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02 ステータスオープン、そして死亡

 目の前に現れた紙は、ひらひらと床に落ちた。

 それを取ろうとしゃがむと、でかい胸が邪魔をする。

 重量のありすぎる物体をふたつもぶら下げているものだから、前に倒れそうになったのだ。

 右手で暴れる胸を押さえつけ、左手で紙を拾った。


 それには以下の事が書かれていた。


 ――――

【ステータス診断書】


 名前:ユーリア・ヤケシュ

 性別:女

 年齢:15

 種族:ヒューマン

 職業:騎士

 属性:火

 レベル:1

 経験値:1/3


 固定スキル:【???】【???】


 体力:1

 マジックポイント:1

 素早さ:3

 攻撃力:2

 物理防御力:0

 魔力:1

 魔法防御力:0

 命中:1

 回避:1

 運:1


 所持金:0モベロン

 ――――


 うわっ、何だこれ、低すぎだろ。

 ほとんど『1』ばっかりじゃねぇか。

 しかも防御面にいたっては『0』ときやがった。

 まあ、こんな薄着じゃ当たり前だよな。

 ジャンプしただけで死ぬ古いゲームを思い出した。

 この世界の平均的な能力値は分からないが、厳しい状況と考えていいだろう。

 他の奴だったら絶望するはずだ。


 しかしドM変態の俺にとっては燃える性能だ。

 弱キャラを活躍させてやるのがゲームの醍醐味ってやつよ。

 ところで固有スキルが不明なのが気になるな。

 基本スペックからしてあまり期待は出来ないが、もしかしたらぶっ壊れスキルかもしれない。

 まあ、そのうち表示されるだろう。


 さて戦闘力は、取りあえず置いておくとしてだ。

 キャラとしての萌えを見てみようではないか。

 弱くても愛さえあれば何とかなるからな。

 俺が転生したこの娘の名前はユーリア・ヤケシュっていうのか。

 略して『夕焼け』だな。

 前世の俺の名前とは似ても似つかない。

『ユーリア』は欧州じゃよくある名前みたいだけど、『ヤケシュ』って名字はチェコだよな。

 ゲームに出てくる中世ヨーロッパ風の世界って、だいたい英語やフランス語やドイツ語が多いから中欧ってのは珍しい。


 しかし属性が『火』か。

 俺は自分の髪を払ってみた。

 前世の短髪とは違い、この世界の俺は長髪だった。

 それは別にいいのだが、問題は色。


 紫なのだ。


 火属性だったら普通は赤い髪じゃないのか?

 しかし髪の色よりおかしな事がある。


 この美少女は15歳だって?

 こんなに巨乳なのに?

 スタイルもいいのに?

 20歳前後じゃなかったのか。

 まあ顔は幼さが残っているな、15歳も納得がいく。

 身長は……前世の俺が175cmだったが、今は160くらいか。


 で職業が騎士だって?

 へそ出しで?

 肩や二の腕、脚も丸出しなのに?

 背中もスースー風が当たって寒いから、むき出しだろう。

 薄着だからてっきり暗殺者だとばかり思っていた。

 まさかこの格好で騎士とはな。

 腰にベルトで下げられた鞘が、かろうじて騎士と証明しているようだった。


 あ、一応鎧もあったな。

 肘から手にかけて、膝から足にかけて……盾が欲しい。


 さて低スペックなら仕方がない、さっさと経験値稼いでレベルアップしないとな。

 所持金も無しじゃ回復アイテムも買えねぇ。


 しかしそこへ新たな問題が発生した。

 しゃがんだまま動けなくなってしまったのだ。

 身体の前に、巨大で過重な脂肪の塊を装備しているのだ。

 重力が前方に引っ張られているため、立ち上がる事が出来ない。


「ち、ちくしょう……気合いだ……気合いを入れろ! うおぉぉりやあぁぁぁ!」


 美少女らしからぬ奇声を上げて、俺はようやく立ち上がる事が出来た。


「ハァハァ……」


 しゃがんで立つという単純な動作をしただけなのに、ものすごく疲れてしまった。

 フィクションに出てくる巨乳キャラたちがいかに大変な苦労をしていたのかを、今になってようやく理解出来た。

 貴女たちのおかげで、俺は素晴らしい青春を謳歌させていただきました。

 ありがとうございます。


 それはさておき、今の俺の荒い呼吸はなかなかの魅力を感じるものだなぁ。

 ただ勘違いしないでほしい。

 俺は様々なゲームを遊んできたが、エロ過ぎとグロ過ぎは嫌いなのだ。

 やはり一般向けが一番だ。

 シンプルな描写から、あれこれ想像するのが楽しい。

 特に酷い目に遭うシーンは。

 それが被害者に感情移入するドMの嗜みだ。


 しかしここはゲームじゃない、新しい現実世界なんだ。

 セーブもコンティニューもあるとは思えない。

 だから前世のゲームでやってた、わざと攻撃を受けて喜ぶというドMな行動は自重しなければいけない。


 死んだら終わりなんだ。

 こんな美少女を死なせてはいけない。


 今の俺は最弱で間違いないんだから、慎重にいかないとな。

 詳細不明のふたつのスキルも気になる。

 この露出度の高さから予想するに、ひとつは『色仕掛け』だと思う。

 これで敵の戦意を奪うのだ。

 ただし男にしか効果がない。

 敵が女ばっかりだったら終了だな。

 明らかに嫉妬されそうな風貌だし。


 などと考えていると、部屋の中が急に黄金色に輝いた。

 窓から夕日が入っていたのだ。

 夜に行動するのは危険だよな。

 絶対レベルの高い敵が現れる。

 俺の異世界転生冒険は明日から始まるんだ。


 と意気込んでいると、また目の前に紙が出現した。

 それにはこう書かれていた。


 ――――

【クエスト発生、ゾンビの襲撃】

 勝利条件

 ゾンビを10体撃破

 または

 朝まで生存


 敗北条件

 ユーリア・ヤケシュの死亡


 報酬

 ゾンビ1体につき1000モベロン

 ――――


 分かりやすい内容だ。

 最初のクエストなんだから、敵は弱いはず。

 たったの十体くらい余裕だろ。


 そんな風に意気揚々としていると、不気味なうめき声が近付いてきた。

 そしてドアを乱暴に叩く。

 俺は剣を抜いた。

 銀色に輝いている。

 新品っぽいけど、初期装備だからたいした性能ではないだろう。

 金がたまったら強い武器に変えるつもりだ。

 でもそれまではよろしくだぜ。


 激しく叩かれ続けたため、ドアは今にも壊れそうになっている。


「さあ、かかってきやがれ!」


 俺は一回せきをした。

 せっかく美少女に生まれ変わったんだ。

 それらしい言い方をしよう。


「さあ、かかってらっしゃい! 私の剣で切り刻んであげるわ!」


 鏡に映っている時はあどけなさがあったが、今のセリフで凛々しい顔立ちになったように思えた。


 目の前のドアに目をやると、派手な音を立てて壊された。

 そして、ついにゾンビが入ってきたのだった。

 その数たったの1体。


「楽勝だぜ――いえ、楽勝だわ!」


 俺は斬りかかる。

 ところが相手の方が速かった。

 俺の剣は弾き飛ばされ、接近をゆるしてしまう。

 ゾンビの息が、俺の鼻に入った。

 魚を何日もほったらかしたような悪臭に、美少女だけど我慢出来ず吐いてしまった。


 ゲロをかけられても、ゾンビは全くひるまない。

 俺の肩を掴み、そして首筋に噛み付いた。


「いってぇぇぇぇ!」


 女の子なら『きゃあ』という悲鳴だと思うのだが、残念な事にそんな変態をやる余裕は無かった。


 ゾンビに壁へと押し付けられた俺は、さらに噛み付かれた。


「痛い! 痛い! 痛い! マジやめろ! ボケ! 殺すぞコラ!」


 外見からは想像もつかない罵声を浴びせる。

 しかしゾンビは、俺の身体をむさぼり食い続ける。

 指を数本失い、片方の脚も消えていた。

 鎧なんて全く役に立ってない。


「ぐはっ!」


 何度も血を吐いた。

 それは口から首に伝わり、鎖骨を通って胸と胸の間を流れ、へそのくぼみに到達した。


 ふと、苦痛にゆがめている俺の顔が、鏡に映っている事に気付いた。

 生命の危機のはずなのに、その顔からは色気を感じてしまった。


 ドMにも限度があるぞ。

 己の異常さに飽きれ果てた瞬間――意識が消えた。

お読み頂いてありがとうございました。


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