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未来色少女  作者: 葵鴉 カイリ
15/41

全てが繋がって尚 1

連続投稿になります!

遅れてしまい申し訳ありませんでした!


 ガシャリと鳴ってもいない目覚まし時計を勢いよく叩く午前3時半。


 太陽がほんのりと顔を出し、黒色の空に青く透き通った空気が星々を隠し始める少し前、朝露が庭の躑躅ツツジに首を垂れさせるそんな明け方。


 俺の鼻先や額からも無数の雫がひんやりと頬に垂れていた。


「っはぁはぁ」


 夢……だったのか?


 いや、夢じゃない、あれは現実だ。


 客観的に見せられた俺が以前いた過去の世界の末路。


巨人が闊歩し、ヴィリが死んだ世界は、平和の終わり、終焉の始まりを表していたと思う。こうして過去の世界で自分の身に起きた事柄を知れたのはありがたいが、それにしてもあれら全ての映像が、睡眠中による潜在意識の覚醒によって偶然引き出されたとは到底思えない。


理由は夢の異常性だ。以前の俺が正常な時も壊れている時も関係なく、常に客観的に360°全体の情景を観る事ができたからだ。あれは人間の視覚で認識できる範疇を逸脱している、誰かが意図的にしたとしか思えない。


「なんなんだよ……これ」


 夢の異常だけでもお腹いっぱいなのに、まさか体が動かなくなっているなんて……震える手足、真っ白で幻想的な世界を永遠と走り続けた感覚は現実世界にすら残っているのかもしれないな、どうしてか全身に力が上手く入らない。


 ふと思ったが、今の俺は意識はあるのに体が動かない状況ということは、これが所謂金縛りと言うやつか。


普段なら大喜びするところなんだけど夢が夢だっただけに気分はあまり上がっていない。俺は顰蹙しながら唯一目覚めている脳と視覚を動かして夢の最後に俺に語り掛けた頭蓋骨が何だったのか考えてみる。奴はゼウスを殺せと言い放って、俺の中に入ってきたが一体なんだったんだろうか?


 正直ゼウスを殺しそうな神様なんて……思い当たる節しかないな、あの神様達の多くは脳が下半身についてるから考えるだ時間の無駄だ。神様は後回しにして、その神が何故急に夢の中で俺に接触してきたのか分からない。


 何かを暗示しているのだろうけど……もしかしてただ単に未来の彼女達と接触した事によって神様と波長が繋がったとか?目を閉じて考えること約10分、気がつくと空気の熱に解された筋肉がようやく感覚を取り戻し始めて動かせるようになっていた。手と足の指を動かしてから、上体を起き上げると肉体に尋常じゃない倦怠感が重力のように伸し掛かって苦痛を与えてきた。


びっくりするほどに重い……できれば今日はこのまま学校を休みたいけど、明日の”X”DAYまで時間がないしできる限り早く先生達と合流して会議をしなければ…………


「だる……」


 俺は重い体を動かし、2階の自室を出た。廊下を見渡すと普段は明るいフローリングが、まだ早いから静かにしろと色を落として伝えてきた。俺はそんな忠告を聞き入れて、褪せた色の家を姉妹が起きないように差し足でそっと歩いて1階にある洗面台へ向かった。


冷たい水で顔眠気を落として、頭を起こす。普段より1時間半程度早い朝のリビングには、家で誰より早いお袋ですらまだ起きてはいない。ちょっとだけ特別感のある朝、俺はその場で気だるそうに大きなあくびをして、オープンキッチンから冷蔵庫にある牛乳を取り出してコップに注いでからリビングの椅子に腰掛けて一気に干した。


(あぁ、ダメだ。 本当に気分最悪の1日だな)


 飲み干したコップを子供のように咥えて、誰もいないリビングで一思いに耽ってみる。


 そう言えばシステリア……あの子は一体何だったのだろうか?


 突然現れて突然消えて……ヴィリに殺されてから事態がめまぐるしく変化していて、追いつけてない気がする。


 きっと今も俺の知らないところで色々なことが動いているんだろうな。


「はぁ」 


 何度も出るため息、気分が上がらないのは他でもない。


 寝起きは最悪だし、昨日なぜ俺はあの時システリアの手を引いて、都会まで送ってあげなかったのかという後悔もあるし。


 システリアは今頃外で野宿をしているのだろうか。


 家族に何と言われてでも家に泊めてあげるべきだった。


 あの時ああしていれば良かったなんて、後の祭りでしかない後悔を頭の中で何度も何度もループさせている。


 そもそもそんなこと考えたって仕方がないのは重々承知している、何故ならここで答えが出る様なら昨日の俺がとっくに答えを出して今頃晴れやかな目覚めを噛み締めていたに違いないのだから、しかし未だに答えが出ていない。


 それが全てだ。


 きっとこの心のモヤが取れることは今日の時点ではないだろう。


 「なんでこんな事で悩んじゃうかなぁ、俺は」


 コップを回して底に少し残っている牛乳で遊んでみるが、すぐに飽きて机に置く。


 暇そうに外の景色を眺めていると、リビングの電気を誰かが付けた。


「あ、あんたがこんな時間に起きてるとか……どした?」


 声のする方に振り向くと、そこには意外にも母親ではなく姉の河原静希が下着で立っていた。


「いや。ちょっと寝れなくて……姉貴こそどしたのこんな朝早くに?」


「ん? 私は……何で起きてるんだ? なんか大切な事があってそれで起きなきゃっと思って起きたんだけど……」


「何だそれ?」


 俺は適当に愛想笑いをした。


 姉貴はセパレートの様な格好で横腹を掻きながらキッチンに向かい、水道水をグラスに注いで俺の前にある椅子に腰掛ける。


「さぁ。 それで?何かあったの?」


「どうしてそう思うの?」


「そりゃその顔を見たら気づくでしょ、少しやつれて見えるし勇祐……あんた目の下のクマがすごいわよ?」


 姉貴はクスリと笑う。


 洗面台で顔を洗った時に気が付かなかった。


 それはやばいな。


 生気のない顔をしていたら家族に心配されて、下手したら学校に行かせてもらえない可能性がある。


 急いで自分の顔を触ってみるが、案の定分かるはずはないわけで……その場で自分の行動に呆れる。


 それもそうか、もし触ってわかるのなら今すぐ病院送りレベルの酷さに違いないだろう。


 それにしても姉貴はよく気付く人だ。


「そういえば、鏡花がクラスメイトに暴力を振るった日に、家に帰った俺の異変に真っ先に気づいたのも姉貴だったよな。」


 昔のことを思い出し、俺は何となく話を振ってみた。


 懐かしな、家に帰宅して、家族で最後に会った姉貴が1番最初に気がついたのは今でもおかしな気がする。


 軽く笑っていると、姉貴は不思議そうにこちらを見ている。

 

「? 何の話し? 鏡花ちゃんが暴力? もしかして寝ぼけてんの?」


 不思議そうに?


 違う、心配そうに俺を見ていたんだ。


 そんな姉貴の反応を見て、俺はそれ以上言葉が出てこなかった。


 どうやら、時間が経つにつれてこの世界の俺の魂は消えてきているのだろう。


 俺は以前の世界の話を普通にしていたし、この世界の姉貴の反応に寂しく感じた。


 俺だけが知っている過去、俺だけしか知らない出来事、それはきっと些細な齟齬なのかもしれない。


 だけどそれを感じる時はあまりにも唐突で、お前はこの時間を生きている存在じゃないんだと世界が、過去が、それを突きつけて来る。


 置いていたコップを強く握る。


 きっとこの世界に生きている姉貴は今生きている俺とは別の俺と思い出を作っている、姉貴だけじゃない。


 妹の祭や父さん、母さん、鏡花、藤司……


 周りは見知った人たちばかりなのに、孤独が少しずつ俺の心を蝕んでいった。


「何でもないよ。 悪かった変なこと言って……」


 俺はこの時どんな顔をしていたのだろうか?


 自分でも気になるくらいきっと相当ブサイクな顔をしていたんだと思う。


 なぜそう思うのかって?


 それは簡単だ。


 姉貴の顔がそれは酷く、酷く眉を顰めていたからだ。


 それから姉貴は一言も俺に言葉を返すことはなかった。


 俺は今日、普段より早く家を出た。


 朝焼けが照らす車内は純文学に出てきそうなほど幻想的で、グチャグチャの心を少しだけ遠くに置き去ってくれた気がした。


 乗り換えて少し人が増えてきた時、ふと鏡花のことを思い出す。


(そういえば鏡花を待たずに先に行ってしまったな。 殴られてしまう……ことはないな。 この世界は俺の生きてた世界じゃ無いんだから……)


 何もかもが幻だと感じてしまう日常から逃げるように、普段より1時間程度早くついた学校。


「がんばろ……」


 こうして俺の……いや、人類にとっての普通が終わる前日が始まりを告げた。


 世界の分岐点まで残り1日

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