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彼はそれから2年ほど経った時、急に学校から消えてしまった。町からも、僕らの日常からも。小さな町では、噂は腐るほど回った。夜逃げだの、親が病気だっただの、いや子供が不治の病だっただの、親が手を挙げていただの。 どれが本当かなんて知らなかったけれど、昨日まで確かに側にいた人が、こんなにも簡単にいなくなるということを僕は人生で初めて思い知った。
彼の住んでいた家の場所を、不自然なぐらい誰も知らなかった。大人は皆口を噤んでいた。必死に見当をつけて向かった場所はまだ土も柔らかい空き地になっていた。
何人が僕と同じような気持ちでいたかはわからない。賑やかだった教室が嘘のように大きな存在をなくしても、また喧騒が現れるのに時間はかからなかった。
まるで彼自身がいるときは皆の関心を集め、晴れたら忘れ去られる雨だったようだった。彼が消えた街は何も変わることなく、僕の日常もなんら変わらなかった。中学を卒業して、高校に入り、大学はこの小さい町から遠くを選んだ。忙しい日々の中で、僕の中でのあの雨の日もいつしか梅雨明けの水溜りのように消えていってしまった。