01 ドMの俺。異世界で美少女に転生する
突然だが俺はドMである。
なぜならフィクションの登場人物が酷い目に遭う場面が大好きな変態だからだ。
ゲームを遊ぶ場合、みんなはラスボスを倒す事や、高得点を取る事を優先するだろう。
しかし俺は違うのだ。
女性キャラクターを選び、わざと攻撃を受ける事を優先するのである。
そして彼女たちの苦しむ姿を見て興奮するのだ。
被害者の女性に感情移入する、それはすなわちドMな『変態』と呼んで間違いない。
俺はRPG、アクション、格ゲー、様々なゲームを遊んだ。
特にお気に入りなのは横スクロールアクション。昔ながらのドット絵で描かれた女性キャラのやられ姿は、俺の妄想を無限に広げてくれる。
だが俺の趣味はゲームだけにとどまらない。
漫画やアニメで登場する女性が、酷い目に遭っていないかを最優先でチェックする。
そしてそんなシーンがあろうものなら、俺は大喜びした。
数ある作品の中には、女性は死んでしまう物も多い。
一般の人は嫌な場面であろう。しかし俺にとっては、それがまた楽しいのだ。
いや言葉が悪かった、あんなに可愛い女の子が理不尽に殺される姿に、喪失感というのか背徳感といった奇妙な快感を得るのである。
『死』という人生で一度しか体験出来ない事を、フィクションであれば何度でも、さらに様々な最期を味わえるのである。
そして俺は彼女たちをあれこれ想像した。
家族はいるのか?
幼少期はどのようにすごしていたのか?
痛みはどんな感じなのか?
何を思いながら死んでいったのか?
やはり死にたくなかったのか?
もっと生きていたかったのか?
気になる事は多い。
でも俺は自分の事をドSだとは全く思っていない。
常に被害者に感情移入し続けていたからだ。
つまり俺はドMで間違いないのだ。
しかし、いくら架空の人物とはいえ、彼女たちの命を無駄にしてきた事は疑いようのない事実だ。
彼女たちの不幸を喜ぶという、人として最低な野郎である事は間違いないのだ。
だから俺はついに天罰を受けた。
いや、おそらくは彼女たちの怨みが影響したのであろう。
俺は流行り病で死んだ。
三十歳すぎた独身、消えても誰も悲しまないクズは終わった。
もっと生きていたかったけど、奇妙な趣味のドM変態がこれ以上この世にとどまる事なんてゆるされないだろう。
これも運命、潔く受け入れようじゃないか。
◆
と思っていたら生きていた。
死んだはずの俺は目を覚ました。
病院のベットではない。
あそこは金属の檻だったが、ここは木材ばっかりだ。
意識が朦朧としていて、はっきりとは見えないが、俺は古い木造の部屋にいるようだった。
窓の外からは人々の声が聞こえてくる。
のぞいて見て驚いた。
中世ヨーロッパみたいな街並み。
そこを歩いている人は人間だけじゃなかった。
エルフにドワーフにリザードマンなど様々な人たちがいたのだ。
角が生えているのは鬼族か?
空を見上げると、ドラゴンが何匹も飛んでいたのだった。
日本じゃない……いや地球じゃないだろ。
――異世界転生したのか?
だいぶはっきり見えるようになったが、まだ少し朦朧としているみたいだ。
ふらついて倒れそうになったのだ。
じゃあ、アニメでよくある展開のチート無双やハーレムとかがあるのかな?
他の奴だったら喜ぶだろう。
でも俺はあまり嬉しい気持ちにはなれなかった。
なにせ、前世じゃずっとボッチだったからコミュ障なのだ。
それはつまりハーレム作っても、逆に女の子たちの視線が鬱陶しく感じるだろう。
それにチート貰ったって何すんの?
魔王倒したり、世界征服したりとか? 恥ずかしい。
一人の方が気軽だ。
目立つの嫌いなんだ。
学校でみんなの前で作文読まされた時は、死にそうなくらい恥ずかしかった。
前世があれだったんだから、今回もボッチでのんびり生きようと思う。
どこかの田舎で畑仕事でもしよう。
そう考えて窓から放れようとすると、胸が激しく動いた。
胸があまりにもでかい、冗談抜きにでかすぎる。
俺の顔くらいの大きさはあるんじゃないのか。
ふたつの物体は、まるで別の生き物のように好き勝手な方向に暴れた。
何だ? デブになっているのか? 前世は ガリガリに痩せてたのに。
しかし腕は細かった。
脚も腹も同様。
意識は、今この瞬間はっきりした。
やけに寒いと思ったら、何だこの服装。
ほとんど裸じゃねぇか。
しかしパンツだけを、はいているわけではなかった。
だいたいなぜ胸はご丁寧に隠されているんだ?
俺は男なのに。
上半身なんて裸でいいだろ?
これじゃまるで水着のビキニみたいだ、恥ずかしい。
くそ! 短いスカートまではいていやがる。
おまけにその下はブルマみたいなパンツときた。
女装の趣味はねぇんだぞ。
……脱いだら完璧に女だった。
気になっていたから触ってみたくなった、巨乳を。
しかし手を近付けようとすると、戸惑いの気持ちが強くなってそれ以上進めない。
だってそうだろう、いくら自分自身とはいえ、女性の胸を触るなんて痴漢行為を出来るわけがない。
……でもちょっとだけなら、それにこの部屋には俺しかいないから大丈夫だろう。
でかい胸はとてもやわらかかった、気持ちいい。
……それから俺は、身体の隅々まで徹底的に調べたが、男である証拠はどこにも存在しなかった。
――おっさんだった俺が、女性に転生しただと!?
しかしそれは悲劇ではない。
俺は生前の趣味として、酷い目に遭う女性たちに感情移入してきたドMなんだぞ。
むしろ女の身体になれた事は幸福な事ではないか。
「まあ、しょうがねえか――っておい!」
女として生きるのも悪くないかと思って喋ってみたら、やたら可愛い声で焦ってしまった。
しかし嫌な気持ちはしない、むしろ喜びに近い感情だ。
肉体のみならず美声まで手に入れているのだから。
この声で悲鳴を上げたらどんな感じになるのかを想像するとたまらない。
ドMの変態としての血が騒ぐというもの。
今の俺はスタイルと声から考えて美少女に該当するだろう。
しかし鏡がないから顔は分からず、自信なんて持てないけど。
と思ったら真横に、すごい美少女が立っていた。
それが鏡に映った俺であると気付くのに、しばらく時間がかかった。
……ゴクリッ。
「う、美しい」
そういえばこの子の名前が知りたいな。
まさか生前の俺と同じ名前じゃないだろ。
しかしどうやって確認する?
この薄い服には身分証明書なんて入っていなかった。
あ、そうか。
アニメでよくやるあれを言えばいいのか。
「えーと。す、ステータスオープン……」
口にするとすごく恥ずかしい。
しかも可愛らしい声だし。
こんな美少女に何て事言わすんだ。
しかも裸に近い服装だから、おそらくこの娘は『陽キャ』に違いない。
俺みたいな、負け組陰キャきもオタ野郎が使うゲーム用語なんて似合わねぇだろ。
それに肝心のステータス画面なんて出てこねぇし。
と一人で怒っていると、一枚の紙が現れた。
お読み頂いてありがとうございました。
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