起動1
初めまして葵鴉です!
Twitterでの予告通り10月より未来色少女を投稿させていただきますので是非よろしくお願い致します!
一応この作品は第1章までの投稿になります!それ以降は一旦保留とさせて頂きますので悪しからずご了承ください(>_<)
俺、河原勇祐は平凡な日常を送っているただの高校生だ。
特段個性があるわけでもない、部活には所属してないがそれでも教室では仲のいい友人が2人いるし、何不自由ない暮らしをしている。
高校に入った頃は、新たな出会い、新たな空気に心を震わせたのが懐かしい。あれから1年、あっという間で、過ぎてみれば特に目新しいものもなく惰性でなんとなく生きる日々。
結果的に何も変わらなかったからつまらないと言われれば嘘になってしまう、だがこういう平凡な人生というのも俺には案外適しているのだと思う。
大きな欠伸をして窓際の席から頬杖をついて、花弁が散り、青々と葉をつけた桜の木々を見ながら生暖かい風を頬に受け、夏の訪れを感じる。
〔我ながらなんとまぁ詩的なことか〕
変な感傷に浸りながら再度欠伸をして、机にふせた。
特段眠いから……という理由ではなくただその体制が楽だからだ。別に俺だけがやってる訳じゃない。
教室を見渡せば数人同じようにしてる。
昼休みに、友人と話すのは楽しいしやればいいと思うが、やっぱり人間関係ってのは気を使うからそれなりに疲れるものだ。毎日、毎時間話ができるエンジョイな奴らは素直に尊敬するよ。
本当。
そう言えば尊敬と言われればエンジョイ勢の他に異質な奴がうちのクラスに1人居たな。
名前は確か小早川菫、席は俺の隣で常に教室で1人を貫いているいわゆるボッチだ。
彼女の凄いところは周りと馴染めないからとか、話が苦手だからとか、オタクだからとか、そういう周りからの偏見で孤立してしまった在り来りないじめられっ子とかでは無い。
周りは彼女に何度も接しようとしたのだが彼女自身が拒んでいるのだ。容姿端麗、成績優秀、運動神経なんて男子よりもずば抜けていい、まさに完璧な奴だ。
そんな完璧な奴、普通嫌味を言われたりすると思うだろ?
だがしかし、このクラスでそんな事は今の今まで全く起きた事がない、それどころか彼女は男女問わず全ての人間から好意を受けているまさにハイスペック女子だ。
俺だって彼女のことは心から尊敬している。
決して相手に対して嫌味を言わず、誰に対しても分け隔てなく接し、その立ち居振る舞いはまさに、立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿はユリの花っというやつだ。
俺には完全に高嶺の花、それでもこうして隣の席になれた今日に感謝しかない。神様っているんだなぁ。
俺は伏せた顔を隣の席に向ける。
ガッツリ凝視するのは気持ち悪いから腕の隙間から薄ら目で眺めて、今日の目の保養を行った。
気持ちが浄化されていく。幸せをかみ締めながら今日の生きる糧を摂取していると、後ろから丸めた紙か何かで小突かれた感触を背中に感じた。
「おーい」
ボソリと小言で俺に話しかける声。
俺に話しかけているのは気づいているが、今の俺はそれどころでは無い。もう少し、もう少し待ってくれ。
あと少しで補充が完了するんだ。
無視していると、小突く頻度はどんどん早く、そして強くなっていく。流石に鬱陶しくなってきた。
俺は少し苛立ちながら後ろの席に目をやる。
するとすごい形相で親友がこちらを見ているではないか、不思議に思った。
何故コイツはこんなに焦っているのか?
そして何故こいつの左隣にもっとすごい形相の幼馴染が居るのか?
少し、顎に手を当てて熟考してみるが分からない。
自分で考えても分からない時は答えを知っているやつに聞くのが1番だな。
俺は後ろの親友に今の状況説明を頼むことにした。
「おい。藤司、この状況はなんだ?」
「知るか!でも鏡花のやつ、教室に入ってくるなりただならぬオーラをずっと放ちながらここまで一直線で来たんだよ!俺は警告しようとお前の背中を突っついてたのに完全に無視しやがって……」
ふむ、どうやら藤司の真後ろで悪霊のように佇む幼馴染は俺に対して何か思うところがあってそこにいるらしい。
「すまん藤司。わざわざ俺に忠告してくれようとしていたのに、俺は隣の席の小早川さんを凝視している余りお前の事をことを後回しにしてしまった」
俺は目を瞑り、深々と謝罪の念を込めながらそっと藤司の肩に手を置く。
「だからな、藤司。そんな青ざめた顔するなよ?笑顔だ。笑えばきっと幸せは向こうからやってくるから」
そっと目を開けると拳を強く握り締めて、振り上げる幼馴染が血走った目でこちらに襲いかかろうとしてきていた。
「ほら、スマイル!」
最高の笑顔を早瀬に見せつけた瞬間、俺の顎に勢い良く鉄拳がクリーンヒットする。
「勇祐ー!!」
叫ぶ早瀬藤司、キレる内海鏡花、無反応の小早川菫、意識が飛ぶ俺、ざわめき立つクラスの奴ら、これがいつもの日常だ。
*
「ふぁー」
目が覚めると時計の針は8時15分を指していた。
いつもの保健室のベッド、一週間に一回は必ずと言っていいほど俺はこのベッドで第二の朝を迎える。
正直、ここまで来ると自室にあるベッドよりも寝心地が良く、愛着すら感じてしまう。
気だるさを感じながら、二度寝したい気持ちを押し殺し、重い体を起きあげて、ゆっくりとベッドから立ち上がる。
流石に教室に戻らないとあと10分で朝礼が始まってしまう、俺はいつもの様に保健室の扉に向かうと今日は珍しく保健室に先生がいたことに気づいた。
俺は苦笑いで簡単に会釈する。
「河原、君はあと何度運ばれれば気がすむんだ?」
呆れたように先生が仕事をしていた手を止めて、問いかけてくる。俺は少し考えてから人差し指を立てて愛嬌満点で答えてやった。
「分かりません!」
決まった!我ながらなんて可愛い返答なんだ。きっと俺が男じゃなくって超絶美少女だったら今ので全てが許されたに違いない。俺が美少女じゃなかったのが悔やまれるな。
自分で自分の回答に納得しながら頷いていると先生が大きなため息をついて頭を抱えた。
「はぁ、あのな河原?君が内海の面倒をみてるのは私だって理解している。だが彼女の病気は彼女自身で直さなきゃいけないものだ。今はお前がいるからどうにかなってるかもしれないがこれから先、ずっと寄り添って生きていけるわけじゃないんだぞ?」
刺さる言葉だ。流石は伊達に俺ら生徒より長生きしてないな。言葉の重みが違う。
……だが、俺にも俺の考えがあってこうしてる。
いや、考えなんてただの綺麗事か、正しくは贖罪。
彼女にあのような行動をせざる負えない状況にした、俺の罪だ。だから背負わなきゃならない……
少しの沈黙、俺はあっけらかんとした表情をして手を頭に当てながら愛想笑いをする。
「はは、まぁ何とかなりますよ。」
今日も適当に話を流そうと思っていたが、どうやら先生は真剣だったようだ。
表情はピクリとも動かない、まるで逃げるなと言わんばかりの張りつめたオーラを放っている。
冷や汗をかきながら、俺はダッシュで保健室を後にした。
「おい!このままだと取り返しがつかなくなるぞ!」
後方で先生の声が無人の廊下に木霊するように聞こえたが、朝礼の時間も刻々と迫っていた事もあり、走りながらありがとうございました!と少し振り返りつつ大きな声で答えてすぐに教室に戻った。
ゆっくりと教室のドアを開けて、何事もなかったように自分の席に座り、大きな欠伸をする。
今日はやけに眠いな。
そういや俺って昨日家に帰ったっけ?
ふと思った。今日の記憶が教室から始まっている違和感、昨日の記憶が曖昧で思い出せない。
わけがわからないがそういうこともあるのだろう。
(朝礼が始まるまであと5分か、少し時間があるな)
俺はいつも通り、携帯をカバンから取り出して、ソシャゲを開いてみる。
すると、ログインボーナスがもらえた。不思議に思う、俺はこのゲームをサービス開始から毎日欠かさずやっている。通算ログインは俺の生活で、早朝に必ず行う唯一のルーティーンなのになんで今ログインボーナスをもらっているんだ?これに関しては事欠かしたことがないのに……
そういえば内海は今日どうして怒っていたんだろう?俺は昨日確かに彼女と一緒に帰った……と思う……何かが抜け落ちている気がする。
なんだろう?いくら頭を傾けてみても違和感の正体に皆目検討がつかない。
ただ今の時点でわかっているのは昨日、俺は家に帰っていないということだ。
携帯の通知が60件、その全ては心配をしている親からの通知だ。
「藤司っていっつも学校に来るの早いよな?」
「?まぁな。それがどうした?」
後ろの親友、早瀬藤司に話しかけて聞いてみる。
こいつは中学からの中で、身長は俺と同じくらいだから165cm位?体格は結構細身のくせに筋肉質で、陸上部に所属している。髪の毛はスポーツ刈りで、陽気な誰とでも打ち解けられる器用なやつだ。
馴れ初めは確か、中2の運動会で俺が鏡花に脅されて出た200m走で一緒に走った時だっけか?
あの時は藤司のやつも無理やり出されて、やりたくもない事に努力できない俺たちはすぐに意気投合、周りに極力迷惑をかけないが努力もしたくない俺たちはお互いビリ争いをした記憶がある。
どっちが必死になりながらみんなに責められずにビリを目指せるかなんてやったのが懐かしい。
こいつは真面目で、何事にも真剣に取り組む奴だが、それは自分の為で、誰かに認められたいからとか、ちやほやされたいからとかじゃない。ただ自分がやったことに自分が納得いく努力をして、自分に後悔したくないからそのために行動する変だがすごい奴だ。
そしてそんな奴だから誰よりも努力している、聞いた話によれば朝4時から走り込みをしているそうだ。
そんな藤司だからこそ俺は質問する。
「俺って今日、お前が来るより早く教室にいたか?それこそ朝練している時からとか?」
「勇祐、何言ってんだ?」
困惑したような表情で、俺の質問に質問で返してきた。そりゃそうなるわな、完全に意味がわからない質問だ。
もし俺がこの質問を藤司から聞かれたら同じ反応をするだろうな、だがそれでも聞かないといけない。
昨日、俺はどこにいて何をしていたのかを知るために。
「悪いが、先に俺の質問に答えてくれ」
俺は真剣な表情で答えを催促する。
「うーん……確かに俺は学校に来るのは早いが朝練で外で走り込みしてるから教室の状況まではわかんないな。 あ、でも教室に人影があったのにはあったな。その人影が勇祐かどうかまではわからん。朝練が終わって教室に着くと勇祐と小早川さん、清水さん、高田、シマッチ……あと数人いたぜ。 あれ?そういえば勇祐はいたのに内海さんは居なかったな?」
藤司の話を聞いた後に確信した。
俺は朝にめっぽう弱く、鏡花が家を訪ねてきてから学校に行く準備をする。
それなのに俺は教室にいて、鏡花は居なかったという状況、全てが不自然だ。
「俺さ、昨日の記憶があんまないんだよ。」
「はぁ?なんだよそれ?お前昨日は内海さんと一緒に帰ってたじゃんか!」
鏡花と帰った?鏡花の方に視線を少し向けると、彼女は涙目でこちらをずっと見ていた。
俺、本当にどうしちゃったんだ?
そんな話をしていると先生がやつれた顔で教室に入ってきた。
目にクマもできており、様子が明らかにおかしい。
「えー皆さんに報告……」
そこまで言うと、先生と目が合う。
先生の目に光が入り、手に持っていた生徒名簿を手から落として声を荒げる。
「河原くん!あなた!今までどこ行ってたんですか!!」
生徒全員の視線が俺に向く、状況がわからない。
あたりを見渡すと藤司が思い出したかのように声を出す。
「あ!!昨日の夜に勇祐の親が行方不明になったって電話かけてきたの思い出した!」
「あ!!じゃねぇよ!親友!それ超大事なことじゃんか!」
「いやぁ、なんで今まで話忘れてたんだろうな。教室に入るまでは確かに覚えてたんだが……」
そう言いながら不思議そうに話す藤司、すると教室の全員がざわつき始めた。
「私もそういえば連絡回って来てたのに……」
「あれ?なんで俺忘れてたんだ?」
「俺も教室入る前まで覚えてたと思う……」
なんだ?何が起こっているんだ?
不思議そうに周囲を見渡していると、涙を流している先生が小走りで走ってきて急いで俺の手を引いた。
状況に流されるまま俺は先生に強引に連れて行かれた。
席を離れる瞬間、小早川さんが俺に視線を向けて口を開く。
「タイプh、起動しますか?」
ただでさえ意味がわからない状況で、さらに意味がわからないことを言い出されると俺はついていけない。
「はい?」
考えて出た言葉ではない。わけがわからず咄嗟に出た言葉だった。それなのにこの言葉で俺の未来が大きく変化してしまうなんてこの時の俺は何も知らなかった。
いや、知る余地もなかったんだ