タイターと未来と兵器1
それから俺はヴィリに再度、人の話を最後まで聞く様にと叱責を受け、反省をした後一緒に学校から電車に乗って3駅ほど離れた大学病院に来ていた。
「まさか大学病院に搬送されてたのか……」
基本的に何かあったら市民病院で処置する程度だから、こうした大きな病院に来るのは新鮮で少し緊張する。
「こっち」
そう言って俺の裾を掴んでヴィリはそそくさと俺を先生のところまで案内した。
エレベータの中、やはり普段とは違う病院内のアルコール?のような匂いにはどこか落ち着けない。
「っそういえばヴィリ」
「ん?」
「こう言うのって面会許可とか必要ないの?」
「……そうなの? タイターからはこの胸の……」
そう言いながらなんの躊躇いもなく、制服の胸元を右手で引っ張って自分で確認する様に覗き込む。俺はそんな無防備なヴィリの右手を急いで握って腰の位置まで戻す。流石に下心で接さないと決めていても生理現象は抑えられないわけで……
俺は動揺しながらヴィリに小声で伝える。
「俺、男だから……その……」
「……そうね。 えっち」
「えっちって……」
「違うの?」
「…………えっちだ」
「えっち」
いつもの無表情で、ヴィリはそっぽを向く。
好きな子がこうも堂々と胸元を見せてくると、何故か俺の方が恥ずかしくなってしまうな。
俺は安堵しながら、握っていたヴィリの手から俺の手を離そうと力を緩める。
(……あれ?離れない!?)
動揺しながら少し腕を前後ろに振ってみたり、手首を返してみるが、やはりマグネットの様にくっついた手が離れない。
「ヴィリさん?手が離れないんのだけど……」
「? 」
「いや、何でもない。 それで、先生との連絡は胸の何かで取れてるの?」
「うん。 私たち未来型兵器とタイターは胸の鎖骨あたりにあるチップで電波を受送信できる。 だから私たちはお互いに生命活動や位置情報を大体把握している」
ヴィリが説明をしてくれてる間に気づいたらエレベーターは5階に到達していた。
「こっち」
ヴィリはそう言って俺の手を引いて、急いである病室の前に向かう。
「517号室……また上の方に入院したんだな」
「外傷がなく内臓が破裂していたから、大変だったらしい」
「え? 内臓が破裂!?」
どんだけ殴ったんですかヴィリさん!?俺があの時すぐに止めてなかったら本当に死んでいたレベルじゃん。
てか、内臓破裂してよく生き延びたな。死んでいても全然おかしくないと思う。
仲裁に入った時、ヴィリの力はそんなに強いものではないと感じたけど、まさか内臓破壊する強さだったとは……今思うとどれだけ恐ろしい仲裁をしていたのか。
呆れて笑いしか出てこない。
ノックも何もせずにヴィリは堂々と病室に入ると、そこにはPCを凄いスピードでタイピングしている先生が居た。
メガネから反射して見えるのはプログラミング言語だろう。
ブツブツと独り言を言いながら作り上げている空間は病室ではなく仕事場だ、それも切羽詰まった。
声をかけることすら躊躇ってしまう状況を、昨日内臓を破裂した人が作り上げているんだから脱帽するほかない。
「タイター?」
ヴィリが声を掛けても一切反応しない。
「勇祐連れてきた」
その言葉を聞いた瞬間、そのタイピングがピタリと止まる。
ヴィリに耳元で囁かれて仕事辞めないのに俺の名前で仕事辞めるとかなんか怖いな。
それだけ俺と言う存在に固執していると言うことなんだろう。
「おぉ! ヴィリ!勇祐、よくきてくれた。 待ちくたびれたよ……って何で手繋いでんの? もしかして私、あの時君たちの恋のキューピットになっちゃったとか?っかぁぁ!罪だ!」
「知らない。 勇祐が離さない」
先生のめんどくさそうな反応にあっさりとヴィリが答えるがそれは少し意外な答えだった。
「え? ヴィリが離さないんじゃないの?」
「?」
ヴィリは何故か俺が繋がってる手について質問すると首を傾げて何も話さない、否定もしなければ肯定もしないこの反応は一体どうすればいいんだ?困った。
これは離れないなら一緒に住むしか……って、ダメだ。妄想するな、落ち着け落ち着け、もうそう言う目で彼女をみるのはやめるって心に誓ったじゃないか。
「?まあいいや。 仲がいいことは結構、これから君たちにはクロノス因子保有者とクロノスの血液適合者として明日には一緒に戦ってもらわないといけないし」
先生からまた出てきたそのクロノスという単語。
彗星にしてもそうだ。何でギリシャ神話の神々の名前が出てくるのか謎がすぎる、SFチックと思っとら神話が絡んでくるし、この世界観がいまだに理解しかねるな。
「先生、結局クロノスってなんなんですか?」
すると怪しく笑っていた先生は、鳩が豆鉄砲を食らったかのように腑抜けた顔をして、ヴィリを見る。
ヴィリはすっと目を逸らしたが、先生からの視線に耐えきれなくなって開き直るように真顔で先生の顔直視する。
「そもそもタイターがあの時、説明をしなかったのが悪い。」
「!?」
先生はその言葉に驚きを隠せない様子だった。
この様子から見るに、先生はヴィリに、クロノスに関する説明を頼んだのだろう。
しかし、俺はその事を知らずにここにいる。
めんどくさがり屋な先生のことだ、説明を求められる事態なんて想定してなかったのだろう。前提条件が崩れた先生は子供のように無垢な反応で不思議そうにヴィリを見た。
俺もその一連の流れを理解して、まさかと思いながら隣のヴィリに目を向けるとプイッと彼女は目線を逸らした。
普段の機械的であっさりした反応とのギャップに、癒されつつ俺はヴィリのフォローに回った。
「先生、あんまりヴィリを責めないで下さい。 彼女だって人間、忘れることだってありますよ」
そもそもの話、今朝会った時点でヴィリは何かを説明しようとしていたのに、話を最後まで聞かずに逃げてしまった俺に全ての責任がある。
俺が今回の件について弁解すると、先生は余程意外だったのか目を丸くしてパソコンを閉じる。
「……あぁ、そうだな。 ヴィリだって人間だったな、私は死にかけの彼女達にクロノス因子を施して命を助けただけに過ぎん」
そう言いながらも、金魚のように口をパクパクとながら固まっている。
これが未来で多くの人を救った天才の顔か。
何というか、こうして先生を見ていると本当にバカと天才は紙一重何だと思う。
「……はぁ」
俺はいつもより深いため息を吐く、ヴィリは逸らしていた目を先生に向けると、何かを察したのか慌ててその腑抜けた顔を両手でペチペチと優しく叩いた。
「ターイタァ、起きて?」
そんな可愛いモーニングコールをヴィリから受けて先生の目に少しずつハイライトが戻ってくる。
何だろう、過去に来たのがこの人で良かったのだろうか?明日、未来の分岐点なんだよな。
俺は呆れながら現実に戻ってきた先生に再度伺った。
「先生、それでクロノスって?」
「……ん、あぁすまない。では改めて、」
そう言って先生は全てを話し始めた。
未来の事ではない、それは世界の成り立ち。
全ての世界の根幹、起源へと遡る未来が終わるまでの出来事を。
ここから話は物語の核心へと近づいて行きます。
勇祐の能力、神々の存在、世界線……タイターの元へ向かった少年と少女は何を知り、何を選ぶ?
新章!「タイターと未来と兵器」開幕です!




