志摩青原と言う少女2
責めようにも責めれない。
(ほんっと……)
「おい。」
「ははは。 ん、何?」
「立ち話も何だ、家に入るぞ。」
俺は志摩青原という少女の手を掴み、半ば強制的に引っ張る。
「……え? いやいやさっき私彼女じゃないって公言したよね? 何欲情してんの?もしかして本気にしちゃった?」
志摩青原は俺の行動がさぞ予想外だったのか、今になって必死に弁解しようと焦っている。
俺はため息混じりに、少し腹が立つ。
「はぁもういいから。 演技するならもう少しマシな表情でしろ。」
「??」
多分本人はこの適当な笑顔で俺をごまかせていたと本気で思っていたのだろう。
(なんで自分の事で手一杯の状況で、こんな顔する子が現れるかな……)
俺はその表情を知っている。
周りなんて見えてないクセに 他人の顔色を伺って、できる限り当たり前を演じようとするその仕草。
この志摩青原の様子は鏡花が障害を背負った事を俺にひた隠しにしていた時と全く同じだ。
「たく、ほっとけるかっての」
本当、できる事ならもうあの時の表情は見たくないと思っていたんだがな……
ただでさえ今日は色々あって疲れてるってのに、何が嬉しくって見ず知らずのフシギちゃんの話を聞いてあげなきゃいけないんだ。
無視すればいいのは分かってる。
それでも、そんな顔する人を家の前でほっとける程、俺は無慈悲にはなれない。
(馬鹿だな)
心の中でほとほと自身の甘さに呆れる。
ま、仕方ない。
わざわざ家の前まで来てたんだ、何か事情があって俺に会いに来たんだろうし、一旦彼女の話を聞いてやるか。
「ちょっと待って!知らない人家に上げるとか正気なの?」
「最初に接触してきて何今更焦ってんだよ。 もしかして怖いの?」
「え?いや。 私の記憶の相違というか……えっと……何というか……」
声が小さくなっていって最後の方は聞き取れなかったが、記憶の相違がなんとかとというとこまでは聞き取れた。
今日の今日会いに来たってことは、大体想像がつくけど……多分この志摩青原という女はどこからか俺という人間の情報を得て接触してきた未来人とかで間違いなんだろうな。
「最初の余裕どこ言ったよ?」
「え?いや?余裕ですけど?」
「なら問題ないな。」
「へ……」
おいおい、あーちゃんさん?お顔が真っ赤じゃないですか。
あんだけ俺に積極的だったのが襲ってこない前提の演技だったってその反応見たら丸わかりですよ?
何故?どうして?急な俺の言動に慌てふためき、頭にハテナを浮かべて焦っている志摩青原、そんな彼女の反応なんてお構い無しに俺は玄関のドアを開けて、家に連れ込んだ。
*
「ほい。」
「……ありがとう。」
家にあげた瞬間急に潮らしくなってしまった。
わざわざ話を聞くために家にあげたのに、完全に借りてきた猫の状態だ。
萎縮して動こうとしない少女にお茶を渡してあげると、半目で俺を睨みつけながらチロチロと少しずつ小動物のように飲む。
なんか最初とのギャップが激しいな。
「んで、志摩青原さん。 再度聞くけど君、何者? 言っておくが未来人とか言われても驚かんよ? だから正直に話してみ?」
今日だけで現実離れした事象がアホほどあったんだ。
今更何言われても落ち着いて聞いてやろう。
「……そうね。 別に揶揄った後すぐに話すつもりだったし、今更隠す必要もないものね」
やっぱり揶揄ってたのね。
俺も彼女を半目で見る。彼女は小さく深呼吸をして飲んでいたコップを机の上にゆっくりと置く、そして真剣な顔で胸に手を当てて再度自己紹介をする。
「改めて、私はコードネーム、システリア、未来の世界からこの時代に来た元未来型兵器……現在はこの世界における敵よ」
「そうかそうか。 敵ね……」
ん?今敵って言ったよな?
ヴィリはこの世界線のことを敵気付かれちゃいけないとか言ってたな。
そも俺ってこの世界線にしか存在しない未来の希望やら何やらと先生に言われたし……人間側からすれば未来を変えたいけど敵からすれば変えられると困るわけだし……そりゃ未来から刺客がきたりすることだってあるわけか。
真剣に見つめる彼女をよそにお茶を飲んで一息つく。
「何でそんなに落ち着いてるのよ?」
俺が落ち着いてお茶を飲んでいると青原さんが頬を膨らませているではないか。
この子表情がコロコロ変わるな。
「そりゃ、近々で色々ありすぎてな。 それで? 敵の志摩さんは一体どの様な御用で? 俺を殺しにきたの?」
「志摩じゃなくてシステリア。 安心して、私は確かに未来で魔女ディットに拉致された挙句、改造されてこの時代に送り込まれたけれど、その目的はこの世界を認知して災害の座標となる為であって貴方を殺すためじゃないわ。 魔女にとっては私がこの世界に来た時点で用無し同然だろうしね。 だからあなたに会いに来た理由は殺す為ではなく、忠告をしにきたの」
システリアは、それはもうペラペラと説明をするものだから信用していいものなのか多少疑わしくすら感じた。
「忠告ね……その未来の魔女は君を改造して、制限かけずに 送ってくるとかテキトーだな。 それじゃ敵に塩送ってるのと変わらないくないか?」
「そんなことないわ。 災害は無条件に全てを巻き込む。 だから魔女は座標さえ得ることが出来たらあとはどうだっていいの。 でも私はこの世界に来た以上、あなたを生かすために全力を尽くすわ。 いい?まずこの世界線についてだけど、現在6月4日の木曜日までしか未来は確定していない」
木曜日……俺がヴィリに殺された翌日だよな……この世界線移動に俺の死が起因していると仮定していたが、やはり木曜日の夜、就寝している時に死んだということか。
そうなると木曜日の夜の時点で俺の死は必然、世界にとっての確定事項で間違い無いだろう。
ここまでは理解できるが、そうなると水曜日にヴィリに殺された事が余計腑に落ちない。
この世界では水曜日の放課後に殺される予定のヴィリに、前日の火曜日、今日接触をした。
ヴィリは立ち去り際に前の世界で俺を殺した時間に教室に来るよう指定してきて、放課後に俺はヴィリと殺された時と全く同じ状況で話をした。
以前の世界同様に殺されると構えていたが、ヴィリは俺を殺すどころか、意外にも俺の置かれている状況を1から丁寧に説明してくれたのだ。
おかしいのはそれだけではない。
ヴィリと接触する前に保健室で先生は、俺が殺されるということが実質的な世界の終わりみたいなことも言っていた……これは以前の世界と完全に矛盾している。
なぜ以前の世界で、ヴィリは俺を殺したのか? 未だ多くの謎が残っている現状、もし彼女、システリアが言っていることが本当だとしたら、この世界において例え明日ヴィリに殺されなかったとしても何かしらの要因で俺は明後日死を迎えるという事になる。
「要するに俺は魔女災害で木曜日に死ぬってことか?」
持っていたコップを机に置いて逼迫した様な表情で聞くと彼女は顎に人差し指を当てて、少しあっけらかんとしながら話す。
「?いえ、確かに木曜日に私を座標としてこの世界に魔女災害が起こるけど、その災害に生き残れるかどうかはあなた次第。私があなたに伝えているのは、あくまで世界の未来が未知だという事よ」
なんか俺が真面目な時に、彼女はあっけらかんとしてるこの温度差は何なんだろう……妙に噛み合ってないような?
はてさて、またよくわからん単語が出てきた。魔女に魔女災害?もしかしてそれが未来に終焉が起きる要因?
……いや、そうではないだろう。
終焉が起きたのはずっと先の未来。そしてそれがもし魔女の仕業だと仮定しても、今、直接ではなく間接的に干渉する意味が分からない。もし間接的に接触する理由があるならば、魔女災害とはあくまで未来を本筋に戻す行為に過ぎないのだろう。
システリアが先程言った俺の死は確定の未来ではないという言葉、それは詰まるところ木曜日が俺にとっての生きるか死ぬかの未来の分岐点ってわけか。
この仮定が正しければ、魔女という存在は未来に終焉を望むべくしてもたらしたが、突如発生した俺が存在している不確かな世界線に感づき、自分の世界を脅かす可能性がある小さな芽も全て摘む為に、彼女という座標を送り込んで災害を発生させるという筋書きか?それなら大体の説明がつく。
ただ、もしもその仮定が正しかったら嬉しい誤算だ
てっきり俺が死ぬことは木曜日に運命として確定しているものだと思っていた。
「それで?その二日後の未来を生き残るために俺は一体どうしたらいいっての?」
「今やるべきことはまずこの事をタイターに報告してほしい。 そうしたらあの人がきっと導いてくれるから」
「了解。 それはそうと、疑問があるんだけどいいか?」
「うん。 別にいいよ?」
「ならまず一つ、何で君ら未来型兵器はカタカナ名称にこだわる訳? 最初に氏名を名乗って、その後にカタカナの仮名を言うのは礼儀とかそう言うやつ?」
この件についてはずっと気になっていた、小早川さんや志摩さんは何で名前言った後にコードネーム?を言うのかずっと謎だったし、言った後はその名前を言うように妙にこだわるのも意味がわからない。
「コードネームを呼んでもらうのはまぁ簡易契約のようなものなんだ」
「簡易契約?」
「そう、私たち兵器はクロノスの血液保持者と契約を結ばないと本来の力をほとんど出せなくってね。 安心して、この契約は完全な主従関係だから、君がコードネームを呼ばなくなった時点で私たちはそこらの少女となんら変わんらない」
なるほど、そういう意味があったのか。
だからヴィリは意地でも俺にコードネームを言わせようとしたわけか。
というか、話さない方が彼女達には完全にメリットだろうに、ちゃんと質問に答えてくれるあたり、システリアは真面目で忠実な性格なんだろうな。
「了解、教えてくれてありがとな」
「あぁ、信用してくれと言って隠し事をするのは不誠実だからな」