運命の選択2
場面はノイズを立てて移り変わる。
「おい!何やってるんだよ! 小早川さん!」
そこは大きな廃墟で、俺は翼に大小無数の風穴と熱で爛れたような火傷を負った瀕死のヴィリを、涙を瞳に浮かべながら必死に応急処置していた。
「ごめん……ね。 この世界の君を守りたかったのに……私は……躊躇ってしまった……」
「もう喋るな!それ以上は」
こうして客観的に見てみると、この世界のヴィリは今の俺が生きている世界線で変態した未来型兵器より、翼の大きさが1.5倍程で、純白のウエディングドレスを着飾る姿は全くの別人だ。
それにしても本当にヴィリなのか?よく見てみるが、俺の知ってるヴィリより顔つきは少し大人っぽいし、頭髪も朱色ではなく銀髪……もしかしてこれが本契約と仮契約の違いなのだろうか?
「勇祐……ごめんね……■■■■……あとは任せます……タイター」
ヴィリは死を覚悟したように優しい声音で俺と後方にいた先生に何かを伝えた。 俺はその一連の流れに注力して観てはいたがその映像でヴィリの言った言葉の一部だけがノイズで掻き消されてしまい、重要なことを言ったようだったが何を伝えようとしたのか上手く聞き取ることが出来なかった。
結局そのまま映像は流れ、何かを言い残したヴィリは俺を先生に託してから壊れた羽を大きく広げて飛び立った。その場で無力に泣きじゃくる俺が未だ巨人に立ち向かおうとしている彼女を止める為に手を必死に前に突き出す……力も無いくせに足掻く様子は哀れだ。
そのまま伸ばした映像の俺の手は空を切り、ヴィリは振り返る事なく再度火の海へと飛び立っていった。
「勇祐、無事だったか。 さぁこっちに」
醜い俺の腕を強引に引っ張る先生。
「だめだ、まだ小早川さんが……鏡花が……家族が……」
「ヴィリが時間稼ぎをしてくれている今、彼女の努力を犠牲にするきか! 後2時間で明日が来る、それまで必死に足掻いて、醜く地面を這ってでも生き残れ!!」
そう言って子供のように泣き喚く俺を先生は力強く打った。
「大丈夫だ、また会える」
(…………)
何もいえずに前世の俺はその場で泣き崩れていた。
それもそうだろう、この時の俺は何も知らないし何も理解できていない。
だからその現実に流されるしかなかった、希望があるなら縋るしかなかった、見ているだけで心が苦しくなる。
明後日の俺には一体何ができるのだろうか、この世界の俺よりかは今の現状を理解できているつもりだ、しかし理解できているところで、なんだという話だ。
たいそうな力を得たわけではないし、それどころかこの世界同様に何かあったらヴィリに助けてもらえという先生のスタンスは全く同じ気がする。きっと明日になったらヴィリは俺を助けにくるだろう、そしてこの世界と全く同じことになって世界は終わりを迎える。
この世界では、まだ別の世界に俺がいたから転移できたが今回はそういう訳にもいかない。
これがラストチャンスだ。
だから目に焼き付けておこう、あの巨人の攻撃を、滅ぶ世界の有様を。
巨人は体に大きな穴を空けて、核の様な部分から謎のビームを出して止まることなく破壊を繰り返す。
蹲っている前世の俺を横目で見たあと前を向く。
怖いと思った。これは映像で、現実じゃない、だから誰にも認知されない、されていない。
頭では分かっているのに気味が悪い。
その時、俺は巨人と目が合った。
止まらない鳥肌、俺に気づいたのか巨人はこちらを見て微笑んだのだ。
顔がないのに、頭がないのに奴は確かに笑っていたんだ。
瞬きを数回、再度世界は移り変わる。
暗く閉ざされた部屋。ここは地下だろうか?
前世の俺は心が死んでいて、無反応だ。
外では爆音が響く、周囲を見渡すがケーブルが敷き詰まった部屋とカプセルが中央にある謎の空間、先程までの場面は思い出せたが、この場所は全くと言っていいほど記憶がない。
俺は俺の記憶ではないのか?疑問に思ったが、今はそれどころではない、この映像から得られる情報を徹底的に脳味噌に叩き込もう。
それにしてもこの席で一体何があったのだろうか?今の俺ですら苦しくてもこうはならないのに、この世界の俺は完全に廃人と化している。他には特に誰かいる気配もないな、周囲を見渡していると部屋のドアが開く、中に入ってきたのは左肩を口と右手を器用に使ってロープで必死に締め上げている先生だった。
よく暗くて見えないが影で十分わかる。締め付けている左肩から下が無くなり、血が滴っていたのだ。
先生は右足を引きずりながら廃人の俺を見つめて優しく微笑んで語りかけた。
「すまない勇祐、君にはこれからヴィリが作り上げた真隣の世界に移ってもらう……そこはきっとゼウスの干渉はない世界だと……祈っているよ……」
「…………」
何も言わない俺の首元を引っ張って先生は必死に中央のカプセルに放り投げた。
「乱暴ですまない。 君に全てを背負わせてすまない」
先生は大量の血を流しながら必死に機械に何かを打ち込む。すると起動したカプセルの上下が発光し、下部にあるゲージは赤く点滅を始めた。よろめきながら歩いてきた先生は俺の前に俯きながら来る。
「説明する時間がなくてすまない。 といっても私もゼウスなんて存在を知ったはついさっきでさ……まさかこの世界のヴィリがいるなんて驚いたよ……勇祐……お願い……生きて……生きろ!!!!」
無反応の俺に涙でクシャクシャの先生の姿は死ぬことを受け入れている様子だった。
(先生!!)
俺は先生を抱きしめようとしたがその手は先生をすり抜ける。
(何だよこれ……)
その場で膝を折る、傍観者の俺はその凄惨な世界をただ見守ることしかできない。
カプセルの中で壊れた俺に先生は親指を立てて一言、背負わせてごめんなと言い放った瞬間、建物が激しく崩れ落ち世界が白く発光する。
瓦礫に埋もれて尚も生きながらえている俺、体の半分は潰れていつ死んでもおかしくはない。
映像が途切れ出し、ノイズを立て始める。
このまま潰れて死んだのだろう……そしてこの世界に来たのかと思った刹那、俺の死は意外な結末を迎えた。
「お前をこの世界の楔にする」
途切れ途切れの映像、身体中傷だらけの仮面の男が大剣を俺に突き刺していたのだ。
男の言葉と同時に俺はその場で宙に浮いて空と大地から出てきた鎖に吊られて、絶命する。
男のはっきり聞こえたセリフはそれだけだった。
それからはテレビを切ったかのように真っ暗な世界に引き摺り込まれて全てが遠のいていったのだ。
哀愁漂う男を一人その場に残して。
*
真っ暗になった世界、水の中にいるような浮力を感じながらゆっくりと沈んでいく。落ちていく意識、脳内に響き出
したのはドス黒い声。
その声は一方的な命令だった。
目をゆっくりと開ける、すると目の下に星の痣がある頭蓋骨がケタケタと喋りながら此方を見ていた。
「これはチャンスだ。 最後のチャンスだ。 お前は器にすぎない。 お前は人形にすぎない。 お前は抗う術もない弱者だ。 だから貸してやる。 代償は貴様の今だ」
その頭蓋骨が俺の頭の中にに入り込む。
ドロドロとした黒い感情と、溶けるような酸性雨の痛みが全身を駆け巡る。
(かはっ)
何者かが一方的に先程の映像を俺に見せつけて、一方的に契約を結んできた、それだけは理解できた。
俺の今が代償?ふざけるな、誰がお前なんかと契約なんてするか、出ていけこれは俺の体だ。お前の器になった覚えはないし、お前の憎しみに付き合ったられるほど俺はお人好しじゃねぇ!
俺は必死に顔面を掻きむしるが、そいつはそれ以上何も喋る事はない。
きっとこれも夢だ。さっきの世界の延長線上の出来事で、俺の記憶が中途半端にあった理由。
あの無垢の世界だけが現実の夢でここまでが過去の現実だとしたら、夢の中の世界や、そこで出会った未来型兵器に酷似したミイラ……あれは一体なんだったんだ?なんで今になって過去の死を見せた?
疑問は解けぬまま、俺は全身を駆け巡る痛みで現世に戻された。
本日は朝の部の配信ができなく申し訳ありませんでした。
これから2作品同時公開いたしますので一読の方よろしくお願いいたします!!




