そして、
◆
「……残念だね、【救世主】。神様なんていないんだよ」
ひそやかに、そして自虐するように。すべてを見ていた人物は呟く。
「もしそんなものがいるんだったら、とっくの昔に、僕が――」
続く言葉を、聞く者はいない。何故ならその空間には、他に誰も存在しないからだ。
「世界の命運は決定した。【魔王】は【救世主】の手によって【刻印】を傷つけられ、存在が消滅した。――少しばかり、邪道な方法だったけれど、それは前も同じだしね」
まるで【魔王】が【救世主】を巻き込んで、自殺を図っているような有様だ。そうなってしまう理由も、わかるだけに文句は言えない。
世界は滅びを回避しようとする。【救世主】と【魔王】の選定が『世界』そのものに組み込まれている以上、そしてそこに手を加えられない以上、仕方のないことだった。
「これでまた一つ、ルールの穴は塞がれる。同じ手を二度許すように、この世界はできていないから」
そうしていつかの果てに、【魔王】が世界を滅ぼすのだ。そうなるように、ルールを作った。自分の時と同じように。
「早く、僕ごと世界を滅ぼして、新しい世界を作り上げてくれないかな。――ひとりは寂しすぎるよ。ねぇ、薄情者の【救世主】」
世界を作った――作り変えたという意味で〈神〉と呼ばれるかもしれない、かつての【魔王】は、そう独り言ちた。
◇
そうしていつかの未来、またしても選ばれた【魔王】は強い決意をもって呟く。
「私の【救世主】に、人殺しなんてさせないわ」
――それが、世界を滅ぼすことであると、わかっていて。