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未来色少女  作者: 葵鴉 カイリ
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タイターと未来と兵器3


「天の川銀河代理戦争ですか……仮にその話が本当だとしても俺に戦争で戦える程の大層な力はありませんよ?」


 天の川銀河代理戦争、クロノスの血液、赤い鉱石、確かに以前の世界線に於いて密輸船に乗っていたのは事実だし、何かを食べたさせられたことが起因して、結果的に体内にその血液を内蔵しているのかもしれない。


 しかしそれで何かできた試しはこの4年間で今の今まで一度もないし、ただの平凡な高校生活をしていたんだ。


 そんな凡夫な俺に一体何ができるんだ?もしかして戦えって……そういうのか?無茶だ、全てが中の下で、才能と呼べるものが諦めの悪さしかない凡人に戦えるわけがない。


 俺の申し訳なさそうな問いに先生は笑って答える。


「そもそも君のクロノスの血液の9割は君が密輸船で得たものではない。 あくまで憶測だが勇祐、それは君が無数に存在した世界を渡り歩いて魂が回収した偶然の産物だ」


 嘘だろ……?


その言葉に愕然する。もしそうなら俺は4年の間で無数の世界で死んで移動していたという事なのか?


 なら鏡花のあの暴力も本来の俺の記憶ではない?藤司も家族と作った思い出も……この世界線に来る以前から、そもそも本来の俺の記憶は何処にもなくて、世界を渡り歩いた時に得た偽物の記憶で……


 あれ……俺って誰なんだ?


 震え、汗ばむ右手をヴィリが優しく握り返してくれる。


「大丈夫?」


「あ、あぁありがと」


 どうやら握っていた手から俺の不安が伝わってしまったようだ。


 心配そうなヴィリの声を聞いて少し正気に戻る。


「なるほど、だから俺という存在はこの世界にしかいない……本来あり得ない存在ってことですか」


 なんかどっと生きている事が苦しくなった気がする。


 そもそも世界がおかしくて、自分は当たり前だと、平凡だと思っていた事が間違いだったのか……俺という存在が世界にとっての異物……確かにそんな異物が過去で見つかったら未来を変えられる可能性を信じて会いに来るわな。


 少し深呼吸をして考えるのをやめる。

きっとこれ以上俺という存在に俺自身が言及してしまうと自我が崩壊しかねない。正直、さっきヴィリが心配して声をかけてくれなかったら錯乱して、壊れていたと思う。


 ヴィリが隣にいてくれて、手を握っていてくれてよかった。


 俺は少し強くヴィリの手を握った。


 俺が溢れ出す汗を右手で拭っていると、先生は不思議そうに何かを考える仕草をして、数分してからハッと思い出したように声を上げた。


「そうか、あの時はちゃんと伝えられなかったもんな。 勇祐、君の力についてだけどそれは時渡りなんて代物なんかじゃないぞ。 本来の力は2つあって、1つはクロノスの血液によるクロノス聖遺物と因子の能力の解放。 と言ってもこれはクロノスの血液の保有率によって引き出せる能力には差がある。 数滴程度なら一般人でも体内に取り込めるが、それじゃ力の解放はできない。 発動に要する血液は最低でも約400mℓ、人間の血液の約10%をクロノスの血液として体内に取り込まないといけない。しかも10%で致死率50%……解放できる力は低くて5%……高くて7%未満なんだから本当に割に合わない」


 時渡り?もしかしてタイムリープのことか?昨日先生が最後に俺の能力について言おうとしていた事はこれだったのか、確かに彼女達に備わっている力を解放できるのならとても強みになるだろう、しかし先生はなんでそんなことを知っているんだ?


「それは先生が言っていた人体実験の結果ですか?」


 俺は恐る恐る質問すると、それはもう悪びれる様な事もせず顔を俺に近づける。


 まるで人間を……人間だなんて思っていない。


 それは殺人に対してこれっぽっちも罪悪感などない。むしろ正義だと盲信しているとすら感じるほど鬼気迫る表情で、口から出る言葉の一つ一つがはその場の空気を一気に氷点下に下げる。


「あぁそうとも。 これは何人もの命を犠牲にしてようやく辿り着いた結果だ。間違いない」


 その冷酷で、淡々と話す口調はまるで心臓を素手で掴まれていると感じてしまうほどの悪寒を感じる。


 俺が言葉を詰まらせているとヴィリが代わりに俺の質問したかったことを先生に問い質す。


「タイター、もう1つ能力あったの?」


 さすが未来で色々な修羅場をくぐり抜けてきただけの事はあって先生の対応の変化に全く物怖じせず、聞いてくれる。


 先生は少し手を顎に当てて、考えた末に俺を手招きした。


 俺は意味がわからずヴィリの方を見ると、ヴィリはゆっくりと繋いでいた手を離して俺の背中を押した。


 行けという事なのだろう……ヴィリがいるからカッコつけてるけど……正直行きたくないな……少し息を吐いてから固唾を飲み、俺は覚悟を決めて先生の方に行く。


 先生は俺の右手を取って、素早く花瓶の置いてある物置棚からナイフを取り出して指先に少しだけ切り込みを入れる。


「っツ」


 俺は少し声を上げて後ろに下がる。


 同時にヴィリが鬼気迫る表情で横をすり抜けて先生に飛びかかり、殴るために拳を上げる。


「ヴィリ!」


 このままヴィリが先生を殴ったら本当に死んでしまう。


 焦って右手を出す。


 駄目だ、間に合わない。


 諦めかけたその時、彼女の腕に赤い糸が巻きついて、先生の顔に当たる寸でのところでヴィリの動きがピタリと止まった、気がつけば糸はヴィリの全身に絡まり、その動きを抑制している。


「ナイス勇祐……死ぬかと思ったよ……」


 顔を引き攣らせながら俺に感謝する先生。


「これは?」


 その赤い糸は間違いなく俺の指先から出ていた。


「勇祐、大丈夫?」


 絡まりながら、俺の心配をしてくれるヴィリに大丈夫だよと声をかけてやると、ヴィリから殺気がなくなり、それと同時に俺の血液は彼女からするすると解けて、空中でパリンと細いガラス管が割れるような音を立てて、結晶化し腕に紋様となって付着した。


 その一部始終を見たヴィリはササっと小動物のように近寄ってきて不思議そうに俺の腕を凝視している。


「これって……俺の血液?」


 まるで痛い厨二病が自分で描いたタトゥーみたいに刻印されている。


 正直とても嫌だ……これがタトゥー扱いになって温泉入れなかったりすることを思うだけで剥がしたい。俺はゆっくりとその紋様に触って確かめるが違和感がない、シールのように完全に張り付いているようだ。


 俺とヴィリが腕の刻印に一緒に驚いていると、死の恐怖で驚いていた先生が胸を撫で下ろしながら答えた。


「そう、それがもう1つの能力で、血液を自由自在に動かせるといったものだ。 刃物にだってなるし、スライムのように柔らかくもできる」


「確かに便利ですけど体に刻印されるのはどうしてなんですか?」


「それに関しては私も今初めて見た。多分勇祐の血液がほぼ純クロノスの血液だから消滅せず蓄積されるのだろう。勇祐、この際だからはっきり言っておくけど君は血液だけなら言ってしまえば神だ。 だけど自惚れや慢心は決してしてはいけないよ。君は肉体が人間である以上、急な大量出血をすれば簡単に死に至る。だからその点はよく肝に銘じてくれたまえ」


「……わかりました」


 俺が返事をすると、ヴィリが食い気味にこの能力について先生に質問をする。


「それよりなんでこの能力を知ってるんですか?」


 そういえばこの能力を見たヴィリはとても驚いていたな、1つ目の能力のことについては俺が聞いている時、何も驚いていなかったから、その能力については知っていたんだろう……もしかしたら以前にクロノスの血液保有者と組んで戦っていた事があるのだろうか?


 先生は少しの沈黙の後に、ゆっくりととても面倒臭そうに話し始めた。


「……そうだよな、勇祐に安易に本契約をしないで欲しいから……ちゃんと説明はするべきだよな……はぁ……面倒臭い。 私がしていた研究の超重要機密事項……クロノスの血液を少しずつ注入し血液25%まで適合できた少年が未来型兵器と契約をした時の話だ」


 そう前置きをして話し始めたのはヴィリすら知らない未来の出来事だった。


 その少年は結果的にそれ以上の血液の適合が不可だと判断され、最後の注入後未来型兵器と契約したらしい。


 しかしその後、契約と同時に1年間寝たきりとなり遂に目を覚めました時には少年は錯乱状態、発狂しながら血液を操って施設内をもう滅茶苦茶にしたらしい。それから研究所の係員数十人で対応して殺害。 


 少年は起きてから死ぬまで永遠と同じことを言っていた『ゼウスを殺せ』と……結果的に先生も彼がどうやってその力に目覚めたのかは分からなずじまいで、その時のことで分かったのは少年の精神が壊れていたのだけは確かだった。 


 先生は以上を踏まえた上で、俺がもし契約をしてしまうと下手したら取り返しがつかないことになりかねないと思い、こうして先に知り得る全てのクロノスの血液の能力を君に開示したとの事。


(この人昨日ヴィリに半殺しにされたのによくさっき行動出来たよな……まさかとは思うけど彼女がいることに忘れてた訳じゃないよな……)


「でも契約しないと戦えない。 仮契約じゃ無理」


 先生の話が終わるとヴィリが間髪入れずに切り込む。


「うーん……そうなんだよね。 どうしよっか?」


「それがタイターの仕事」


「そんな!一緒に考えておくれよ!!」


「知らない」


 俺はそんな2人の空間に申し訳なさそうに手を上げて話に入った。


「すみません……話の途中に申し訳ないんだけど……先生……後でちょっとだけ2人で話したいんですが……いいですか?」


 このままだと話が進まない気がしたから、俺はずっと心の中で伝えないといけないと思っていたシステリアとの約束を先生に伝えるために話を遮った。


 俺の言葉に先生とヴィリは少し固まって、何かをヴィリが俺に言おうとしたが、先生が優しく彼女の腕を引いて席を外すように命令をした。


「……わかった。すまないがヴィリは病院の屋上350m上空から()()()()()()()()()をサーチしておいて」


「了解」


 不服そうにヴィリは命令を了承して、病室の窓からその美しい羽を広げて、上空へと飛び立っていった。


 数分、先生が窓の外を見つめてから一呼吸置いて俺に質問を投げかける。


「さて、君は未来の使者に何を聞いたのかい?」


 先生はその時、間違いなく俺の心を読んでいたと、そう思う。








投稿は手動の方がいいとの記事を目にして、実践してみたのですが想像以上にPvが落ちてしまい、皆様の目に届けにくいことを痛感致しました。

お詫びと言ってはなんですが本日限定で2話公開致しますのでよろしくお願いします<(_ _*)>

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