ここいごろ
びきびきと青筋が立ちそうな勢いで、近澤は私を睨みつけていた。
私は鼻で笑ってそれからこう言い放つ。
「なんですか? 近澤先生。女子高生の太ももに見とれるとかセクハラですよーやだー」
わざと廊下に響くような大きな声で言うが、近澤は腰に手を当てたまま小さくため息をついただけだった。
それから近澤は、私のスカートを指さし強い口調で言う。
「佐藤、お前のその短すぎるスカートに呆れてただけだ」
「はいはい。校則違反だって言いたいんですね」
「わかってるんなら直せ」
「先生の前では嫌」
私がそっぽを向くと、再び近澤の大きなため息。
周囲の生徒たちが、「あーあ。佐藤のやつ、また近澤イジメだよ」とか「絡まれて先生も大変だなあ」なんでヒソヒソ話が聞こえてくる。
近澤がイジメられる、なんて玉じゃないでしょ。
私はそんなことを考えてから、その場でスカートに手をかける。
その瞬間、近澤は片手をこちらに突き出してストップの合図。
「わかった。ここで直すな。次見つけたら反省文だ」
近澤はそれだけ言うと、職員室へと歩いて行った。
入学してまだ三ヶ月。
厄介な生徒だと近澤に思われているんだろうな。
私はそんなことを考えて、女子トイレでスカートの丈を直した。
「莉緒ちゃんさー。まーた近澤先生に絡んでたよね~」
電車に乗りこんだ途端、隣に立った早乙女健がそう言ってくる。
私はどんどん後ろへ流れていく車窓の景色を眺めつつ、答えた。
「私が絡んでるんじゃなくて、あいつが絡んでくるの」
「ふーん。そうなんだ~」
早乙女はそれだけ言うと、こちらを見降ろしてくる。
百八十五センチの彼は体を折り曲げて、私のスカートを見たあとで、ぼそっと独り言のように呟く。
「今はスカート、膝丈より下直してるよね。全然、校則違反じゃない」
早乙女の言葉を、私は聞かなかったことにした。
やけに視線を感じて辺りを見ると、うちの学校の女子だけではなく、他校の女子生徒も早乙女をチラチラと見ている。
彫りの深い整った顔立ちは俳優みたいでスラリとした体型で背も高い早乙女は、ただ立っているだけで女子の視線を奪ってしまう。
おまけにわざと私に聞こえるようなボリュームで「えー。隣にいるの彼女ー? 地味じゃん」とか妬むような声まで聞こえるけども。
私は早乙女の彼女ではない。
同じクラスだし、席は隣だし、おまけに最寄り駅は一つ違うだけだから、自然と仲良くなっただけだ。
お互いに恋心はない。
それに、私はそもそも早乙女には興味がないし。
「莉緒ちゃんの恋って不毛だよね~」
早乙女が突然、そんなこと言いだしたので、私は奴を見上げる。
「は? 何の話よ」
「なーんでもない。お父さんとは仲良くしなよ」
早乙女はそう言ってにっこりと笑う。
私の背後にいた女子が「きゃー」と黄色い悲鳴を上げた。
私が何かを言い返そうとする前に、早乙女がこう付け加える。
「あ、でもちゃんと家族として、だよ?」
私はバカバカしくなって、車窓の外を眺めながら鼻で笑う。
「なーに言ってんだか」
視界に見えたのはぽっかりと浮かぶ大きな入道雲だった。
爆弾発言がされたのは、その日の晩ご飯の真っ最中だった。
母がうれしそうにこう言ったことがきっかけ。
「お母さんのね、親友が結婚するのよ。それでね、明日から実家に帰るつもりなの」
「えっ。そんなこと聞いてないけど」
「言ったわよー。莉緒ってばテレビ観てて聞いてなかったの?」
母が「やーねー。ちゃんと聞いてよー」と不満を言う中、私はハンバーグを箸で切る。
なるべく母の隣、つまり斜め向かいの席を見ないように努めながら、少ししょっぱいハンバーグをご飯で流し込む。
「一泊してくるってことか」
そう言ったのは、義父だった。
「そうなの。でも、莉緒と匡人さん二人で大丈夫かしら。ご飯が特に心配なのよ」
「大丈夫。心配せずに行ってこい。料理なら俺もできるし、なんなら莉緒もこれを機会に料理を覚えてもいいし」
「お母さんいないなら、私は明日からナミんとこ泊まってくる」
早口で言うと、私は「ごちそうさま」と手を合わせてテーブルを離れる。
すると、「莉緒」と呼び止められた。
こちらを見ている義父と、近澤の姿が重なる。
いや、重なるもなにも同一人物なんだけども。
私は「なに?」とそっけなく答えると、義父は「食べた後の食器をシンクに持っていきなさい」と注意してくる。
反抗しようと思ったけど、このあとすぐにナミに連絡を取りたいので素直に従う。
私がシンクに空の食器を置き、二階の自室に戻ろうとすると、母と義父が何やら楽しそうに話している姿が視界に入った。
私はそれを見ないようにして、足早にダイニングを立ち去った。
ナミは明日デートだと言って断られた。
それ以外にも、仲良くしている友人に明日の予定を聞いてみるが合コンかデートだった。
家に泊まらせてくれる子どころか、遊んでくれる友人は一人もいない。
私はベッドの上でスマホの画面をじっと見つめたまま固まった。
そうだ。早乙女は暇なのかな。彼女いないって言ってたし。
だけど、早乙女と何して遊べばいいんだ。ってゆーか、さすがに男子の家に泊めてもらうわけにはいかない。
じゃあやっぱ明日は、義父と……近澤と二人なのか。
『再婚したい人がいるの』と言って母が連れてきた男性を見て、私は驚いた。
だって私の担任教師だったからだ。
三者面談で近澤が母に一目惚れでもしたのかと思ったけれど、聞けば母と近澤は同級生らしい。
中、高と同じだったとか。
今年五月の三者面談で再会、お互いにバツイチ、しかもお互いに配偶者を事故で亡くしている、という共通点。
そこで親近感を覚えてうんたらかんたら。
そんわけで、先月に引っ越しをして新築の家で近澤と同居が始まったのだ。
母はもう十年以上も独り身だったから、同級生の懐かしい男性を見つけて幸せなのだろう。
近澤だって、母は童顔で娘の私が言うのもなんだけどかわいい感じの人だ。
だからきっと『学生時代と変わらない』と思って喜んで再婚したのだろう。
だけど私からしてみれば、四十歳のおっさんと同居、しかも担任教師だなんて気まずいどころの話ではない。ただの地獄だ。
それでも、近澤がイケメン教師ならばまだいい。
だけど近澤は、別にイケメンでもないし、体育教師特有の声のでかさと年中に日に焼けた無駄に筋肉がついた体型なので、存在そのものがうっとおしいのだ。
おまけにおでこが広くなっているのは、もともとじゃなくハゲる寸前なのだろう。
体型は普通なのだけど、これで中年太りでもしてきたら腹に一発蹴りでも入れてやるつもりだ。
もし、近澤が外見が残念なだけなら別に私だってこんなに冷たく当たらない。
いつも偉そうだし、頑固だし、冗談通じないのがもう嫌。
ってゆーかすべてが嫌だ。
家の中では一応、義父と言ってやってるけど、母には目を覚ましてほしいと常々思っている。
「そうか……。目が覚めるような何かがあれば、お母さんだって考え直すよね」
私は大きく頷いて、それからニヤリと笑った。
次の日は朝早くから母は実家に帰って行った。
母を見送ると、近澤がこちらを見て口を開く。
「そういえば、今日はどこかへ出かけるのか」
「別に」
私は近澤を見ずにリビングへ移動する。
ソファにどかりと腰掛けると、私はうーんと少しだけ考えてから近澤に話しかけようとしてやめた。
近澤はソファの横にある椅子に腰かけ、朝のやけにハイテンションな情報番組を観ている。
【――さんの離婚の原因は、性格の不一致を言われていますが、二人は結婚後すぐに別居をしているようで】
芸能人の離婚に近澤が興味を持つとも思えない。
このおっさんが、何に興味を持とうが私には関係のないことだけど。
でも、ゴシップ大好きとかだったら、それはそれで引く。
静かなリビングには、芸能人の離婚を推測するコメンテーターの声だけが響いている。
すると、突然、近澤が鼻で笑って小さく呟く。
「平和だな」
どういう意味で言ったのかわからないけど、これは私に返事をしろということ?
それとも今のは独り言?
そんなことをテレビの画面眺めながら考える。
……バカバカしい。
そう結論をくだして、自室に戻ろうと立ち上がると近澤がまた口を開く。
「膝の怪我、跡にならなくて良かったな」
やけに優しい口調でそう言われて、私は立ち止まる。
「膝の怪我ってなに」
「転んだだろ。五月の終わりころだったかな。保健室にちょうど野瀬先生がいない時で俺が手当てしたから覚えてる」
「そんなこともあったかもね」
私はそれだけ答えて、足早にリビングを出た。
ばたん、と勢いよくドアを閉めると、「もっと静かに閉めろ」とぴしゃりと近澤の声が飛んでくる。
「あんたのほうがうるさい」とだけ言って、私は自室にこもることにした。
近澤の弱みを握る。
それが昨夜、私の出した結論だった。
奴の弱みを握って、母にそれを教えれば、母も目が覚めるだろう、そう思ったのだけど。
そもそも弱みってなんだろう。
それに近澤だって、いい歳の大人だ。
こんな十六歳の小娘に自分の弱みをほいほい見せるわけがない。
ため息をついて、「やっぱりどっか出かけようかなあ」と呟くと、階下からコーヒーの良い香りがしてきた。
「そっかもう十時か」
私は天井を見たまま呟いて、それから勢いよく体を起こす。
そしてスマホで時刻を確認すると、まだ九時過ぎだった。
おかしい、いつも近澤は休日になると午前十時きっかりにコーヒーを淹れて飲んでいる。
だけど今日は一時間も早い。
これが近澤の弱みか、母がいない日は一時間も早く朝食後のコーヒーを飲む、と。
……なんて冗談は置いておいて。
それにしてもおかしいな、と思っていたら、階段を上ってくる足音が聞こえた。
「ちょっと出かけてくる。昼前には帰るつもりだ」
近澤はドア越しに言うと、また階段を降りていく。
なんだ、出かけるから早めにコーヒー飲んでたんだ。
ん? 出かける、ってことは!
躊躇した時間は三分もあるかないか。
入ってしまえばなんてことはない、ずいぶんと物がない部屋だった。
机、本棚、タンス、小さいテレビ。
それだけしか置かれていない部屋は、飾り気のないきちんと片付いた六畳ほどの部屋。
ここは近澤専用部屋で、『あの脳筋に書斎が必要? 怪しい』とは思っていた。
だけど、意外にも本棚に本はぎっしりと詰まってるし、机の上にも何冊か本があるし、パソコンもある。
本当に仕事部屋なのかもしれない。
体育教師が家に持ち帰る仕事ってなんなのよ、と思うけど。
だけど、寝室は母と一緒のくせに自分だけの部屋があるというのはやっぱり怪しい。
もし、母に内緒で何かを隠すのだとしたら、寝室ではなくこの部屋の可能性が高いだろう。
昼前までこの部屋が空っぽなら、絶好の弱み探しのチャンス。
「よーし、探すぞー」
私はそう気合いを入れて、部屋をうろうろし始めた。
あちこち探すと言っても、そもそも家具が少ないし、クローゼットもない。
そもそも探すって何を、という話だし。
とりあえず、法的にヤバい写真とかうちの学校の生徒宛てに書いたラブレターとか、お母さんもこれはやってられないという証拠があればいい。
私はそこまで考えてふと思う。
あるのか、そんなもん。
複雑な気持ちで、だけど今さらやめられなくて、近澤の部屋を漁った。
気分はまるで空き巣。
こんな気持ちを十六歳で味わうことになるとは……。
今後はまっとうに生きよう。
そんなことを考えつつ手を動かしていたら引き出しだの棚の奥だの何かを隠せそうな場所はすべてチェックし終えてしまった。
おかしい、何も出てこない。
私は顎に手を当てて考え込む。
「そもそもこの部屋、お母さんが掃除するから変なものを隠せないのでは……」
気づくのが遅すぎた。
とりあえず私は近澤の部屋を出ることにする。
午前十一時過ぎているので、そろそろ奴が帰ってくるかもしれない。
ぐるりと部屋を見渡し、それから机の引き出しが少し空いていることに気づいた。
これではバレてしまう、と思い、引き出しを閉め直そうとしたその時。
引き出しの底のほうに何かがあるのを見つけた。
写真っぽい、と思ってそれを引っ張り出す。
本当に一枚の写真だった。
それを見て私は思わず固まってしまった。
「何をやってるんだ」
背中からかけられた声に、私は心臓が口から飛び出そうになる。
「辞書を貸してほしいならそう言えばいいだろ」
近澤はキッチンでフライパンを自在に操りながら言う。
奴の部屋を漁っているのがバレた私は、咄嗟に『辞書、ないかなと思って』と嘘をついた。
そして近澤はまんまと騙されたのだ。
私はズボンのポケットの中を気にしながら、答える。
「だって昼前まで帰ってこないって言うから」
ダイニングにソースの良い香りが漂い、近澤がコンロの火を止めた音が聞こえた。
「佐藤、お前、そんなに勉強熱心だったか?」
真顔でそう聞いてくる近澤は、トレイに二人分の焼きそばと麦茶の入ったグラスを持っている。
これは部屋を漁ったの、バレてるな……。
さすがに辞書を貸してほしいだなんて言い訳は無理があったか。
そんなこんなで、まるでお通夜のような昼食が始まり、私が焼きそばを半分ほど食べた終えたところで近澤が口を開く。
「俺の部屋を漁って何をしていたのか知らんが、まあ、佐藤の考えそうなことはわかる」
私は動揺しているのを悟られないように、無言のまま焼きそばを口に運ぶ。
「今回のことは水に流す。お前も色々と複雑な心境なんだろう」
「だから?」
「だから」
近澤はそこで言葉を切ってから、わざとらしく咳払いをしてから続ける。
「明後日は早く帰ってこい」
「は? なんで」
「葉月さんは式は挙げなくていいと言っていたけど、明後日は葉月さんとは婚姻届けを出そうと決めている」
「そう」
「それで、今日は結婚指輪を取りに行ってきたんだ。ついでにケーキも予約してきた。明後日はパーティーをしようと思う」
照れくさそうに言う近澤の声が何だか遠くに聞こえる。
息苦しい。
「だからその、葉月さんと莉緒の三人でパーティーをしたいんだ。祝ってほしい」
その声を聞いた途端、意識がもうろうとした。
箸を床に落とす音が遠くで聞こえてくる。
「莉緒?」
近澤が私を呼ぶ声を聞いて、私は何だか妙に安心した。
ああ、そうだ。
私、この感覚を前にも味わったことがあるんだよね。
目を覚ますと、近澤の心配したような顔が真っ先に飛び込んでくる。
「大丈夫か? よく眠っていたみたいだが、どこか具合が悪くないのか?」
オロオロする近澤に、私は笑って見せる。
「大丈夫。体調はおかしくない。最近、眠れなくて」
「そうか。それなら」
ホッとする近澤に、私は聞いてみる。
「ねえ、もしかしてここまで運んでくれたのって」
「ああ、俺だ」
「ありがとう」
私がそう言うと近澤は驚いたような顔をしてこちらを見る。
目じりの皺も、ちょっと心配なおでこも、よく職質されるという目つきも、男性らしいたくましい腕も、低い声も、匂いも。
「私は全部、好き」
そばにあった近澤の腕に、私はしがみついた。
「おい、どうした? 熱でもあるのか?」
「ねえ、先生。私、初めては先生がいい」
「はあ? 何の話をしているんだ」
「わかるでしょ? 全部言わせないでよ」
「バカなことを言ってないで離しなさい」
「やだ。先生が悪いんだよ。最初はすごい怖い先生かと思ったら、保健室で手当てしてくれた時はすごく優しくて、それで好きになっちゃったんだもん」
私は先生を掴む手に力を込める。
「だけどお母さんの再婚相手として紹介されて。私の気持ち、わからないよね?」
黙り込む先生の腕はぴくりとも動かない。
この腕が私を押し倒すことも、服を脱がすこともないんだ。
そう思ったら急に何だか虚しくなってしまった。
だから、私は先生の腕にギュッと爪を立てる。
「いっ!」
顔をしかめた先生は、ようやく解放された腕に視線を落とす。
「ごめん。先生。さすがに初めてがいいとか全部冗談だよ。その腕の傷は、私が怒って爪を立てて掴んできた、ってお母さんに言えばいいよ」
「そうだな。俺は本当のことを葉月さんに言うのはかまわないが恥をかくのは莉緒だしな」
「ひっど」
「そうだ。莉緒が俺の引き出しから持って行った写真。あれは返しなさい」
そう言った先生は、完全に教師の顔だ。
私はズボンのポケットに入ったままだった写真を渡す。
それは幼い頃の私の写真だった。
「葉月さんに、『かわいかった頃の莉緒の写真、持ってて。まあ、今もかわいけど』とか言われて渡された」
「お母さんが言いそうなことだなあ。いらないなら捨てていいよ」
私の言葉に、先生はこちらを睨みつける。
それからまじめな顔でこう言う。
「これは俺の宝物だ」
「いやいや、無理しなくていいって」
「莉緒は、俺の愛する娘だ」
先生の言葉に、心がざわつく。
さっき告った女子に対して言う台詞じゃねーだろ、このどあほ!
そんな気持ちもあったけれど、私は先生がそう言ってくれたのが心からうれしかった。
そんなわけで、私と先生はゲームをしたり一緒に料理をつくったりして週末を過ごし、月曜日には母と近澤は正式に夫婦となったのだ。
しょうがないから私も早く帰ってあげたし、近澤と母におそろいのマグカップもプレゼントした。
近澤が泣いて喜んだのは、かなり驚いたけど。
「最近、莉緒ちゃんってさ、吹っ切れたって顔してない?」
あるお昼休み。
廊下の隅の自動販売機でジュースを買っていると早乙女がそう聞いてきた。
「まあ、失恋したしね」
そう言ったものの、心は随分と軽かった。
近澤莉緒になってもう一週間が経とうとしているから嫌でも現実は突きつけられるのだ。
「ふーん。失恋で女の子ってきれいになるんだね」
「早乙女、あんた私のことからかってんの?」
「いや、本音だよ」
早乙女はこちらをじっと見てから言うと、こう続ける。
「ねえ、俺が近澤みたいな大人になったら、莉緒ちゃんは振り向いてくれる?」
「私に聞くなよ」
「だよねー」
早乙女はそれだけ言うと、何も買わずに教室に戻って行った。
「変な奴め」と呟いたところで、廊下を歩いてくる近澤と目が合う。
そして、奴の視線は私のスカートへ。
「おい、まーた短くしてんのか」
睨みつける近澤に、私はにやりと笑ってこう言う。
「だって、校則違反すれば私のこと、見てくれるでしょ」
ため息をついた近澤に、私は笑顔で続ける。
「私、お父さんのこと大好きだもん」