そして、旅に出る
ソリュウと利害が一致した春樹は自分の体の主導権を取り戻した。
(けど、僕は今まで戦いなんかしたことないけど。)
(安心しろ。お前の体は俺の魔力で強化してある。それに俺が戦闘をサポートしてやる。)
(う、うん。)
剣を握った春樹は大きく深呼吸をするとヴォルスターに剣を向けた。
「なんだ?目付きが変わったな。なんかするのか?」
「・・・勝つ。」
「へえ。面白い。やってみろ。」
ヴォルスターはニヤリと笑うと一気に距離をつめて鋭い爪を振り上げた。しかし、春樹はさっきと同じように軽快に動きヴォルスターの爪攻撃をかわしたのだ。
「なっ!?さっきのはまぐれじゃねぇのかよ!」
ヴォルスターは連続で爪攻撃を仕掛けるが春樹は再び軽快に動きヴォルスターの攻撃を避けたり捌いたりした。
「なんだ!?いきなり動きが変わった!?」
(凄い。自分の体じゃないみたい。)
(実際俺が乗っ取ってるからその解釈であってる。)
(・・・)
(それより魔王様のところに行くぞ。)
(はい!)
春樹はヴォルスターが放つ真空の刃を初見で避けるとヴォルスターを踏み台にして飛び上がり百合の前に着地した。
「花崎さん、花崎さん!」
春樹は何度も声をかけるが反応はない。
「無駄ですよ。今、彼女は新たな魔王様になるために自身を封じている状態です。」
カラスの翼が生えている執事風の男が説明する。しかし、春樹は全く耳を貸さずに声をかける。すると、踏まれてたヴォルスターがイラついて向かってきた。
「上等だ。今度は完全に溶かしてやる!裏切り者がぁ!」
ヴォルスターは一気に詰め寄ると鋭い爪を春樹の首に向けた。その時、春樹の中にいるソリュウが声をかけてきた。
(俺に変われ。)
(え?)
春樹は理解出来ずにいると急に意識がとんだ。そう思っていたら春樹の体がいきなりさっきまでとは段違いになりヴォルスターの攻撃を避けると彼の全身を切り刻んだ。
「な、に・・・」
「《センザンリュウ》。」
ソリュウが剣を振るとヴォルスターが倒れた。その様子を見た他の魔族達は驚いていたがさっきの執事風の男だけは拍手をして称賛していた。
「さすが魔王軍No.2、戦獄魔刃のソリュウさんですね。」
「・・・」
男に褒められも尚、黙っているソリュウは体の主導権を春樹に譲ると百合のところに向かった。
「花崎さん!」
「無駄ですよ。」
何回も呼び掛ける春樹に男は再び無駄だと言う。すると、百合の体が少し動き涙を流した。
「・・・もしかして、藤守、くん?」
「花崎さん!?」
反応し、しかも自分を覚えていてくれた百合に春樹は涙を流して喜んだ。
「まさか!」
これにはさすがに驚いたのか驚愕の表情をしている。
「ここは?」
「良かった~!」
(感動の再会のところ悪いが変われ。)
(え、また!?)
再会を喜んでいると主導権を奪われた春樹はソリュウとして男を見た。
「見ての通りだ、クロクス。もう現魔王派は俺だけみたいだから俺達はここを去る。」
ソリュウは執事風の男、ソリュウに宣言する。周りの魔族達はそれを認めたくないのか猛反対する。しかし、ソリュウが一睨みすると全員黙ってしまった。弱体化しているとはいえ魔王に次ぐ実力を持つソリュウに戦いてしまったのだ。
ソリュウは魔族達が黙るのを確認すると主導権を春樹に戻した。それを見ていた百合はポカンとしていた。
「・・・何?」
「えっと、詳しい話は後で。」
そう言って春樹は百合をつれてさっさと魔王城を出た。クロクスはそれを追わずに見届けると倒れているヴォルスターを叩き起こした。
「起きなさい。しぶといのが強みのあなたがこれぐらいで死ぬわけないですよね?」
「当たり前だ。だがあの野郎、全身の関節や腱を切り裂きやがったから再生するのに結構時間がかかっちまう。それより何故逃がした?」
「あなたに劣る私が今のソリュウさんを止められると?それにどうやら、魔王様にも考えがあるみたいですしね。」
「はぁ?なんだそれは?」
「さぁ?ここは一先ず様子見といきましょう。」
クロクスは少し笑うと春樹達が行った方向を見た。
春樹は魔族の街をなんとか出ると今までに起こったことを百合に説明した。もちろん、百合は理解出来ていないし信じてもいない。そのため、春樹は主導権をソリュウに渡して説明を求めた。
「・・・つまり、俺が新しい体のためにこれをこの世界に召喚した。そして、あなたが次の魔王になるために召喚されたのだ。」
「ごめん。まだ理解出来ない。」
「じゃあ、理解しなくていい。」
(諦めた!!)
ソリュウは主導権を春樹に戻した。春樹はしばらく悩むと百合に手を伸ばした。
「とりあえず、第2の人生を楽しもうよ。この世界で。」
「う、うん。」
百合は春樹の手を取って頷いた。すると、主導権を勝手に取ったソリュウが説明を付け加えた。
「言い忘れていましたがあなたはこの世界では樹の魔王リーラとして転生しています。」
「・・・ねぇ、それどうにかならない?二重人格みたいで怖い。」
「慣れてください。」
こうして、二人(?)は新しい世界で生きて行くことになった。
「・・・ゲッゲッゲッゲッ。」
その様子を門の上にいた石像が動き出し不気味な笑い声を上げて見ていた。