変わらない事象なら2
ポケットに手を入れて少し晴れた表情で家への下り坂を歩いて帰っていると、偶然通りがかりの公園に可愛らしい女の子の姿が見えた。
(ゆ、幽霊か?)
怪しげなシルエットに目を凝らしながら、恐る恐る少女の方へと向かい、俺は反射的に声をかけた。
「システリア?」
その声に肩をびくりとさせて、猫のような目でこちらに頭を傾ける。
「やっぱりそうか。 どうしたんだこんな夜中に?」
案の定、その正体はシステリアだった。
俺は肩を落として1人でいるとシステリアに声をかけると、彼女は見るや否や涙目で抱きついてきた。
「ユーウースーケー」
まさかとは思ったけど本当にシステリアだったとは……先生はあの話で一体何処まで未来が見えていたんだ?
俺は周囲を確認して、ご近所さんの人影がないことを確認して何も言わず抱きついているシステリアの頭をゆっくりと撫でて、どうしたのかと伺った。
「あのね……めちゃくちゃ暇だったよおおおお」
……嘘つけ。
そんなボロボロの見た目でよくもまあそう言い張ろうとしたものだ。 俺にだって目はついているんだぞ?
少し呆れながらも、そう言って誤魔化そうとしてくる程度には余裕があるって事に安心した。
それにしてもどうしてこんな傷だらけになってるんだ?俺はシステリアに対してはちゃんとシステリアと呼んでいたし、仮契約をしたくないなんて思ったこともない。
悩んでいると、ふと先生とヴィリのやりとりが頭を過ぎる。
(そうか、ヴィリが仮契約では無理だと話していたのはそれだけ本契約と差があるということなのか)
未来の彼女達は誰かと本契約した上で戦闘をしていたのだろうから、過去に来て誰とも契約せずに敵に狙われたのならこれだけ負傷をするのも必然的なのかもしてないな。
「大丈夫か?」
そう聞くと不服そうに頬を膨らませてジト目で訴えてきた。
「私は兵器だよ?」
(平気?ん?へいき、平気、兵器……イントネーションが同じでよく分からないけどまぁいっか)
「それで?やっぱり寂しくなっちゃった?」
俺は昨日揶揄われたお返しに彼女を少しだけ揶揄ってみる。
「…………」
昨日の調子なら、システリアがなにか言い返してきそうだけど反応がない。
俺は揶揄うのを止めて、家に来るかと尋ねたら何も言わずに腕で強く俺の体を締め付けた。
(本当に不器用なんだな……)
そんなことを心の中で思いながらシステリアを腰につけて満点の星空の元引きずりながら帰路を歩いた。
(この状況、誰にも見られてなければいいけど……)
*
家のドアを開けていつものように声を出す。
「ただいま!!」
俺が帰ったことに各方面から家族の声が同じタイミングで反響する。
『おかえり』
これが河原家の日常だ。
俺だけは行方不明になった事もあってこうして家に帰った時は家族に聞こえる声で帰宅したことを伝えないといけない。そうしないとすぐに警察沙汰になってしまう。
俺は未だ無言のシステリアを腰につけて、自室に上がり、部屋を閉めてから貝のようにこびりついたシステリアの頭を再度撫でる。
相当怖くって寂しかったんだろう、俺の制服についたシステリアの涙が素肌まで貫通してすごくしっとりしている。
気が済むまで泣かせてあげたい所ではあるけど、このままと言うわけにもいかないし……
俺はベットに座って宥めるようにシステリアに声を掛ける。
「システリア大丈夫か? もう俺の家だから離れても大丈夫だぞ」
そういうとゆっくりと俺から離れた。
鼻水と涙で顔はクシャクシャ、この前会った痴女のような雰囲気は一切ない。
「勇祐、ありがとう」
「どういたしまして。それじゃ俺は風呂に入るけど……ってお前昨日風呂入ってないだろ?」
そう問いかけると、システリアは何も言わずに頷いた。
どうやら相当衰弱してしまっているようだ、一体今日1日で何があったのやら……
こうして見ると今のシステリアには昨日とは違うな点がいくつかある。例えば今も変態している時と近い髪の色なのに羽がなく、肩甲骨あたりは皮膚が剥がされたように真っ赤になっている。
俺は眉を顰めた。
「なら入ってこいよ。 俺は深夜にひっそり入るから」
「それは……私が夜に入る」
「システリア、君は過去に来てからまともに風呂に入ったことないだろ? いいから入れよ」
「いや……」
そう言って頑なに嫌そうな顔をするシステリア、このままじゃテコでも動かない気がする。
面倒だが最終手段に出るか。
「おーい、祭!!」
俺が大声で声を出すと、隣の部屋からドタドタと大きな音を立てて妹が俺の部屋のドアを勢いよく開けた。
「どした!おにぃが私を呼ぶとは珍しい!!ってその子どしたの?」
この活発な少女は妹の河原祭。
無邪気で天真爛漫、誰とでも仲良くなれる元気から生まれてきたような明るい女の子だ。
俺と姉貴はそこまで口数が多い方じゃないのに対し、妹はずっと口が回って落ち込んでいる姿なんて俺が行方不明になった時以外見たことがない。
「この子は志摩青原ちゃん、今日一日家に泊まるから一緒にお風呂入ってあげて」
「……ハオ?」
「へ?」
女性陣は俺の言葉を聞いた瞬間、メデューサに見つめられたが如く固まってしまった。
俺だってとんでもないことを言っている自覚はある。
もし姉貴に急に部屋に呼ばれて行ったら、そこに彼氏がいて、こいつと風呂入れなんて言われてみろ、正直、頭大丈夫かと本気で疑うだろう。しかも今回に関して恋人ですらないと来た。
もし祭と同じ立場なら、家に恋人でもない異性を上げて来た兄妹を躊躇うことなく病院に送る。
俺の咄嗟の言葉に、動揺を隠せないシステリアは俺と祭を交互に見ながら慌てふためいている。
「え、や、その……なんで……」
俺は妹に親指を立てると妹はハッと我に帰って可愛らしく親指を立てて返してくれた。
「悪いがよろしく!」
「覚えてろよ!」
そう言って妹から阿吽の呼吸で了承を得た。
状況に流されるまま、システリアは妹に首根っこを引っ張られて浴場に連れて行かれた。




