5 仮面の男
こんな形で私の人生は、終わるんだ。
やり残したこと…すぐには思い浮かばない。
あの日常の中で、私が欲する希望は果たして叶うことが出来たのだろうか。
…もう頭も痛いし、余計なことを考えるのは止めよう。
私はゆっくりと目を閉じて歯を食いしばり、身体が焼かれる苦痛を待った。
しかし、何時まで経っても何かが起こる気配はない。視界が閉ざされ聴覚が鋭くなっている今、この場所が静寂に包まれていることに違和感を感じた。
「珍しい匂いに惹かれて来てみれば、女性に対して乱暴をするとは。全く、愚かな生き物だ。呆れて何も言えない。」
背後から聞こえた低い声は、優雅な大人の男性を思わせるものだった。
そして、こちらに近付き私の横で止まった。
私は、目を開けて視線を声のする方へ向けた。
「痛かっただろう。今、治すからね。不快かもしれないが、治療のため少し触れるよ。どうか、許してくれ。」
優しい声色。先程の人達とは違い、耳に馴染みやすい。
彼にも、灰色の動物の耳と大きな尻尾があった。
その人は跪き、私の頬と両手に軽く触れた。すると、痛みが引いていき、倦怠感や頭痛も無くなっていった。
しかし、彼の表情を読み取ることは出来ない。その理由は、花柄の絵が描かれた仮面により顔を隠していたから。