7 獣人を殺すナイフ
「そうだ、これを君に授けるよ。」
彼は私に、茶色の革のような素材のケースに入った長細い形状の物を鞄から取り出した。
「これはね、獣人を殺すためのナイフだよ。」
「えっ。」
「獣人はね、困ったことに簡単には死なない。傷の治りも早いし、病気になっても魔法を使えば完治する。まあ、不老不死ではないから、いつかは命の灯火が消えるんだけど、それまでの期間が君達人間よりも遥かに長いんだ。
でもね、このナイフは俺の領土でしか採掘出来ない、ロアール鉱石という特殊な石で作られていて、相手の魔力を断ち切る事が出来るんだ。そうなった獣人は力を無くして急激に老いていき、自然と衰弱してそのまま天国へ行くのさ。
これを君にあげよう。もし、俺が何か危害を加えようとしたら遠慮なく、体の何処かを斬りつけるか刺してくれ。そうすれば、俺は死ぬから。
君は、自由になれるし、これは結構貴重だから、売ったら数十年間は働かなくても生きていけるよ。」
困惑する私をよそに、彼は楽しそうな声色で尻尾をゆらゆらと横に振りながら話している。
「これがあれば、少しは不安も消せるんじゃないのかな。それとも、試し斬りしてみるかい。今なら、あいつらに復讐が出来る。君には、その権利がありますよ。」
彼が指差した方向には、私に酷いことをしたあの兄弟が。仮面で表情は分からなくても、目の部分は開いている。その奥から覗く瞳は、私を試すように妖しく輝いていた。
優しいように見えて、結構残酷なことをさせようとするんだなあ。まあ、あの兄弟のように敵意を受けている訳ではないし、案外悪い気はしなかった。