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終章 ~ 月降(つきのいり) ~

 鳥かごをぶら下げた箒を肩に担いで丘を降り、芦別駅までの線路を歩いていた。

 今はもう廃線になっている路線だが、線路の途切れは、芦別駅からまだかなり先の方にある。そこを歩いているうちに、夜が明けた。

 それを見て、俺の数歩先を進むアルテが驚いた。


 《 見ろよ。太陽がもう、山の稜線より高く浮かんでやがるぞ 》

「そりゃそうだろ。日の出の時刻はとっくに過ぎてるんだからな」

 《 夜空から、部屋の照明をつけたみたいにパッと青空になったぞ! 》

「朱海さんがそういう風にしていたんだろ」

 《 何をどうすれば、そんなマネが出来るんだよ!! 》

「俺が知るか」


 いちいち興奮度を上げるアルテとは対照的に、冷静に返す。

 ルナたちとは、あのあとすぐに別れた。月没時間まではまだ間があったので、チカラを使って帰っていった。

 ちなみに彼女たちの去り方は。


 《 中空に印を切った途端、人が光の粒子に包まれて消えていくとこなんて、俺様初めて見たぞ 》

「そうか。俺は二回目だな」


 朱海さんが突然俺の部屋に現れたときの去り方も、あんな感じだった。


 《 そうかよ。それより、一緒に行かなくてよかったのか? ずっと隣にいるって言ってたのに 》


 うぐ。


「良いんだよ、離れていても、心はいつもそばにいるから」

 《 どの口がそれを言うんだ? 物理的な距離が離れると、心の距離も離れてくとかなんとか言ってたくせに 》

「うるせー」


 悔しいが、我ながらその通りだと思う。


「どの道、今すぐは無理だ。璃那の記憶が、というかルナが、璃那に受け入れられるまでは」


 と、蒼依は言っていた。次の十六夜までには、たぶん。と。普通の記憶喪失と違っていて前例も無いので、確実にそうなるかはわからないけど、とも。


 《 少なくとも一ヶ月は先の話か。大丈夫なのか? 余命いくばくもあるかわからないのに 》

「あと一~二ヶ月でどうこうなるわけじゃないし、いくらかは長生き出来そうだ」

 《 そうなのか? 》

「ああ」


 こちらは、悠紀が預ってきたという、朱海さんからの手紙でわかったことだ。読んでいて、懐かしい記憶がひとつ、よみがえってきた。

 そしてアルテに、俺がまだ小学生で、璃那と出逢うよりも前に。実の父親でツキビトの、古瀬樹(ふるせいつき)との話をした――。


 《 ――なるほど。それなら確かに、いくらか長生き出来そうだな。今と当時とじゃ、医学のレベルが月とスッポンだしな 》

「そういうことだ」


 どんな顔をして言ったのかわからないが、次のアルテの〝声〟は、いつになく弾んでいた。


 《 次の月夜が、今から楽しみだ 》


 朝陽に照らされて視界が開けた今も、線路の途切れは、まだ見えてこない。


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