05 ゾンビの街にいるドM
街を歩いている連中は、俺より背の高い奴ばっかりだった。
低いであろうドワーフや子どもの数は多くない。
みんな強そうだな、筋肉隆々ばっかりだぜ。
それも男だけじゃない、女性もだ。
俺と同じように露出の高いお姉さんがたくさんいる。
しかし腹筋は六つ、いや八つに別れている。
すげぇ硬そう。
それに引き換え俺のは、突き出てはいないがやわらかい。
こんなんだからゾンビごときにやられるんだ。
そうだ、彼らのステータスを確認しとかなきゃな。
たぶんレベル10以上はあるだろ。
さっそく言ってみた、小声で。
「ステータスオープン」
――――
【ステータス診断書】
名前:ユーリア・ヤケシュ
性別:女
年齢:15
種族:ヒューマン
職業:騎士
属性:火
レベル:2
経験値:1/6
固定スキル:【死に戻り】【???】
体力:2
マジックポイント:1
素早さ:3
攻撃力:2
物理防御力:3
魔力:1
魔法防御力:1
命中:1
回避:1
運:1
所持金:0モベロン
――――
「って俺のじゃねぇか!」
怒鳴ったせいで、周囲の視線を一気に集めてしまった。
俺は慌ててその場を立ち去る。
どうやら他人のステータスの紙は出てこないようだ。
早歩きしながら考えていた。
さてどこへ行こう?
日も傾いてきた。
ゾンビ出現まで、あと一時間といったところだな。
やっぱり異世界といえば冒険者ギルドか、そこへ行ってみるか。
でも俺みたいな最弱な奴を、はたして仲間にしてくれるだろうか?
もしパーティーに入れたとしても、弱すぎてすぐに追放されそうだ。
まあいいさ、当たって砕けろだ。
目的地の冒険者ギルドは、しばらく歩いたら到着出来た。
ゲームやアニメの経験があるからな、だいたいの場所は予想がつく。
ところが、中にいるのは受付のお姉さんだけだった。
「みんなクエストに出かけたにゃ。キミもがんばってにゃ」
猫の姿をしたその人は笑顔を送ってくれた。
俺は心を痛めた。
ここでゾンビをやり過ごすという選択肢もあるが、受付嬢を巻き込むわけにはいかない。
純粋そうな人だ、きっと多くの人から慕われているだろう。
ピンチになったら、誰かが駆け付けてくれるはずだ。
俺が強いならいいけど、最弱だからな。
足を引っ張るだけだ。
俺なんていない方がいいのだ。
ギルドをあとにした俺は、空を見上げた。
さっきまで青々としていたが、黄金色へと変わりつつある。
いよいよゾンビが出てくるのか。
へっ、大丈夫だ。
俺の周りには、強そうな奴らがたくさんいるからな。
返り討ちだぜ。
と息巻いていると、例の紙が現れた。
――――
【クエスト発生、ゾンビの襲撃】
勝利条件
ゾンビを10体撃破
または
朝まで生存
敗北条件
ユーリア・ヤケシュの死亡
報酬
ゾンビ1体につき1000モベロン
――――
来るなら来やがれ!
今までの俺だと思ったら大間違いだぜ!
まさに虎の威を借る狐である。
情けない。
そしてホラー映画なので、このような態度を取った奴の末路を俺は知っている。
不気味なうめき声が聞こえてきた。
それも遠くからではない。
すぐ近く。
前や後ろ、右に左。
地面から出てきたのではない。
周りにいた人たちが、ゾンビに変身したのだ。
顔色は灰色に変わり、目は白くなり、歯は何本も抜け落ちてしまった。
そして、連中は一斉に俺に襲いかかってきた。
「うわああああぁぁぁぁぁ!」
気付くのが、あと一歩遅ければまた食い散らかされていただろう。
俺は身を低くして、連中の手をかい潜った。
そのあとは、とにかく全力疾走だ。
後ろから手が迫ってくるのを感じる。
ポニーテールを捕まれそうだ。
長髪はダメだな、切った方がいいか?
今度は前から、数体がぎこちなく歩いてきた。
道の幅は狭く抜けられそうにない。
しかも背後からは別のゾンビたちが迫っていた。
だから剣で応戦しようとしたけど、最初の死亡の時を思い出した。
遅いからといって、不用意に間合いをつめない方がいいな。
俺は地面を蹴って砂を飛ばした。
目に入ったらしく、ひるんでくれた。
この隙に俺は、横をすり抜けようとした。
ところが。
左腕を噛まれた。
痛みを必死にこらえて振りほどく。
俺を噛みついたゾンビの口は赤くなっていた。
くっ……俺の……美少女の血を!
八つ裂きにしてやりたかった。
でも無謀だろう。
たくさんのゾンビがいるのだから。
……いや一対一でも負けるな。
俺はもう何も考えず、ただひたすら走り続けた。
夜になった空は星がとても綺麗だった。
逆に街の中はゾンビだらけで不気味である。
俺は、屋根の上から見下ろしながら、そんな事を考えていた。
夜明けまで、あとどれくらいだろう?
時計なんて持っていないから分からない。
でもいいさ。
ここは安全だ。
朝までおとなしくしていれば助かるんだから。
仰向けになって夜空を見上げる。
あの受付嬢は無事かな?
それともあの人もゾンビに変身したのかな?
まあ今さらそんな事を考えてもどうしようもねぇけどよ。
明日からどうしようか。
前世ではぼっちを貫き通していたけど、やっぱり仲間が欲しいな。
でもこんな俺を入れてくれるパーティーなんてあるのかな?
このクエストって初級向けなんだよな?
それすら満足に達成出来ないんだぜ。
ゾンビ1体も倒せない俺が果たして貢献出来るのだろうか?
ビビって逃げ出した腰抜け野郎なんかに。
答えは否だな。
俺を必要とするパーティーなんていない。
でもさ、さすがに一人旅ってわけにもいかないだろ、弱すぎるんだから。
どうにかしてレベル上げないとな。
そういえば、クエストクリアすれば経験値もらえるんだろうか?
少しは欲しいな。
身体が震えてくしゃみが出そうになった。
バカ、下のゾンビに気付かれるだろうが。
だから慌てて手で隠して、くしゃみをした。
冷えるな。
雪は降っていないし、吐く息も透明だから秋や冬ではないと思うけど
でもさすがに夜で、しかもこんな薄着じゃ寒すぎるだろ。
金が入ったらちゃんとした服を買おう。
身を起こして、体操座りをした。
胸が膝にくっつく。
その脂肪の塊から熱が放出され、身体全体を温めているようだった。
さっきゾンビに噛まれた左腕の痛みも、何だか和らいだように感じた。
……そうだ、色仕掛けでパーティーに入れてもらおうか?
野郎しかいないところなら歓迎されるはずだ。
でも、辱しめられたらどうしよう。
俺の初めてが、おっさんとか冗談じゃないぜ。
そんな同人誌やゲームでよく見た光景を想像しながら、体操座りで顔を赤らめる美少女。
徐々に明るくなってきた空の光に照らされた肉体は、何というか奇妙な魅力に映った。
「? あ、あれ?」
真横に俺と同じ体勢の、露出度の高い服を着た巨乳美少女が体操座りをしていた。
鏡だ。
なんで建物の屋根にあるんだよ?
俺は、ゾンビに気付かれてしまう危険を忘れて、怒鳴ってしまった。
「お前なぁ! いったい……今まデど……コほっツキ……回ッテタンダヨ……」
――?
あれ?
声が変だぞ。
喉がおかしいのかな?
と思って両手で触っていると、鏡に映り出された俺の姿がゾンビになっていた。
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