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第3話

 アルシオネは、加納が椅子に座り直している時も、一度も水晶を見ようとはしなかった。魔法陣がついている手袋をした手を下ろして膝に置いてから言った。

「現在の加納様に、実子はいらっしゃいません」

 その答えを聞いて、加納は笑い出した。

「会社の経営が傾いてから、今までに、いろんな占い師の所に通ってきたが、子供がいないと言ったのは、あんたが初めてだ。先日、渡された紙に、生年月日や家族構成などを書き記したのだが、あんたはそれを読んでないのかな?」

「読ませて頂きました。読んでいるだけで、現在の加納様の不遇が水晶に映り、それを見た私は目頭が熱くなりました」

 アルシオネは、子姫の能面の奥から加納の表情をじっと見続けながら続けて言った。

「加納様。すぐではございませんが、転機が訪れます。その転機により借金を全てご返済され、富を築かれます。ですが、遺産はご家族に分配されないほうがよいかと――」

 アルシオネの言葉の途中で、加納はまた立ち上がった。

「あんたの占いは、もううんざりだ!」

 子姫の能面は加納を見上げた。見上げただけで、何も言わない。

 加納は、アルシオネを嘲りながら言った。

「今の私の家族は、確かに私に対して冷たい。それはだな、事業を失敗してショックを受けている私に、どう言葉をかけていいのか分からないからだ。なぜそれが分かるかって? 妻と子供たちが私にそう言ったからだ。でもな、もう1つ付け加えて言ったんだ。何があっても、ずっと家族は一緒だと」

 加納は、足元にあったスーツケースを掴んだ。

「そういう訳だ。ここには二度と来ん! さよならだ」

 加納は水晶の前に一万円札を一枚置いた。

「加納様。おつりを今お出し致しますので――」

 アルシオネが机の下から金庫を取り出すが、加納はアルシオネに背を向けた。

「つりは、いらん! 怒鳴った迷惑料だ。とっておいてくれ」

 そう言うと、加納は部屋を出て行った。

 アルシオネの子姫の能面は、加納が出て行った出口をずっと見つめていたが、しばらくしてから下を向いた。子姫の視線の先には、加納が置いていった一万円札がある。魔法陣が描かれた手袋は、その一万円札を掴むときちんと端を合わせて二つに折りたたんでから金庫の中に入れた。

 占い。

 その占いにより、出た結果は何を意味するのか。

 人々は、当たりか外れかの二通りで判断する。

 占いに人生を委ねる者。占いを信じない者。それも人それぞれ。

 今回の占いの結果はどういう事なのか。全てを知るのはアルシオネのみである。

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