うそっこ昔話 女神様の贈り物 ~神社におまいりするとき目をつむるわけ~
ごそごそ、ごそごそ。
今日もお兄ちゃんは眠れません。
ごそごそ、ばったん、くるりん、ぱたり。
暖かいふとんの中をいったりきたり。
「おにいちゃん、うるさいよ」
お母さんにくっついて、うとうとしていた妹ちゃんも起きてしまいました。
「しょうがないだろ。眠れないんだよ」
「お母さんにお話してもらう?」
「え~。母さんのお話しか~」
「してもらおうよ」
「「お母さ~ん」」
・・・まだオチができてないのだけれど。
隣のふとんで、眠れないお兄ちゃんのようすを見て、お話を考えていたお母さんの頬をツツーと一粒の汗がすべっていきます。
まあ、いいわね。話してるうちに思いつくでしょ。
「むかーし、むかし・・・」
お母さんの昔話が小さな声で始まりました。
☆
むかーし、昔。この辺りには小さな村と小さなおやしろがありました。
村の人はしっかり者で、一生懸命働いておりました。
あ。あと、学校の宿題とお手伝いをして、ゲームはあまりしませんでした。
「なんか、付け足してない?」
お兄ちゃんが暑くなった足をふとんから出します。
「そ、そんなことないわよ」
村の人は春、田んぼにお米を植えました。
大きくなあれ、すくすく育て。
村の人の願い虚しく苗はしおしおと萎びていきました。
その年の天気は悪かったのです。
「困ったな」
「ああ、困った困った」
「どうすりゃ、よかんべ」
村人たちもしおしおと弱っていきました。
「・・・ここは、私の出番ね!」
地上のおやしろから送られてくる声を、雲の上で聞いた女神様は張り切りました。
「行きなさい。着け睫毛!」
夜、女神様の睫毛のふさふさ感が田んぼの苗に降り注ぎます。
なんということでしょう!
しおしおと弱っていた苗がぱっちりメイクのようにピンとなりました。
朝起きた村の人もビックリです。
思わず目のサイズが大きくなりました。
こうして村は春を乗りきりました。
「鼻毛、あなたは行かなくていいの、と言うか女神に鼻毛ってありえないでしょ!」
女神様は鼻を押さえてました。
夏、稲にまたピンチが訪れました。
「雨が、雨が降らないだ」
「春、降りすぎだったべか」
「もう、飲み水もないだ」
「地球温暖化の影響か?」
「レジ袋を止めてエコバックにするべ」
村人たちも大混乱です。
「・・・ここは、私の出番ね!」
春の、自分の活躍に満足して居眠りしていた女神様は張り切りました。
「いけ、潤艶リップ!」
夜、女神様の唇の透明感マシマシの艶めきが村の溜め池に降り注ぎます。
なんということでしょう!
あっという間に池は綺麗な水でいっぱいです。
朝起きた村の人もビックリです。
思わず溜め池から水を飲んで喉をうるおしました。
ひび割れていたた唇もツヤツヤです。
こうして村は夏を乗りきりました。
「よだれ、あなたは行かなくていいの、と言うか女神が居眠りでよだれ垂らすとかありえないでしょ!」
女神様は袖でごしごしと口許を拭いていました。
秋、稲はたわわに実り、育ててくれた村人に頭を下げて揺れています。
「困ったな」
「困ったな」
「桃が赤くならないだ」
「お姫様も楽しみにしてるだに」
でも、村人は頭を上げて心配そうです。
村の宝の桃の木の、なってる桃が白いままなのです。
「・・・ここは、私の出番ね!」
夏の失敗を反省して、稲だけ見ていた女神様は張り切りました。
「行け! 愛されチーク」
夜、女神様の頬の赤みが白い桃に降り注ぎます。
なんということでしょう!
桃が美味しそうにほんのり赤くなりました。
朝起きた村の人もビックリです。
興奮してみんな顔が真っ赤です。
刈り取った稲と実った桃は、お姫様の元に届きました。
あ。親に手伝ってもらってない、冬休みの友と算数のドリルと工作は先生に届きました。
「この話、ちょくちょく、誰かの望みが入るね?」
お兄ちゃんがふとんの上の毛布を蹴飛ばしました。
「そ、そんなことないわよ」
冬、やっと村の人に休みの時が訪れます。
傘を編んだり、魚を取ったり。
畑の仕事はちょっと休んで、別の仕事を始めます。
仕事してるんだかなんなのか、夜遅くなったのに帰ってこない、うちのお父さんもビックリです。
「お父さん、遅いね」
お母さんの腕の中で妹ちゃんも心配そうです。
「あっはっは。飲んでる? お父さん」
「はい、頂いてます」
「今年も、もう終わりだねぇ」
「来年も頼むよキミ」
「でも、今年は雪がまだ・・・」
「そうだ雪が降ってない」
「雪・・・」
「雪・・・」
「やっぱり、温暖化の影響だべか?」
お疲れ会をしていた、村人たちは不安そうです。
「・・・ここは、私の出番ね!」
一仕事終えてこたつで晩酌していた女神様は張り切りました。
「行け! 乳液と下地と美肌効果のあるオールインファンデーション!」
夜、白い高級感溢れる微粒子が村全体に降り注ぎます。
なぜか多目にこれでもかと降り積もります。
「べ、別に厚くなんかないから!」
女神様が意味不明です。
なんということでしょう!
一晩でどこもかしこも真っ白です。
「やっと雪が降っただ」
「雪かきせねば」
「んだ、んだ。大変だな」
「腰にくるだて」
村人たちが不平たらたらです。
でも、いつもどおりになった安心で、顔は輝いていました。
「粉、貴方は行かなくていいの。女神が乾燥で肌トラブルとかありえないでしょ!」
女神様は、オールインワンで使わなくなった保湿クリームを探していました。
ぺったん、ぺったん。
ご~ん、ご~ん。
チャリーン。
カラカラカラ。
二礼、二拍手、一礼。
「んぁ?」
クリームが見つからず、ふて寝していた女神様は自分を呼ぶ声で目をさましました。
おやしろの前では村人総出で着飾って、女神様の登場を待っています。
「ヤッバ! 寝過ごした!」
女神様は慌てて雲の上からおやしろに降臨しました。
「女神様、今年も・・・」
神主の言葉が途中で止まります。
「女神様・・・」
「お顔が・・・」
「ママ~女神様すっぴん!」
「シー! みちゃいけません!」
「そうだ、みんな目をつむれ!」
村長の一言で村人みんな目をつむりました。
いきなりすっぴんの女神様に会ってどうしようかと思っていたみんなは安心しました。
いそいで使い捨てのマスクと、サングラスでごまかそうとしていた女神様も安心しました。
「春、稲を助けていただきありがとうございます」
ガッシーン!
村長とお年寄りの感謝で女神様につけまつげが装着されました。
「夏、水をありがとうございます」
ウルルン!
男の人の感謝で女神様に潤艶リップが。
「秋、桃を真っ赤にしてくれて助かりました」
スッ、スッ!
女の人の感謝で愛されチークが戻ります。
「冬、雪をありがとー」
パタパタ! ヌリヌリ!
・・・ピカー!
子供たちの感謝でオールインファンデーションが戻った女神様のお顔が光を放ちました。
「うむ。来年も頑張るように」
輝きを取り戻した女神様は村人に大事な、大事な事を訪ねます。
「私の素顔は?」
「「見てません!!」」
村人の声が揃います。
「神社で私を呼ぶときは?」
「「絶対に目をつむります!!」」
こうして神社におまいりするとき目をつむるようになったのです。
おしまい
☆
蛇足一
「あらあら」
なんとかお話がまとまったわ。
お母さんは妹ちゃんを起こさないように、すやすや眠る、お兄ちゃんの布団をかけ直します。
ピンポーン。
お父さんも帰ってきました。
「あ・な・た? 今、何時だと・・・」
すっぴんの女性が恐ろしい。
正座して怒られている、お父さんの感想です。
蛇足二
「今年も凄い人出ねぇ」
賽銭を放り投げなきゃいけない神社で初詣したお母さんが、妹ちゃんのだっこをお父さんとかわりました。
「ぷ! お母さん・・・」
妹ちゃんをだっこしたお父さんが、お母さんから顔を背けました。
そのまま肩を震わせます。
「なあに? 突然」
お母さんは をひそめます。
「お母さん眉毛なーい」
いつでも子供は正直です。
人ごみでこすれて、書くのに十分かかったお母さんの眉毛が消えていました。
「女神様のすっぴんのお話とか作るから」
お兄ちゃんが振り返って神社に向かって祈りました。
「私、すっぴんでも美人じゃもん」
おしまい、おしまい
私はたぶん、わらわと読みません。
当て字では書くようですが。
この作品のルビは正しいのと違うのが混ざってます。
子供さんは注意してね。