん連れてきたと思ったら怪我の手当てしろなんて……本当に相変わらずというか何というか……」
そうだったのか。勇祐はどこかのタイミングで私の傷に気付いていたんだ。
「そう、なんだ。」
「そうなのよ、久しぶりで伝わらないっての!」
「ふふ」
勇祐は出会って間もない見ず知らずの私に、この世界で大切なお金を渡そうとしたり、離れた都会に送ろうとしたり、あのお節介な性格は昔っからなんだ。
少し微笑む、嬉しかった。
嬉しくってどうしようもなく切なくって、感情が心の中から溢れ出す。
「ふ……うぅ」
彼の優しさに触れると同時に、自分という存在がどうしようもなく辛くなってしまう。
ふと思い出したのは過去の事。
あの世界でも、お父さんもお母さんも私を守るために幼い時分に死んでしまって、それでタイターに預けられてから大切に育ててもらったのに、不用意に外に出たせいで……
私を生かすためにタイターは自分の手を血に染めてまで助けてくれたのに……それなのに、助けられておいて、私はまたあの人を苦しめている。
この世界の人たちの人生を明日壊してしまう。
「ひっ……ひっ」
私の体は手術で生かされて、戦争で壊して、また手術して、その繰り返しで綺麗な肌なんてもうずっと前になくなっちゃって、人としての自由や尊厳なんて生まれた時からなくって……
「え?ちょっと?青原ちゃん、大丈夫?」
「ありがとう……ありがとう」
「……うん」
そう言って祭ちゃんは何も言わずに私の体を洗ってくれた。
*
システリアが祭に連れて行かれてから約20分。
つい勢いで祭にお願いしてしまったが大丈夫だろうか?
昔はやんちゃな俺がよく鏡花を連れ回して、その度に怪我させたのが懐かしい。
あの時の俺は心配しながらも変なプライドのせいで、幼い祭に遠回しにお願いして世話になったものだ。
……そういえばいつもの様に祭にお願いしたが、ここって世界線違ったよな?
今更ながらどしようもなく不安になってきたが、だからと言って急に浴室に行って大丈夫かなんて言った日には下手したら妹が一生口聞いてくれなくなるかもしれない。
そうなると流石に困る。ただでさえ、あいつの元気には助けられているのに、恩返しもせず嫌われたんじゃ兄の威厳もくそもない、ただただ情けなさすぎる。
そんな事を悶々と悩んでいたら、あっという間に下から女の子和気藹々とした声が聞こえてきた。声のトーンからして祭はちゃんとシステリアの面倒を見てくれたようだ。
たとえ世界線が変わろうと祭は変わらず優しい性格なんだな。
「みんな根っこは一緒なのかもな……」
ポツリと独り言を呟いていると、祭達の声が徐々に近づいてくる、どうやら2階に登ってきたようだ。
ということは次は俺が風呂に入る番か……
2階の構造からして、まず最初に姉貴の部屋を通って、その次の部屋が俺の部屋で斜め向かいに祭の部屋だ。
俺は部屋で、ソワソワしながら待っていると祭の声が聞こえた。
『おーい、開けるよ!』
もう部屋の前まで来たのか、俺はドアをゆっくりと開ける。
「悪いない祭、また迷惑かけて」
そう謝罪しながらドアを開けるがそこには誰もいない。
(あれ?確かに声が聞こえたのだが?)
周囲を見渡すと、そこにはバスタオルを一枚だけ巻いたシステリアがいた。
赤面するシステリア、彼女が立っているのは姉貴の部屋の前でしかもドアが開いているときた。
状況から察するにシステリアの下着や服の替えがないから諸々貸してもらうために祭が姉貴の部屋に訪れたのだろう。
姉貴は下着で家の中を彷徨いているから、その下着の豊富さを俺もよく知っている。
今にも爆発しそうなシステリアと再度目が合う、何だろう。
明らかに恥じらってるよな?え?何でそんな真っ赤になってんだよ?初対面で俺を誘ってきておいて、いざ見られたら恥ずかしそうな反応しないでくれ!そんな反応されるとこっちまで心臓が高鳴ってしまう。
システリアから急いで視線を逸らすと、姉貴の部屋から姉妹が出てくる。
「ありがと!シズねぇちゃ……」
「いいよ、それにしてもあんたが勇祐の彼女……って」
姉妹と目が合う。
蹲るシステリア、俺は一呼吸おいてからぎこちない笑顔で手を振る。
「へへ……その子、俺の彼女じゃないよ」
すると、祭と姉貴が顔を合わせる、そして同時に恥ずかしそうに蹲っているシステリアを見てから、2人が凄い形相で俺に拳を握って目の前にいた。瞬きなんて許さない、妹の拳が俺の腹部に、姉の拳は俺の頬にクリーンヒット。
「かはっ」
こ、この二人本気で殴ってきやがった。
あんたら柔道で黒帯なんだからもう少し自重……しろ……よ
そのまま、2階の突き当たりまで一度も廊下に足がつくことなく吹き飛ばされる。
俺は口から泡を出して、鈍く重い音を立てながらその場で倒れ込む。
「あ、あの……お姉様、祭ちゃん……あのね……」
何だろう、システリアが何かを一生懸命言っているのが聞こえるが、最後まで聞き取れない。
すっと、全ての音が遠ざかって行く。
「容赦ねぇ……」
俺はそのまま気絶した。