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未来色少女  作者: 葵鴉 カイリ
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運命の選択1


 それから寝室について俺はシステリアのことを考えながら、重い瞼を静かに閉じ、夢の中へと誘われる。 

 

 意識が覚めるとそこは真っ白な世界がずっと先まで続いている。


 こんなことは初めてだ、寝ているならきっと何かしらの夢を見るだろう。


 気絶しているなら暗影の中に身を沈めるかのように記憶が全て閉じるだろう。


 だが違った。


 そこには俺の記憶にない世界が広がっていた。


 空は雲ひとつなく深い青が異常なほどに透き通っていて、そのせいか宇宙に存在する月よりも近い大きな惑星がくっきりと見える、ふと視線を落とすとくるぶし程の真水が真っ白な砂の上に薄く張っていた。


 地平線まで続いている、まるでこの世のものとは思えない幻想的な世界。


(なんだ、ここは?)


 あれ?何で声が出ないんだろう?


 疑問に思い俺は自分の右手を喉に当てようとしたが、右手は喉に触れることなく宙をかいた。


 背筋が凍るほどの寒気が襲う、夢にしては意識が鮮明すぎるし、だからと言って現実かと言われるとそうでは無い。


 何故違うと言い切れるか、それは喉に右手が触れられなかった事もそうだが、それよりもその時に視線を下げて気づいてしまった俺の現状だった。


 体は真っ白な霧に包まれていて、実態しているのは多分顔の一部と手と足のみでそれ以外は手で触れようとしてもすり抜けて触ることができないのだ。


(なんでこうも巻き込まれるの……)


 ただ気絶しただけで良かったのに、間違いなく俺は何かに巻き込まれてるのだろう。呆れながら腕を組んで、永遠に続く地平線を見渡す。


 できることなら早く覚めてくれ、今の俺には悠長に使える時間が無いから困るんだ……


 目を凝らしながら再度周囲を見渡すが、やはりこの世界には木も、花も、当たり前だが人工物も何もない。


 目視で確認できるものもなければ、持ち物もないから情報も完全に絶たれている。


 どうする事も出来ず、呆気にとられながらただ何度も辺りを見渡すした。


 それから体感で数10分、世界には特段何も変化はない。現実に戻る気配もないし、どうするのが正解なんだ?


 俺はその場に腰を落とし、唸っていると真後ろから波紋が体に当たった。


 それはこの無垢の世界に起きた異変だった。


 急いで、波紋の元へと向かう。


「…………」


 不思議だった、なぜそう思ったのか分からないが、その波紋が俺を呼んでいるような気がした。


 切れることのない体力、痛むことのない足、ただ急がないといけない。


 そんな感覚で動いていた。


 どれだけ走っただろうか?日が落ちる事のない世界。


 永遠に続く地平線は絶望だけを俺に与えた。


 分からない。


 俺が何者だったのかすら忘れそうになるほど走った。


 見えない目標、帰りたい願望、時間の概念が消えた自分。


 はっきりしていた意識は狂いそうになっていた。


 ただそれでも駆り立てられるかのように走り続けた。


 気がつくと波紋は少しづつ弱くなって、頻度も短くなっている。


 焦りだしていた。


 俺にとって波紋を追うことだけが唯一の希望になっていたから。


 だから波紋が弱くなっていることが堪らなく怖かった。


 走り出して幾月経っただろうか。


 俺は痛むことの無い足で走ることを止める。


 歩いたのはたった2歩、何とか動いていた足は完全に停止する。


 諦めた時、すっと目を前に向けるとそれはずっと目の前に居たかのように一寸先に何かが確認できた。


(あれは、人影?)


 重い足がゆっくりと歩き出す。


 人がいると思うだけでどれだけ救われただろう。


 踏み締める一歩一歩、ようやっと近づけたそれは異様な光景だった。


 空と大地、この世の全てに縛り付けられ、膝を地面に折っている人の也をした何か。


 さらに近づくとそこに居たのは背丈が10m位の巨大なミイラだった。


 翼があり、天使の輪があり、機械的な程怖くて美しく、それはまるで未来型兵器の姿そのもので、ようやっとたどり着けたそれをただ眺めていると、世界が大きく変化を始めた。激しい地鳴り、立つことすらままならない地震が世界を左右上下に揺さぶる。


 並行感覚を失いながらもしゃがみ込んで、勢いよく目を瞑り揺れが収まるのを待った。


 足から揺れを感じなくなる、俺は恐る恐る目を開けると、足元が階段上に変化し、それの心臓部へと続く道が出来上がっていた。


(登れってことか?)


 俺は堪らうことなく、その道をゆっくりと着実に登った。正常な判断ができるなら危険だと思い躊躇うかもしれないが、俺にはもう考えるだけの余裕が無かった。


 ただただこの場に留まりたくない。


 それだけだった。


 登り続けた先の心臓部には大きな南京錠があり、鍵穴の代わりに手形があった。


 人の手よりずっと大きい手形に俺は手を重ねる。


 南京錠と手の間から七色の光が溢れたして、同時に脳内から抜け落ちていた大量の記憶が流れ込んできた。


 凄惨な街、泣き喚く人々、まだ日が昇る前の暗闇を地上が太陽の代わりに照らそうとしているかの如く、高い火柱を立てながら燃え広がっている情景。


 状況はまさに地獄絵図そのもので、そんな世界を闊歩するのは頭部の無いゼリーの様な巨人。


(これは……)


「なんなんだよ……」


 俺の思考の続きを、よく聞き慣れた声が真後ろから続けて口を開く。俺はその場で勢いよく振り返った、有り得るはずのない存在、そこには俺が立ち竦んでいたのだ。


(もしかして、これはほかの世界線!?)


 俺は焦った、タイムパラドックスが起きてしまうかもしれないと。


 しかし、直ぐに逃げ回る人々が俺をすり抜けて気が付いた、これは別の世界線であって移動したわけではない、じゃあなんだ?震える瞳孔、理解している脳が蓋をしていた記憶を必須に止めようとしている。


「に、逃げなきゃ……」


 見えの前の俺が情けない声を出しながらどこかへと走って行った。


(これは……あの時の光景じゃない……のか?)


 ……?


 あの時の光景?


 嗚呼そうだ、そうだった。


 なんで忘れていたんだろう。


 そもそもこの変わり果てた街も割れた道路もよく見れば俺の家の目の前じゃないか……そしてこれは、この映像は……


 グッと巨人を見つめる。


(前の世界線の記憶だ……)







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